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泡沫の魔術師は今日も夢を見る  作者: Smogree
第一章 幼少期
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6.言葉選びよりも人選び

 今日、僕たちの視界はありとあらゆる服で埋め尽くされている。


「…アーレ?僕は最初言ってたのでd……」

「駄目です!せっかくこんなにあるんですからしっかりと見て決めないと勿体ないですよ!」


 こうなるから憂鬱だったのだ。アーレは僕の服選びになると異様に熱が入ってしまう。しかも今回はシエラフェリスのの分もあるということで倍以上に気合が入っている。


 「そうですよ!ネローア様。せっかく沢山持ってきたのですから」


 毎回こんな感じである。いつもの仕立て屋の店員さんもこの日ばかりはとテンションが高い。僕としては早く終わらせて魔法の勉強をしたいのだが……


「ネローア様、今度はこれ着てみてください」

「はい、分かりましたよ」


 アーレに服を差し出され、今日何度目かも分からない着替えを始める。

 僕から見るとほとんど見た目変わらないんだけど。


「……うーん、なんか違いますね」

「そうですね。これなら先ほどの方がよろしいかと」


 ここは抵抗せずに二人が満足するまで着せ替え人形になろう。多分その方が早く終わるだろう。

 もう一人の被害者シエラフェリスはというと僕の服選びを待つ間、もう一人の店員さんと一緒に服を選んでいる。さすがにこの量の服を見るのは初めてなようで何をどうすればいいのか分かっていない様子だ。


 それからも何度も着替えを繰り返させられる。

 

「……ですが襟の部分は…………ですね」

「でしたらベースを…………で襟の部分だけ少し手を加えておきましょうか?」

「いいですね。それでよろしくお願いします」

「終わりました?」

「はい、ネローア様。これで終わりです」


 やっと終わったようだ。かれこれほぼ半日かけて一つの服を選んだ。この後シエラフェリスが同じ目に遭うと考えると気の毒で仕方がない。


「それでは僕は自分の部屋へ帰ります」

「いえ、まだ採寸が終わってませんよ?」

「ネローア様、採寸しますのでこちらへ。すぐに終わりますので」


 あと少しの辛抱のようなので黙って従うことにする。

 採寸を始めると同時にアーレはシエラフェリスの服選びを始めた。


「何か欲しい服は見つかりましたか?」

「あ、……分かりません。どれがいいのか」

「そうですか。では一緒に選びましょう」


 後ろで採寸しながら店員さんがうずうずしているのが伝わってくる。早くシエラフェリスの服を選びに行きたいのだろう。


「店員さん?まだ採寸終わりそうにないですか?」

「すみません。もう少しかかりそうです」


 二年前に採寸したときはそんなに時間がかかっていた覚えはないが、少し手こずっているのだろうか。


「いえいえ、大丈夫ですよ。ゆっくりやってください」

「本当ですか!ではお言葉に甘えて」


 お言葉に甘えて?どういうことだ?


「こちらの……ですか?」

「……こっちの方が……」

「でしたら……はいかがですか?」

 

 アーレと店員さんの声が聞こえてくる。この感じだとやはり着せ替え人形になっているのだろう。また半日服選びコースだな。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 遅い!あれからかなりの時間が経ったが採寸がまだ終わらない。だいぶ日も落ち始めている。これまでにも何度か店員さんにまだですか?と聞いてみたがその度にはぐらかされた。


「すみません、店員さん。まだ終わりませんか?」

「あ、あーすみません。ちょっと道具取ってきますね。」


 あからさますぎる。何かやっているのではないだろうか。


「……いいですね」

「……私も……ますね」


 シエラフェリスの服選びはまだ続いている。


「……きますね。……ネローア様?少しこちらに来てもらえますか?」

「ん?分かりました」


 僕はアーレに呼ばれたので店員さんに一度離れることを告げて席を外した。

 その時、店員さんはいつになくニヤニヤとしていた。


「アーレ、どうしました?」

「ネローア様、こちらの服、どう思いますか?」


 アーレが手で示した方向にはシエラフェリスの姿があった。

 髪の毛を一部サイドで三つ編みにしていた。着ているドレスは髪色と同じ薄緑色を基調として白い花の模様が描かれていた。とてもに似合っていると思う。

 当のシエラフェリスはというと着慣れていないドレスに恥ずかしそうにしていた。


「そうですね……いいと思いますよ!」

「どういいのでしょうか?」


 アーレが圧をかけてきた。部屋を散らかして口答えした時以来の反応に気圧されてしまう。

 こういうことか。だから店員さんはあれだけ時間稼ぎをしていたのかと納得した。


「えっと…その、可愛いと思います!似合ってますね」


 シエラフェリスは後ろを向いてしまった。興味の無い男からの可愛いなんて嫌に決まっているだろう。もちろん本心ではあったのだが、アーレに言わされた形になったのもいい気はしなかったのかもしれない。


