表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/72

25、プラネタリウム

マリの目から見る無人島での生活と現代の社会の距離は遠い。


今回のストーリー要素

サバイバル ★★★(タケシの仕事術)

感情度   ★★★(タケシの優しさ)

危険度   ★☆☆

ほっこり度 ★★★(兄妹愛)

 ユリが島から出て行ってからはタケシはどこに行くにもマリを連れて出掛けた。

 タケシが街でスリの仕事をする時はマリにも手伝わしたし、情報屋の仕事をする時は隠れ家にマリを隠してひとり仕事に出掛けた。それはもしタケシに何かあった時、マリが島で一人にならないためであった。


 マリはタケシが仕事に行っている間は隠れ家から一歩も離れない。

 それは世間が怖いという理由もあるし、そうすることでタケシが安心して仕事に集中できるという事も知っているからだ。


 タケシは隠れ家にマリを残して仕事に行く時、いつも水と食料の他に丸い缶に飴玉を入れてマリに渡して、マリがこれを食べきる前に帰ってくると約束をして仕事に出掛けて行く。

 時間が短い仕事の時は飴玉は少なく、日をまたぐくらい時間がかかる仕事の時は缶いっぱいに飴が詰め込まれている。それはタケシの精一杯のマリへの慰めだった。


 その飴玉が多い時、本当はマリはがっかりしている。だけどタケシの前では飴がたくさんある事を喜ぶ振りをした。

 一番大事なのはタケシが心配しないで仕事に向かえることだからだ。


 タケシは仕事前と仕事中は絶対に食べ物を口にしない。それはタケシの仕事理念であり、胃の中が空っぽの状態の時は神経が研ぎ澄まされるのだと言った。

 

 確かに動物は追い詰められた時、満たされていない状態の時の方が意外な能力が発揮されたり、集中力が高まって神経が研ぎ澄まされる。


 逆に腹が満たされた状態になると危機感が薄れたり、恐怖心が生まれる。そういったことをタケシは本能的に理解しているため2,3日かかる仕事だったとしても最小限の水分以外は絶対に口にしなかった。


 タケシのように要領がよく、器用で運動神経が良い人間であってもその仕事がやはり常に危険と隣り合わせの仕事だということなのだろう。

 だからマリはタケシが無事に仕事から帰ってくるとほっとする。


 マリはタケシがマリを心配することなく仕事に向かえることが出来るようにわがままは一度も言わなかったし、タケシを心配する様子もなるべく見せないように努力した。


 だがタケシが無事に帰ってきた後、マリは数日間だけ少しわがままになった。そのわがままは幼いマリが精一杯我慢したゆえの甘えであり、タケシだけに心を許している証だった。


 そういう時のタケシは特に優しかった。

 マリに街での少ない時間で色々なものを体験させようとさまざまな食べ物を手に入れてくれたり、映画館や家電量販店、ボウリング場やバッティングセンターなどマリの知らない世界へ連れて行ってくれる。


 そういう体験をすることで文明に隔離された島にいながらも、現代社会の仕組みや現代人の思考をある程度理解することが出来たし、自分がまだ子供であり他の子供が好きな物を自然と自分も好むのだという事をそんなことから確認できた。


 今、マリとタケシはプラネタリウムに来ている。

 いつも見ている星空についての説明や神話が幼いマリをドキドキさせたし、マリがいつもしているような空想を昔の人達もしていたのだということが嬉しかった。

 

 マリはタケシに無理を言ってプラネタリウムの上映を3回も鑑賞した。星の説明や神話をできるだけ完璧に覚えて帰りたかったからだ。


 3回目の上映が終わると同時に閉館時間になった。押し出されるように劇場からロビーへ流れ出るといきなり明るい照明に目がクラクラとする。


 ロビーには人で溢れ返っていた。その理由は外は土砂降りで誰もが雨が収まるまでロビーで待機していたからだ。誰もがその場でやる事がなく、ただ外に顔を向けている。マリは明るい中での人混みが苦手だった。


 人の感情を敏感に感じ取るマリにとっては人々の表情やささやき声はうるさいくらいにマリには聞こえてしまう。その場に立っている事さえ辛かった。


 耳を塞ぎ、目をきつく閉じて下を向いて自分の吐く息に合わせて少しだけ小さな声を出してみる。

 そうすることで自分の声だけ意識することができた。


 マリの様子に気付いたタケシはしゃがみ込んでマリを下から覗き込んで笑顔を向けると、いきなりマリを抱き上げて自分のTシャツの中にマリの頭をすっぽりと入れた。

 そしてマリを抱きかかえたまま会場のドアを大きく開けて、土砂降りの雨の中を駆け出した。


 タケシのTシャツの中でタケシのみぞおちの辺りに鼻を押し付けてタケシの腰に足と手を絡ませる。

 マリはタケシのシャツの中に完全に守られていた。


 タケシの走る速度はマリを抱きかかえていながらもマリが走るよりもずっと早く走る。

 そのタケシの走る速度にマリは興奮してキャッキャと言いながら喜んだ。

 

 誰とも顔を合わせず、目を見なければマリは自分の感情を素直にさらけ出せた。

 今、タケシのシャツの中でタケシの肌の温もりと唇に触れるしょっぱい汗を感じながらマリは大声で叫びながら街の中を駆け抜けた。



〈〈 次回は夏祭り。祭りで荒稼ぎをするタケシ。ご期待ください。〉〉

作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