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泡沫の魔術師は今日も夢を見る  作者: Smogree
第一章 幼少期
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5.右も左も素直になる方法も

「私この人と結婚するなんて嫌!」


 全く状況が理解できない。まず結婚するってどういうこと?握手が求婚になる文化の地域出身とか?そんなの聞いたことないけれど。そんなわけない考えしか思いつかない。

 というかいくら初対面でも傷ついた、さすがにこんな面と向かって振られると。告白してないのに振られた。どうしよう。


「あ、あのー、アーレ。これはどういうことですか?」

「ご主人様から何も聞いていないのですか?」

「多分、何も聞いていませんね」


 何のことかは分からないが聞かされていたらこんなにも動揺していないだろう。

 この最中にもシエラフェリスはこちらを睨み拒絶の意思を示していた。

 いったい父は何をしたんだ。こんなに嫌がられることなかなか無いよ。


「……父様に直接聞いた方が早そうですね」


 さすがに状況が全く掴めないので、三人で父に確認しに行くことに。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 足早に父の部屋へと向かい、扉をノックする。


「なんだ?入っていいぞ」


 僕は勢いよく扉を開け、抗議の意思を示した。


「父様!!結婚ってどういうことですか?全く理解ができません」

「ん?ああ、もう会っていたのか。そのままの意味だ」

「僕だってもう子供じゃないんです!結婚する相手は自分で決めます。それにシエラフェリスにも迷惑でしょう?」


 弟カイルですら結婚する相手を自分で決めているのだ。兄である俺が人生を左右する決定を自分でできないなんて情けない姿を見せるわけにはいけない。


「とはいってもだな、ネロ。社交場に出ずにずっと家に引きこもっているのにどうやって結婚相手を見つけるんだ?」

「それは……」


 ぐうの音も出なかった。実際、王即位の大宴会のときにも結婚相手どころか友達すらも見つけることは出来なかった。

 言い訳するとすれば、魔法のことばかり考えてしまって人に話しかける余裕がなかったのだ。丁度研究が佳境に差し掛かったところでの宴会だった。仕方ない。


 それに父は言わないでくれているが今は病気の影響で前よりもさらに結婚相手を見つけることが難しくなっている。いくら魔法の才があるとはいっても不治の病を持つというだけで貴族社会における価値はないと言っても過言ではない。

 

 「別に無理にでも結婚させようというわけではない。ネロもシエラフェリスも嫌ならしっかりと断ってくれて構わない。ただ決定を急ぐのをやめてほしいな。」

「そう言われると……何も言えませんよ」


 断ってもいいというのなら僕には強く抵抗する理由はなくなった。

 しかし、一つ疑問に思ったことがあった。


「でも、もし僕が断ったらシエラフェリスはどうなるんですか?」


 この部屋に入ってからずっとシエラフェリスが怯えたような目をしていた。

 父のことだ。僕が断ったところで悪いようにすることはないと思う。

 しかし、周りの貴族の目というのは怖いものがある。しかもフィニウス家はそこまで力のある貴族ではないのでなおさらだ。周りの貴族に目を付けられるとあれよあれよという間に解体へと追いやられてしまう可能性がある。


「そこは安心してくれ。もちろんフィニウス家の一員として迎え入れるさ」


 そういうことなら安心だ。父の言うことを信じることにしよう。


「分かりました。…そういえばシエラフェリスは養子に入ること了承しているんですか?」


 そもそもそこから嫌がられているのであれば問題である。シエラフェリスのあの嫌がり方を見ればその説も十分にあり得る。


「……私は大丈夫。アーレさんもいるし…」

「そうですか。ならもう言うことはないです。けど父様、こういうことは事前にお願いしますね?」

「ハッハッ、それはすまなかったな」


 笑っている父を見て初めて少し苛立ちを覚えたが見過ごすことにした。

 でも、当分許すことは出来ないかもしれない。

 ていうか結婚のことって事前に伝えていたのかな?もう聞く元気もなくなってきたのでそれは言及しないことにした。

 

 一連の騒動が終わり、僕たちは部屋を後にした。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふう、疲れたね。見苦しいところをお見せしました」

