29、戸籍
タケシとマリは兄妹だと偽って施設に入所する。
タケシは職員から両親の事を聞かれた時、母を幼い頃に亡くし、父と3人で暮していたがヤクザに追われて父が失踪したと話した。
そして父の名前や自分たちの本名、生年月日、以前の住所を明かすことは父や自分たちに危険が及ぶので言えないということで辻褄を合わせた。
また島での5年間の生活も隠した。その5年間は父親とマリとタケシ3人で全国を逃げ回っていたことにし、その頃から学校には行かなくなっていたと説明した。
施設長は温厚そうに見える太った高齢の男だったが2人の境遇には同情的な物の、なかなかその理由だけには納得はしてくれない。
毎日のように立ち代わり役所の人間が施設を訪れて何度も何度も同じ質問を繰り返した。
そして大人たちはマリにも口を開かせようと試みる。
施設の職員は適当な理由を作って席を外し、セラピストや医療関係者たちがタケシとマリ二人に対し虐待と思われるような方法で追い詰めようと試みたが、タケシとマリは最後まで真実を明かさなかった。
その苦労もあり、時間こそかかったが結局タケシの言い分が認められて二人は兄妹として役所に戸籍を提出し、そこで初めて兄妹として社会に受け入れられることができた。
タケシは5年間の島での生活をうまく隠し通せた事、またマリが正式に自分の妹として受け入れられたことに心から安堵する。
それは島を出ると決めた時からずっと頭を悩ませていた問題であったのでそれが無事に解決し、マリを正式に自分の妹に出来たことが心から嬉しかった。
そしてそれは物心ついたころから今までずっと願っていた兄弟という存在ができた瞬間だ。そう思うとマリに対して一層愛情が芽生えた。
そしてタケシは中学2年生、マリは小学3年生として施設から学校に通うようになる。
学校という物を多少は理解していたタケシはすぐに他の学生たちと大差なく学校生活に慣れたのに比べて、マリの初めての学校生活は苦悩の連続だった。
大勢が整列して並んで歩く事、誰もが同じ方向を向いて長時間静かに座ってなければいけない事、教室には先生という絶対的な存在が君臨しており、自分たち生徒はその権力者に絶対服従するというシステムに怯えた。
マリが初めて体験する学校生活は今までの島の生活からみればどれも異常だった。
そんな恐ろしい世界で誰とも口を利くことができないマリはその恐怖と違和感を表に出さずにひたすら耐える。
その不満はタケシにすら打ち明けなかった。それはタケシがマリにこの世界に不安や恐怖を感じないように最大限の努力をしていることを知っているからだ。
マリのせいでタケシの人生においての大きな決断を彼自身に絶対に後悔させたくないという強い思いがマリにはあった。
〈〈 次回、タケシとマリはどのようにして施設で生活しているのか。ご期待ください。〉〉
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