21、挫折
ユリと別れたタケシは何を思っているのか。
今回のストーリー要素
サバイバル ★☆☆
感情度 ★★★(マリの献身的な介護)
危険度 ★★★(タケシの体の不調)
ほっこり度 ★★☆
その日は特別暑かった。ふたりは猛暑から逃れる為、ねぐらから半キロほど離れたところにある洞窟に逃げ込んだ。
タケシはこのところがむしゃらに働き続けていたがさすがに今日は日中、外で働くことを諦めて洞窟に手仕事を持ち込み、魚の網の修繕や道具の手入れをしており、マリもタケシの隣りでクラフトショップに売るための貝殻加工をしようと思っていた。
洞窟の中の奥ひんやりとして気持ちいいが作業をするには暗すぎる。頭にヘッドライトを装着して手元だけを照らせば周りが見えずに作業に集中できた。
洞窟の中で無言で作業する間は波の音も虫の声も聞こえなくなり、お互いの息遣い以外は無音の世界だった。
薄暗い洞窟の中の作業は視界を狭め、マリを長時間没頭させた。ふと集中力が途切れて辺りを見渡した時、洞窟の中に響くタケシの息遣いが異様に聞こえた。
それは普段の様子とは明らかに違い、それに気付いたマリは背筋が凍った。
タケシの息遣いは粗くそして小刻みだった。そしてマリの呼びかけにも反応しない。
座ったままの姿勢のタケシの体は異常なほどの熱を放出し、首と額には玉のような汗をかいている。
マリはタケシを呼び続けたがタケシは大きく息を吸ったりはいたりするだけで返事をしてくれなかった。
タケシの不調な姿を見たことがなかったマリは焦った。
苦しむタケシに対して自分が何をすべきか、何ができるのかまったく分からなかった。
そんな時、ずいぶん昔にマリが熱を出した時、ママがしてくれたことをふっと思い出した。
マリは冷たい水をバケツに汲んできてタオルを水に浸し、タケシのおでこと脇に挟めた。
そのタオルは10分ほどでタケシの熱を吸収し生暖かくなるのだが、そのタオルを何度も何度も替え続けた。そしてそれと同時にタケシに口移しで水を飲ませ続けた。
タケシの熱は2日間下がらなかった。意識は朦朧としていてマリの口移しの水以外は口にしなかった。そして熱が下がったかと思ったら突然、夜中に寒いといって震え出した。
洞窟では冷え過ぎるのだと思い、ねぐらまで運ぼうとしたがタケシは体中が痛くてうまく歩けない。
真っ暗な道をマリはタケシの肩を担いでねぐらまで運んだ。
マリはタケシにありったけの服を着せて、その上に布団をかけて自分もその布団の中に入った。
そしてマリはタケシに抱きついてタケシの背中を撫で続けた。
タケシはそのマリの腕の中で震えながら眠った。
次の朝、目覚めた後のタケシは以前とはまるで別人だった。活力に満ちていた瞳は今は何も見ておらず、息をするのも面倒なように見える。
その抜け殻のようなタケシは一日中下を向いたまま動こうとしなかった。まるでそこにマリが居ないかのように見えるその表情からは喜怒哀楽のどの感情も見えなかった。
ユリとの別れから1か月半、タケシは自分を叱咤するために働き過ぎた。
それで寂しさを紛らわせていたはずだったが体はその運動量に耐えれなかったのだ。
タケシ自身が自分の体力が限界を超えていることに気付けず、体が悲鳴を上げて強制停止させたのだろう。マリは側にいてその異常な様に気付きながらもタケシを止められなかった。
それはタケシの寂しさを自分では慰められないことが分かっていたからだ。
だからタケシの気の済むようにさせてやりたいと思ったのに、こんなことになるなんてマリは知らなかった。もう少しでタケシを失う所だったのかもしれないと思うと自分の浅はかな考えが命取りだという事に気付く。
マリはタケシのために働き、夜になるとタケシを抱いて寝た。
タケシにすぐに元気になってもらいたいとは思わなかった。元気になるとまた無理するだろうし、今は自分がタケシを支えているというこの状況が嬉しかった。
いずれまたタケシが笑ってくれるようになる事は分かっている。今まで誰にも甘える事のなかったタケシにしっかり甘えさせてあげたいとおもった。
マリは小麦粉に海水を入れて捏ねて薄く延ばしてうどんを作った。
そして魚の骨をしっかり焼いた物を沸騰する湯の中に加え、しょうゆで味を整える。
まったく食欲のなかったタケシだったがこのマリの作ったうどんだけは何とか飲み込むことができた。
〈〈 次回、マリは挫折したタケシとどう向き合うのか。マリがタケシのために出来る事は何か。ご期待ください。〉〉
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