「…だそうですよ?どうしますか?」

「……他の服…見てもいいですか?」

「大丈夫ですよ。ネローア様、着替えますのでお帰りください」

「…はい」


 店員さんのところへ戻ると申し訳なさそうな顔で採寸が終わったので今日はこれでおしまいですと告げられた。

 僕は感謝の言葉を述べて自分の部屋へと帰った。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 部屋に着くとすぐにベッドに飛び込んだ。

 さすがにほぼ丸一日を使って服選びは体力的にしんどかった。最後の最後には精神的にもダメージを受ける出来事があったこともあって疲労困憊である。


 夕食まではまだ時間ありそうなので仮眠を取ることにした。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……様、ネ……ア様、起きてください」

「……ん、おはようございます」

「もう夕食のお時間ですよ」


 結構長い間眠ってしまっていたらしい。僕は体を起こして、軽く髪を整え食堂へと向かった。


「そういえば、服選びは無事に終わりましたか?」

「はい。問題なく終わりました」


 僕としては問題ありだが、その辺は仕方ない。


「……なんでそんなに嬉しそうなんですか?」


 アーレの顔を見るといつになく上機嫌な表情であった。


「何でもありませんよ。早く行きましょう」


 やはりいつもより機嫌がいい。服を選んでいる最中もここまで上機嫌ではなかった。ただこれ以上聞いても言ってくれそうにはないので諦めることに。


 食堂に入ると、母モーナと弟カイルそしてシエラフェリスの姿もあった。


「ではネローア様、私はシエラフェリス様のところへ行きます」

「分かりました」


 アーレはシエラフェリスのところへ向かい、僕は自分の席に着いた。

 その後すぐに父ネベルが入ってきて食事を始めることに。


「ネロとシエラフェリスちゃんは今日服選びをしてたんでしょ?」

「そうですね、母様。僕の場合はアーレが選んだようなものですが」

「フフッ、いつものことね」


 その間、シエラフェリスは無言でご飯を食べていた。


「あと二か月だ。カイルもしっかりと招待状を書きなさいよ」

「分かってますよ!父様」

「ハッハッハ、それなら大丈夫だ。ネロの方は進捗はどうなんだ?」

「順調ですよ。魔法を使っていなくても魔素を認識できるようになりました」


 最近では意識すれば魔素を視認できるほどになった。魔法を使っていた時にあった体に纏わりつくような、水の中にいるような感覚は無くなり、かなり違和感なく魔素を認識できるようになった。

 この調子でいけばもうじき次の段階に進めるかもしれない。


「そうかそうか。それはよかった」


 父には本当に感謝しかない。今回こそ変なことをしたが普段はとても良い父だ。ここまで順調にことが進んでいるのも全部父のおかげである。


「これからも頑張りますね」


 その後も他愛のない会話をしながら食事をしたが、シエラフェリスが口を開くことはなかった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 誕生日パーティーまで残り二週間を切ったある日、僕とカイル、そしてシエラフェリスはダンスの練習に勤しんでいた。

 とは言っても僕は病気の都合上、ダンスは出来ないのでアーレと見学をしている。ならなぜ見学させられているかというと病気が治った時に覚えておいて損はないからだそうだ。


「シエラフェリスはカイルとはかなり打ち解けてきましたね」

「そうですね。年下というのもあるでしょうがカイル様は人当たりがいいですからね」

「そう言われると僕が人当たり悪いように聞こえるよ?」

「否定はできません」


 あの二人はこのダンス練習を通して仲が深まっていて練習の合間には雑談を交わすほどである。もちろんカイルはシエラフェリスを姉として見ているし逆もまた同様だ。

 僕とシエラフェリスはというと根気強く話しかけた結果、返答してくれるほどには仲良くなれた。


「お二方、そろそろ終わりにしましょう」

「分かりました!アーレさん」

「……分かりました」


 カイルはとても嬉しそうに返事をした。普段あまり運動をしないカイルに半日近くあるダンス練習は大変そうである。それに対してシエラフェリスは全くしんどそうな表情をしていなかった。


 そうして今日は解散した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 夕食を終えた後、僕は蔵書室で目的の魔導書を探しているといつの間にか大分遅い時間になっていた。そろそろ自室に帰らなければ怒られそうだと思い、蔵書室を出て自室へと向かっていると一つ小さな影が目に入った。


 シエラフェリス?こんな夜中に何をしているんだろう。


 手には木刀を携えていたこともあり、不安に駆られ後についていった。


 周りを見回して何かを確認する素振りを見せたと思うと、次の瞬間、正門の扉を開け家を出ていった。


 もしかして…家出!?

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