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22、回復

はじめて体力の限界と精神疲労を経験したタケシ。この先どうなる?


今回のストーリー要素

サバイバル ★☆☆

感情度   ★★★(マリの優しさ)

危険度   ☆☆☆

ほっこり度 ★☆☆

 タケシはあの日から1か月間、寝たり起きたりの生活が続いた。筋力は著しく低下し、少し体を動かすとすぐにへたり込んだ。

 前のような好奇心にあふれた眼ではなくなったし、 あまりしゃべらなくなった。


 時折、マリに対して子供のように甘えるような態度も増えた。

 それはユリがいなくなった事への寂しさからなのか、両親の愛情に飢えた子供が見せる症状なのかはわからない。タケシは強く、賢く見えてもまだ子供なのだ。


 タケシをしっかりと休ませるためにマリは今まで以上に頑張った。食欲のないタケシに少しでも美味しい物を食べさせたいために罠を仕掛けて得た獲物を上手に料理したし、タケシの体を温めて癒すために毎日のようにドラム缶風呂も用意した。


 マリはマッサージという物の存在や効果は知らなかったが愛情を持って体を優しくさすったり、温めたりすることが体と精神を回復させることにつながると言う事が本能的に分かっていた。


 時間があればタケシを抱きかかえて体をさすった。その行為はユリとマリが家出した直後、ユリの不安を癒すためにマリが唯一ユリにしてあげられた行為であり、それによってユリが慰められて力が湧いて元気が出たといった経験から、タケシにも同じことを試した。


 タケシを抱いてさすりながらタケシにユリの話をした。ユリとの別れを一緒に悲しんであげたかったからあえてタケシにユリとの思い出を語った。



「ユリちゃんの事を話してもいい?」



 そうマリが言う時だけタケシはマリを意識して目を向けた。マリはユリとの思い出をタケシに事細かく話した。


 マリとユリとママと3人で住んでいた家がどんな感じだったか、ママの作る料理が食べられないマリの為にユリがマリのお皿から料理を掴んでベランダの外に投げてくれたこと、ユリが学校の運動会でぶっちぎりの一等賞を取って格好良かった事、近所で一番の意地悪な女の子を口で負かして大泣きさせた時の事、ママに内緒でマリを連れて隣街まで歩いて遊びに行った事、マリが家出をした晩にユリがマリに抱きついて泣きじゃくった事、きちんと耳に届いているのかわからないタケシに向かって話し続けた。


 そして話をする時いつもタケシに体をくっつけてタケシの頭を撫で続けた。

 最初は遠慮がちだったタケシだが、次第にマリに甘えることが恥ずかしくなくなり、マリが座って作業している時はその側に寝転んで自分のおでこをマリの膝や腕に押し付ける。

 それはタケシの知らない母親のようなあたたかい温もりで、マリの体温からその優しさを感じ取ると嬉し涙が出た。


 毎晩、ユリの話をし続けた。何度も同じ話をすることになるのだがその間に少しずつタケシの表情に感情が戻って来た。楽しい話をする時は少しだけ表情が緩んだし、悲しい話の時はちゃんと悲しそうな表情を見せた。


 そしてある時からわざとユリの話をしなくなった。

 話すことはユリの事ではなく、今の事やこれからの事だった。タケシに自分の選んだ選択を後悔させたくなかった。マリがタケシを信じてタケシに着いて来たことをタケシにきちんと知って欲しかった。


 島の裏側の浜辺に山鳥が住み着いた事、どこにどんな罠を仕掛けたか、太い山芋のつるを見つけたこと、崩れた崖からどんな植物が芽を出したかを詳しく正確に話して聞かせた。


 そして岩場近くで泳いでいた時に強い波が来て手を岩にぶつけて擦りむいた話をした時、タケシはマリの腕を掴んで傷を確かめた。そしてそこに口を近づけて傷を舐め始めた。


 マリはタケシが少しだけ以前のタケシに戻ったことが嬉しかった。

 だからマリはタケシに少しだけわがままを言った。



「今度、街に行く時はアイスクリームが食べたい。あと映画館や大きな公園にも行きたい。元気になったら絶対に連れて行ってね。」


 タケシは少しだけ笑って小さく頷いた。

 

 そうやってタケシは少しずつマリのいる現実の世界に戻って来てくれた。



〈〈 次回、回復していくタケシ。タケシとマリの関係がさらに深まっていく。ご期待ください。〉〉





作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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