27、帯飾り
タケシとはぐれたマリに何が起こったか。
今回のストーリー要素
サバイバル ★☆☆
感情度 ★★★(マリの落ち込み)
危険度 ★★★(盗みが見つかる)
ほっこり度 ☆☆☆
タケシは背中の汗が冷たく感じた。マリと連絡を取る手段はない。
そしてできるだけ声を出さずに素早くマリを見付け出さなければならなかった。
ここで目立った行動は絶対に避けたかった。
タケシは物陰に隠れて唇に指をあてて指笛を鳴らした。
もう一度鳴らす。反応はない。
そして、今度はできるだけ長く、
そしてできるだけ高い音でもう一度鳴らした。
だけどやっぱりなんの反応もなかった。
タケシが駆け出そうとしたその時、マリから指笛の返事があった。
タケシは走った。方角は神社の境内の方だ。
境内まで来ると建物の裏手に携帯電話の光のようなものがちらついていた。
その光の方に静かに近付くと、
そこにいたのはマリと高校生くらいの女の子2人が一緒にいた。
なぜか女の子たちはマリを挟むようにして立っており、手にはマリの袖と襟を握っていた。
タケシは駆けよって女の子たちを睨みつけた。
「おい。その手を離せ。その子は俺の妹だぞ。」
タケシが駆け寄るとそのふたりの女の子たちは意地悪な目つきでタケシとマリを交互に見て
「こいつが綾香あやかの帯飾りを取ったんだよ。こいつは泥棒なんだよ。あんたこの子の兄なんでしょ。どうすんの?こっちは警察に言ってもいいんだよ。それか今から綾香あやかの彼氏を呼んで話し付けようか?」
タケシはマリの方を見るとマリは女の子たちに殴られたのか右の頬を腫らしていた。
タケシはマリの方を見るとマリは目にいっぱい涙を溜めている。
「こいつ全然喋んないんだよ。なんでそんなことしたのかも言わないし、謝りももしないからちょっと脅しつけたんだけどやっぱりなにも喋らないからあんたが話してよ。」
と言ってマリの背中を突き飛ばした。
タケシはマリを抱き起してマリを見ると、マリは泣きながら小さく頷いた。
それだけでタケシはマリに何があったか理解した。
「妹が失礼なことをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。警察に言うと言われても仕方ないと思います。暴行もあったことだし、警察にお世話になるのが適切かもしれません。僕から警察には連絡しますのでこの場で少しお時間を頂けますか。
それかもう夜も遅いですし、もし急がれるのであればこれはこのままにしてそちらの帯飾りをあなた達の言い値で買い取らせてもらうっていうのはどうですか。
そうすればもうこれは事件ではありません。取引です。どうしますか。」
女の子たちはちいさなタケシがあまりにも大人びた口調で話し出したので気味悪がった。
すると綾香という子が
「じゃあ3千円ちょうだい。それでなかったことにしてあげる。」
というとタケシは財布の中から5千円札を取り出すと
「おつりはいりません。その帯飾りを5千円で買わせてください。」
と言って両手で5千円札を丁寧に差し出した。
女の子はタケシが渡す5千円札を気味悪そうに受け取ると、小走りで神社の階段の辺りまで行き何度もこちらを振り返った。
タケシはマリを抱きしめた。
この何年もの無人島生活の中でマリは初めて盗みを犯した。
そのことにタケシはとても傷付いた。
ユリもタケシもマリを危険な目に合せないためにマリには一度も盗みをさせてこなかった。それが今こういう形でマリを傷付けてしまった事に胸が痛んだ。
マリが生まれて初めて盗んでも手に入れたいと思った物が、この赤く艶やかなかんざしのようなかわいらしい帯飾りだということがとても切なく、苦しくなった。
マリが盗んだものが生活や生きるために必要な物なんかではなく、そのきれいでかわいらしい物に目を奪われ、手が吸い寄せられるようにして盗んでしまったということにタケシの胸は痛んだ。
そして人前で感情を表したりしないマリが人前で涙を見せた理由も想像できた。
マリはあの女の子たちが怖くて泣いたのではなかった。
この帯飾りを目にした時に衝動的に手が出てしまった自分自身にびっくりしただろうし、一番身近にいるタケシにそれを知られてしまったこと、またそのタケシに助けられたことがどうしようもなく恥ずかしくて悲しいのだ。
タケシは涙で濡れて乱れたマリの髪をもう一度きれいに結び直し、そしてゴムの結び目に先ほどの帯飾りを差してやるとマリは一層悲しそうに泣きだした。
それを見ているタケシも泣きたくなった
こんなにかわいい妹がいるだろうか。
タケシはマリの赤く腫れたほっぺたに何度も何度も唇を付けた。
〈〈 次回、タケシとマリの島に新たな問題が起こる。ご期待ください。〉〉
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