「……全然大丈夫」


 三人は僕の自室に戻り、一息ついていた。

 勉強とは全く違う方向の疲れがどっと押し寄せてきた。


 「お疲れさまでした、お二方」


 アーレが紅茶とお菓子を出してくれた。シエラフェリスは一瞬目を輝かせていたが、僕の視線に気づくとすぐにお菓子から視線を逸らして興味のないふりをした。


「シエラフェリスは甘いものが好きなんですか?」

「……好き」

「そうなんですね!なら僕のを少しあげますよ」


 結婚する、しないは関係ない。

 最初に思った通りせっかく家族になったのだから仲良くなりたいという気持ちに嘘はないのだ。

 少しずつ気持ちを開いてくれたら嬉しいなと思う。


「え!?そんな…悪いよ」

「大変だったでしょう?今日くらい食べてください」

「……分かった。…ありがとう」

「はい!どういたしまして」


 ほんとに甘いものが好きなんだな。その後は本当においしそうにお菓子を頬張っていた。アーレが微笑みながら眺めてくるのは無視しておこう。


「そういえば、明日はお二方、服の仕立てが朝からありますのでよろしくお願いしますね」

「ん?何か大事な用事ってあったけ?」


 服を新たに仕立てなければならないような用事が入っていた覚えはない。さすがに大事な用事を忘れるほど無頓着ではないし。それに服の仕立ては憂鬱である。


「…本当に自分のことに無頓着ですね」

「え?どういうこと?」

「ネローア様、あと二か月で10歳の誕生日ですよ?」


 あっ、どうやら僕は大事な用事を忘れるほど無頓着だったらしい。


「すみません。忘れてました。」

「アーレさん……貴族の誕生日ってそんなに大事なものなの?」

「誕生日が、というわけではありません。10歳の誕生日が重要なんです」


 貴族における10歳の誕生日はとても重要な意味を持つ。

 貴族家の子供は10歳から参政権も行使することができる。もちろん一家の当主が生きているうちはそれを行使することはないと言っても過言ではないのだが、その当主に何かがあれば一躍、一家を導く大黒柱にならなければならない。


「つまり、仲良くしたい貴族への紹介の意味も込めたパーティーになるってこと」

「そこまで分かってるなら忘れないでください。」

「申し訳ないです」

「……その、私は出ないわけにはいかないん…ですか?」


 シエラフェリスは不安そうにアーレに質問する。

 まあ当然そうなるだろう。ある日、突然貴族家の一員となり、右も左も分からず、知り合いはアーレ1人。

 そんな中で多くの貴族に囲まれるパーティーに出なければいけないなんて気が気じゃないだろう。


「すみません。ご主人様が今回のパーティーはシエラフェリスを紹介するためでもあるとおっしゃっていました。出ないわけにはいかないと思います」


 シエラフェリスはその言葉を聞いて俯いてしまった。

 さすがに心配だ。あとたったの二か月で貴族社会に慣れることは難しいだろう。

 父上はこういう祝い事になると少し先が見えなくなる癖がある。

 喜んでくれているのは分かるのだが、今回はシエラフェリスが気の毒だ。


「とりあえず当日はアーレがずっと隣にいてあげてください」

「しかし、ネローア様も大変な日です。放ってはおけません」

「僕は他の執事さんかメイドさんに助けてもらうので大丈夫です」


 今回に限っては僕よりも優先すべきものがある。僕はフィニウス家の中でアーレ以外の人たちとも当然親交があるのだ。アーレがいなくとも助けを求めることができる。


「確かにそうですね。そうしましょう」

「いやっ……私が頑張ります。大事な日に迷惑はかけれません…」


 シエラフェリスはそういうがさすがに一人にすることは難しいだろう。

 そうなるとアーレも心配で仕事が手につかなくなるかもしれない。

 

「遠慮することはありませんよ。その日はシエラフェリスにとっても大事な日なんですから」

「そうですね。ここはネローア様に甘えましょう」


 そうアーレが告げるとまたシエラフェリスは俯いてしまった。

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