19、災害
災害の時、3人の子供たちは―――
今回のストーリー要素
サバイバル ★★☆
感情度 ★★★(3人の訣別)
危険度 ★★★(未曽有の大災害)
ほっこり度 ☆☆☆
2018年、平成30年7月豪雨。
その豪雨は西日本全体に多大な被害をもたらし、多くの死者、行方不明者を出した。
その時、3人は島を出て街で活動をしている最中だった。
7月5日から降り出した雨が台風の接近と重なり3人が隠れ家に選んだ廃屋から一歩も出れない状況を作った。その次の日は九州、中国地方、四国などいたる所で大雨特別警報が出てからというもの被害が格段に大きくなった。
最初、隠れ家の屋根が飛んだ。そのすぐ後、30分もしないうちに家が傾いき始めて、ゆっくりと崩壊し始める。
その場に居座る事ができなくなり、3人は暴風の中をマリを囲むようにしてその付近で一番なじみのあった寺まで逃げ込み、墓の掃除道具を入れる物置に隠れてその晩を過ごした。
寺の物置は木造で簡単に作ってあるように見えてもきちんと基礎を固めて作られた物だったので、風で戸がギシギシ鳴りはするがとりあえずは安全だった。
また狭い場所は柱と柱の間が狭いのでその分、建築密度が高く多少の風や地震には耐えやすい。
周りの看板が飛んでくる音や電柱が倒れる大きな音が響く度に怯えたが今のところ、この建物はその暴風になんとか耐えれそうだった。
寺に逃げ込んで2日目に嵐は治まった。嵐が過ぎ去ると空はきれいなほどに晴れ渡っていたが、地面に目をやるとゴミと瓦礫で散乱し、この世のものとは思えない光景が広がる。
道路は各箇所が使えない状態になり、車は一台も走っていない。
無音の街に災害放送が響き渡ると少しずつ人々が動き出した。その放送ですぐに近くの小学校で炊き出しが行われるということを知る。
この辺りの全ての家屋が断水や停電、ガスが使えなくなり、住民のほとんどが炊き出しのお世話になった。3人は周りを警戒してそれぞれ別々に炊き出し所に行き、おにぎりと水を受取ってまた寺の小屋まで戻って来た。
3人は島の状態を心配した。島を出る時、ある程度の台風予測をしていたので出来る限りの対策はしていたがここまでの被害は誰一人予想できていなかった。
この場になりユリはいっそう、施設への入所をタケシに勧めたがタケシは絶対に首を縦に振らなかった。ユリは入所するなら3人で一緒に居たかったし、タケシは一人でも島で生活を続ける決意をしていた。
この時タケシとユリの決裂は決定的となった。
辺りが少しずつ落ち着き人が動き出した頃、タケシはユリとマリを送り出すための心の準備をした。
そしてマリが寝ている間にタケシはユリを小屋から誘い出し、墓地の端に連れて行くとユリの肩を優しく包み込むように抱いた。
「僕らは別々の道を歩むけどどの道も間違いじゃないと思う。それに僕らはどんな人間にも負けないくらい強くて賢いんだ。この3人ならどこでだって生き抜いていく事が出来る。だからユリちゃんはユリちゃんが思うように思いっきりすればいい。」
ユリはタケシのいう事がただの優しさではない事を知っていた。
「わかってる。私たちが強くて賢いってことはこの2年間が証明したんだもん。私たちは別々の道を歩むことになるけど私たち姉妹の事を絶対に探さないで欲しいの。
もし、将来偶然会うことがあったらそれはすごく嬉しいけど、私が成功する前にタケシ君に会ってしまったら頑張れなくなっちゃうから。」
タケシもユリも泣かなかった。泣いたら自分の選んだ選択に自信が持てなくなる。
最後まで自分の決意は変わらないことを相手に見せておきたかった。
もう一度小屋に戻るとマリはすでに起き上がって出掛ける準備を整えていた。
そしてマリとユリとタケシは黙って浜辺の方へと歩き出した。
タケシは舟に乗る前にマリの頭を笑顔で優しく撫でた。
タケシはマリには何も言わなかった。
ただ最後に優しい笑顔を贈りたいと思っていた。
その時、マリはユリの元から離れてひとり舟にまたがり、いつもユリが座る場所に身を置いてユリを見た。
一瞬、マリが何をしているのか分からなくなった。
だけどユリにはわかったようだった。
「マリはタケシ君と一緒に居たいのね。しっかり考えたの?もしここで私たちが別れてしまうともう姉妹ではいられなくなるけどそれもちゃんと分かっているの?」
マリは自信に満ちた顔で少しだけ笑みを浮かべてうなずいた。
その意味を理解したユリはタケシに向かって
「マリは私が家出を決意した歳になって今、自分で決断したの。だからマリとはここでお別れするね。
これからはタケシ君がマリを妹として仲良くしてあげて。
マリの事をよろしくお願いします。」
と言って舟を送り出した。
〈〈 次回、台風で荒れた島をふたりはどう生活していくか。ご期待ください。〉〉
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