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泡沫の魔術師は今日も夢を見る  作者: Smogree
第一章 幼少期
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4.初めまして、すみません

 さっきの子は誰だったんだろう。

 この家に同年代の人が出入りすることはあまりない。僕が知っている中でも一人だけだ。

 

 まあ後でアーレに聞けばいいか。勉強会に遅れるわけにはいかないのでとりあえずカイルの部屋へ行こう。


 廊下で見かけた子供が気になりつつも、カイルの部屋の前に到着し、扉をノックした。


「あっ!兄さん!どうぞ入ってください!」

 

 扉を開けると嬉しそうな顔をしたカイルに出迎えられた。

 そのまま誘導されて部屋に入り、椅子に座った。


「それで今日は何の勉強をするの?」

「今日は経済の勉強です!もう少しで講師の先生が来るので待ちましょう」


 今回は講師の人に教えてもらうことになっているようなので、話をしながら待つことに。

 魔法の話、最近あった面白い話など様々な話をしたがまだ講師は来る様子はなかった。

 話のネタが無くなってきた頃、ふと気になっていたことを思い出した。


「そう言えば、あの子とはどうなったの?」

「あの子とは誰ですか?」

「ん?とぼけても無駄だよ。ウェーナさんだっけ?」


 ウェーナとはカイルの許嫁であり、年齢は僕よりも一つ上である。二年前の王の即位に際した大宴会の時に出会い、なんやかんやあって一年前相手側からの求婚もあり正式に許嫁になったらしい。

 ちなみにその時僕は病気発覚前であったのにも関わらず誰から求婚されることもなかった。……うん、日ごろの行いだよね。病気になる前からほとんど社交場に出ずに魔法の研究なんてしてたらそうなるよ。

 一つ下の弟に先を越されているがまあ仕方ないよね?と言い聞かせることにした。


「でどうなの?そんな顔赤くしてないでさあ」

「兄さん……とても悪い顔をしてます。」

「半年くらいほとんど引きこもりしてたから分からないんだよ。ね!教えて?」


 今はきっとさらに悪い顔をしているだろうがそんなことは関係ない。気になるじゃないか、弟の恋路は。


「……月に一度お会いして話をしているだけです…」


 カイルは少しムスッとした表情で言った。

 少しからかいすぎたかななんて反省しつつも、最後に一つだけ……


「ほんとにそれd……」

「ほっほっ、少し遅れてしまいました。申し訳ありませんお二方」


 汗だくの小太りおじさんが部屋に入ってきて強制的に話は中断させられた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それでは今日はここまでにしましょう」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました!お見送りしますよ」


 カイルは講師の先生と共に部屋を出ていった。僕もそれに続いて部屋を出る。


 長時間の勉強はさすがに疲れるな。

 カイルは僕と違って勉学の面でとても優秀である。最近よく一緒に勉強するようになってそれを再認識した。ちなみに僕はというと勉学の方は一般レベルであり、決して優秀とは言えない。

 そんな兄にいつまでも尊敬の眼差しを向けてくれるカイルには感謝しかない。

 

 もうそろそろアーレも帰ってきてるだろうし、さっきのこの子のことも聞けるだろうか。

 大きく背伸びをして、自分の部屋へと歩を進めた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今日は魔力回復薬使えないからな。この後は何をしようか。


 そんなことを考えながら自分の部屋に入るとそこにはアーレともう一人、先ほどの子供の姿があった。アーレは鼻歌を歌いながらその子の髪を櫛で梳いているが、その子供は居心地が悪そうに小さく座っていた。


「アーレ、戻りました。」

「あっ、勉強お疲れ様です!」

「ありがとうございます。廊下でも気になったんですけどその子はどうしたんですか?」

「ああ、こちらの子は新しくフィニウス家に迎え入れるために孤児院から来てもらいました」

 

 なるほど。それでアーレと一緒にいたのか。


「この子はアーレが連れてきたってことですか?」

「そうですね。ご主人様にお願いされまして」


 アーレはよく孤児院に行き、献金をしたり孤児たちと遊んだりしている。孤児受け取りには審査もあるので、顔見知りであり条件も知っているアーレが行った方がスムーズに事が進むからだろう。

 

「ネローア様があまり社交場に出たがらないので、それを危惧したご主人様が……」

「そういうことだったんですね。初めまして。名前はなんて言うんですか?」


 僕が社交場に出ないことと新しい家族を迎え入れることがどう繋がっているのだろうか。

 目の前の女の子は今も肩身が狭そうにしている。新しく妹ができたのだ。せっかくなら仲良くしたいと思う。

 だから少し睨むのをやめてほしい。


「……ああ、この子はシエラフェリスと言います。ネローア様とは同い年ですね」


 シエラフェリスは口を開くことはなく、アーレが問いに答えてくれた。

 短めの薄緑色の髪から覗かせている視線は少なくとも僕のことをよく思っていないようだった。


 まだ出会って少ししか経ってないんだけど……


 確実に嫌われるようなことはしていない……はずである。まあ、知らない家に突然連れてこられると誰でもこうなるか。そういうことにしておこう。


「こんにちは、シエラフェリス。僕はネローアと言います。これからよろしくお願いしますね」


 出来る限り自然な笑顔で手を差し出して、握手を求める。

 最初なんてこんなものさ。少しづつ仲良くなっていけばいい。


 しかし、差し出した手を取ってくれることはなく、アーレの後ろに隠れてしまった。


 ……え?さすがにショックなんだけど??ここまで拒絶されることってあるんだ?


「…私……私この人と結婚するなんて嫌!」


 


「……へ!?なんかすみません」


 僕は混乱を隠せなかった。

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