1、ユリ(8歳)マリ(5歳)
ユリ(8歳)とマリ(5歳)は母親を亡くし、自分たちだけで生きていく事を決める。
もしママに何かあったらパパと暮らしなさい。っと前の日にママは言った。
だけどママは以前、パパは悪魔のような人間で私達3人を捨てて若くてかわいい女の人の所に行ってしまい、その人との子供のパパになってしまったんだって言ってたじゃないか。
私たち姉妹よりもその女の人との子供の方を愛してるんだって泣きながら言ってたのに。
私がそう言うとママは だけどどうしようもないじゃない、と言って苦しそうに笑って目を閉じた。
その言い方はどこか投げやりで無責任に聞こえた。ママはもう私たちをかわいがる事に疲れたのだ。
誰かをかわいがって責任を持って守り抜くことはたとえ大人であろうと裕福でお金持ちであろうと大変な仕事なんだと想像できた。写真でしか見た事のないパパという知らないおじさんにこれから私たち姉妹は生活全ての面倒を見てもらわないといけないのだろうか。
その悪魔のようなパパとそのパパの新しい家族に私たち姉妹が殴られて苛められながら暮らす姿を想像した。
その想像は最近見た映画から来たもので家に住まわせてもらい、食べさせてもらうための代償としては割に合わないと思っていたし、もし自分がこの子供の立場だったならばそんな家はさっさと出て行って、もっと賢く生き抜いて見せると考えていた。
今、私たちは真知子ちゃんと一緒に暮らしている。真知子ちゃんはママの会社の上司でママの唯一の友達だと言っていた。ママには家族も兄弟もいない。だからママの入院中はその友達に面倒を見てもらいなさいとママは言った。
真知子ちゃんはやさしいしお金持ちだ。いつもコンビニでお弁当を買ってくれるし、おまけに食後に食べなさいと言って今まで食べたことがなかった甘いお菓子や袋のスナック菓子も買ってくれる。
一度はインスタントのコーンスープというものも飲ませてくれた。初めて口にしたインスタント食品はママの作るご飯の100倍美味しくて感動した。
それを真知子ちゃんに言うと
「お母さんは健康志向の粗食主義者だからね。こういった物を子供が食べるのを嫌うからおかあさんには黙っていてね。」
と言った。
真知子ちゃんは間違っている。粗食主義者などというかっこいいものなんかじゃなくて単なる貧乏なのだ。お金がないから人が捨てる部分や誰もが食べたがらない物、時には山菜という口に入れるのが怖いくらい苦くてまずい草を採ってきて食卓に並べ、その食べ物の効能を自信たっぷりに聞かせて私たちに感謝して食べるように言った。
私たちがママの作った料理を食べている間だけはママは自信たっぷりにそして満足そうに笑った。その狭い世界の中でだけママは自分に自信を持つことが出来たし、幸せを感じていられるようだ。
ママのその笑顔を見ていると嬉しいのだけどちょっとだけ不安で少しだけ悲しくなる。そんな誰からも認められない小さくて脆い幸せを大事に握って前向きに頑張っているママを想うと大人なのに不憫でかわいく思えた。だからこのことだけはわがままを言わずにママの言う事を聞いてあげた。
だけど今日、ママは死んでしまった。もうママの作るまずいご飯を無理して食べなくてもいいし、ママの泣き言を聞かされることもない。それはすごく寂しくて悲しい事なのだけれど少しだけ解き放たれたような気持にもなった。
そうだ。私たち姉妹は今やっと解き放たれたのだ。それなのにその悪魔のようなパパの所でお世話になるなんてまっぴらだ。自分たちだけで周りの大人たちから隠れて暮らすことができれば今よりもずっと自由に楽しく暮らせれるはず。
そのチャンスはパパが迎えに来る前の今だけだ。今、この病院から誰にも知られずにうまく逃げだすことができれば私たち姉妹は誰にも遠慮することなく自由で楽しく暮らせる。
隣に座って私たちのお世話をしてくれている看護師のお兄さんが他の看護師さんと話すために少しだけ病室から離れた隙に急いでママのカバンを探った。
そして財布と保険証、携帯電話と手帳を自分のランドセルに入れる。
戻って来た看護師のお兄さんと看護師長さんがママの体をきれいにするから少しの間、病室から出て待っていてと優しく言った。
私はきちんとお礼を言ってよろしくお願いしますと言って頭を下げ、妹の手を引いてそのまま病院の玄関から出た。
〈〈 次回、同じ境遇のタケシ(9歳)がどのようにして親なしになり、何を思ってホームレス生活を決意するか。子供たちだけで生活をするということは果たして可能な事なのか。
ご期待ください。〉〉
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