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17、マリのケガ

ユリとタケシが目を離したすきにマリが崖から落ちた。


今回のストーリー要素

サバイバル ★★★(緊急のケガの対処法)

感情度   ★★★(タケシとユリの愛情)

危険度   ★★★(マリの大ケガ)

ほっこり度 ★☆☆

 その日もタケシとユリはマリに背を向けて話をしていると、突然カラスのカンちゃんが二人の前に表れて大声で鳴き出した。

 その声はいつもの餌をねだる時のような甘えるかわいい声ではなく、大人のカラスの警告の時の声だった。


 カンちゃんは鳴き叫びながらも何度もマリ、マリ、マリっと叫んだ。


 タケシとユリは最初何が起きたかわからなかった。そして先ほどまで側にいたはずのマリを目で探したが近くにはいない。

 カンちゃんは鳴き叫びながら岩の多い海岸の方に顔を向けて飛びながらマリ、マリっと鳴き続けている。



「マリになんかあったかもしれない。カンちゃんについて行ってみよう。」



 自分たちふたりが話している間にマリを退屈させて一人で危険な所に行かせたかもしれなかった。

 タケシとユリは急いでカンちゃんの後を追った。

 カンちゃんは2人が付いてくると分かると飛び立ち、岩場の方に導いた。


 そしてそこで見つけたのは岩の上でうずくまっているマリの姿だった。


 マリはタケシとユリが話をしている間に目を覚まし、一人で切り立った岩山に登って夕日が沈むのを眺めていたが一瞬、強い突風がマリの足元をすくい、バランスを崩して岩山から落ちた。

 そして着地した場所が悪く足を滑らせて膝に大怪我を負ったのだ。


 足からは尋常じゃないくらいの血が流れており、血を大量に失ったマリの顔は覇気がなく青ざめている。タケシはマリを背負い、ねぐらに戻った。


 タケシとユリは手持ちのライトをすべて付けてキレイな海水をたくさん運び込み、その水でマリの傷口を優しく洗った。

 傷は膝横の辺りにあり傷口は深く、洗っても洗ってもどんどん血が流れ出ていく。


 まず傷口のある場所より上の部分をシャツを切り裂いた布と棒切れを使って絞るように締め上げて止血をした。そしてユリに傷口を押さえるように言い、タケシは釣り道具の中から釣り針とテグスを持ってきて傷口をこれで縫おうと言った。


 タケシはまず釣り針を火で炙って消毒した。そして火傷にならない程度にマリの患部にも火を近づけて傷口の消毒をした。


 そして深呼吸をしてから思い切って傷口に釣針を刺して縫い始めたが、マリは恐怖のあまり叫んで暴れ回った。


 このままでは処置ができないと判断したタケシはユリに向かって



「ユリちゃん、僕がマリちゃんを抱き押さえるからユリちゃんが縫ってあげて。」



と言ってユリに針を預けるとマリを自分の膝に乗せ、向かい合わせで抱き込むように押さえると、マリに向かって優しく



「マリちゃん、絶対に大丈夫だから僕たちを信じて。大きな声を出してもいいし、辛かったら僕の腕を噛めばいい。噛んで大きな声を出せば痛みが和らぐはずだから思いっきり噛んでもいいよ。すぐに終わらせて見せるから少しだけ我慢するんだよ。」



と言って自分の腕をマリの口にくわえさせた。


 ユリはそのタケシの言葉で自分の役割をまっとうしようと自分を懸命に奮い立たせ、妹のマリの為に思い切ってマリの傷口に針を通した。


 この瞬間、3人が3人共苦しんだ。


 マリはタケシに抱きしめられながらタケシの腕に歯を立てた。

 

 自分では口に力を入れたらだめだと分かっているのに恐怖と針が皮膚を貫通する感覚で正気を失い、あごがギリギリっとするまでタケシの腕を噛み続けた。


 タケシもマリの痛みを自分が少しでも引き受けてあげたいという思いからその痛みに必死に耐えた。

 そして同時にユリを励まし、糸の結び方と処理の方法を的確に指示した。


 ユリが傷口を縫い終わり、糸を切ると同時にマリは気が抜けて気を失った。


 タケシはマリを抱きかかえたまま立ち上がり、枯れ草でできたベッドの上にそっと置き、マリの涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を自分のシャツできれいに拭き取った。


 そしてマリの傷を優しく舌で舐め始めた。


 舌に力を入れないように舌全体でやさしく丁寧に舐め、周りの小さな切り傷や血の跡もすべてきれいに舐め取った。

 そのしぐさは動物が自分の子供に対して行う一番尊い行動だった。



 朝、明るくなり始めるとタケシはすぐに起き出して山に(ふき)の葉を採りに行った。

 そしてそれをマリの傷口に当ててその上から自分のシャツをひも状に裂いたものでしっかりと巻きつける。こうすることで傷口が化膿すること防ぐのだ。

 

 マリが目を覚ましてパニックになる度にユリはマリの背中を優しく撫でた。

 しばらく背中を撫でているとまたマリは眠りに落ちた。それを繰り返す間にマリは目が覚めても落ち着くようになり、その姿にようやくタケシもユリもほっとした。


 タケシは獲ってきた魚を(さば)いて生のままマリに食べさせようとした。マリは血をたくさん失っていたからとにかく早く血を作る必要があった。

 嫌がって食べたがらないマリにタケシとユリは何度も何度も優しく勧めた。そのうちマリも小さく切ったものを口に含み、ゆっくりと噛みながら飲み込んだ。


 少し食べては休み、また少し食べを繰り返した。そのお陰かしばらくするとマリの顔に少しずつ赤みが戻って来た。


 この時からタケシもユリもマリに今まで以上に優しくした。あの時、マリを失ってしまうかもしれなかったのだという恐怖はいつまでも二人の頭をかすめた。

 今、マリが少しずつ元気になっている事に感謝していたし、改めて大事なかわいい妹だと認識した。


 そんな優しいタケシとユリにマリ自身もあの事故はただ単に怖い思い出だけではなく、大きな愛情に包まれた温かい思い出として記憶していた。

 心強い兄と姉をより一層好きになり、タケシとユリの側にずっといられることが嬉しかった。


 マリは今、最高に幸せだった。



〈〈 次回、ユリはこの島で何を考えているのか。タケシとユリの考え方の違いが明らかになる。ご期待ください。〉〉

作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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