30、施設
タケシは施設に入るといきなり身長が伸びて体つきが変わった。
千佳は島での生活で栄養が不足していたのではないかと心配したがタケシはそうは思っていない。
情報屋やスリの仕事をする時はいつでも相手を欺くために、小さくて弱い子供を装って相手を油断させる必要があった。その為、自分のマインドをも騙して仕事を遂行してきた。
その結果、自然と自分の脳が体の成長を押さえ込むように命令したのだのだろう。
だから施設に入り、危険な仕事から離れた途端に押さえつけられていた成長ホルモンが解放されて、それがすぐに体に反応が出たのだと思っている。
非科学的だといわれるかもしれないが体というのは思い込みや脳の命令である程度は操れる。重い病気や大きな怪我も自分の思い込みの強さで回復がまるで違う。
島では病気やケガがあれば自分で手の平を当てる事で治してきたし、仲間が傷ついていると優しく抱きしめて治癒してきた。
知らない人に様々な薬や器具で臨床治療される病院なんかよりも、家族の手でやさしく触られる事の方が体は喜ぶ。
医学や科学に頼らない島で生活してきたタケシとマリにとってそれは当たり前の事であったが、現代社会で生きる人たちからはふたりの考えは真っ向から否定された。
施設の中でタケシはマリを今まで以上にかわいがってやりたかった。
マリが新しい生活で怖いと感じる物すべてからマリを守ってやりたかったし、新しく兄となった自分を頼ってもらいたかった。
だから施設ではマリが一時もひとりにならないように気を配り、常にタケシの隣りに連れて歩いたし、施設の職員や仲間にはしゃべれないマリに代わってすべて受け答えした。
トイレに行く時もシャワーの時も一緒に行ったし、学校へ行く時はマリを先に送ってから登校し、帰りもマリの学校へ迎えに行って施設まで連れて帰った。
食事の時にタケシは必ずマリの隣りに座り、自分が美味しいと感じた物やマリの好物は自分の皿からマリに分け与えたし、マリが食事中に服を汚すことがあればタケシは急いでマリの服に口を近づけて服の染みを口で吸い取った。
マリが切り傷を負えばすぐに飛んで行って舐めたし、マリの顔が汚れていたら自分の服で拭いてやったりもした。
そんな二人の行動は周りには異常に見えるらしく、次第に二人は周りから孤立していった。
しかしマリはタケシが常に側に居てくれているからこそ、この環境に耐えられたし、またタケシも自分たちが施設内で孤立してしまっている事を特別嫌だとは思っていないようだった。
タケシは新しい生活で誰とも打ち解けず、常にマリと行動を共にすることで二人の側に誰も寄せ付けないようにしている節があった。
そうすることでマリがゆっくりと周りに馴染んでいくことを願っていた。
〈〈 次回、タケシはどのようにしてこの新しい世界で生きていくのか。ご期待ください。〉〉
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