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泡沫の魔術師は今日も夢を見る  作者: Smogree
第一章 幼少期
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3.運も実力の内

「俺がありがたーい助言をしてやるぜ」


 自信満々に立ち上がったアルさんに期待の眼差しを向ける。いつも面白い話をしてくれるのだが、たまに有益な話を教えてくれる時もある。


「本当ですか?教えてください!」

「とは言っても俺は魔法のことよく分かんねえからほんとに役立つかは怪しいがな」


 そう言いながらアルさんは勢いよく倒した椅子を持ち上げて座り直した。さっきまでの自信は何だったのか……勢いだけで話を始める癖は二年前と変わっていなかった。

 

「……」

「おいおい、無言で見つめるのはやめてくれよ」

「なんかろくでもない話が始まる気がして……」

「はあ?ほんとにろくでもない話してやろうか?」

「すみませんでした。」

「分かればいいんだよ。きっと有益な話だ!耳の穴かっぽじってよく聞けよ」


 そう言ってアルさんは最初の自信を取り戻して話を始めた。


「前に話したと思うが、七大魔王については知ってるよな?」

「はい。七種の魔族の王ですよね。」


 確か魚人、獣人、鬼人、巨人、吸血鬼、竜人、悪魔の七種だったかな。魔王の名を冠したものに出会うことは文字通り、終わりを意味するとまで言われるほどに凶悪かつ屈強らしい。

 

「そうだ。その中にな、魔素に干渉できる可能性があるやつがいるんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、俺も実際に見たことあるわけじゃねえがな」

「もったいぶらないでくださいね」

「わりいわりい。吟遊詩人の性なんだよ。」


 僕はいい加減待ちきれなくなってアルさんを見つめる。話始めると長いことはよく知っているから早めに忠告しておいた。クライマックスはなるべく焦らしたい質らしい。多分、吟遊詩人の性は関係ないと思う。


「分かったよ。そいつってのはな、悪魔だ。魔族以外なら精霊なんかも可能性があるな」

「その2種族に何か共通点とかってあるんですか?」

「そいつらは体が自身の魔力で構成されてるんだ。つまり人間よりも魔素と自分との境界が曖昧ってことだな」

「……ああ、なるほど」


 僕はアルさんの話を聞いておもむろに紙を取り出して術式を書き殴り始めた。


「その感じだと役に立てたみたいだな!感謝してくれよ!」

「はい!ありがとうございました。少し道が開けたかもしれません」


 満面の笑みでアルさんにお礼を告げるとまた誰も入り込めないほどに集中してしまった。


「ハハッ、頑張れよ。それじゃあ俺は帰るとするわ」

「分かりました。お見送りします。」


 アルさんはアーレに連れられて部屋を出ていった。


 「じゃあ僕も勉強の時間なので行きますね。頑張ってください、兄さん!」


 それに続くようにカイルも部屋を出ていった。


 それからほとんどの時間を自室で過ごし、研究に明け暮れるようになった。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ネローア様、朝食の準備が……」

「出来た!……あ!おはようございます、アーレ!」


 アーレの方へ振り返って満面の笑みで挨拶をした。


「おはようございます、ネローア様。今日は上機嫌ですね。どうかされましたか?」

「それは後でのお楽しみだよ!早くご飯を食べに行こう!」


 手早く準備を終わらせ、僕たちは足早に食堂へと向かった。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それでネローア様?朝はいつになく上機嫌でしたが、ついに完成したのですか?」

「そうだよ。病気を根本的に解決できるものではないけど成功できれば大きな一歩さ!」


 今回の魔法は病気に直接作用するものではない。アルさんの言っていたことを実践するためのものだ。

 

「今回の魔法はどんなものなのですか?兄さん」

「自分の魔力と魔素の境界を薄くする魔法だよ。あとはこの魔法陣に魔力を注ぐだけで発動するはず」


 あの助言を受けて半年、やっとの思いで完成させた魔法だ。


「これは慣らしのための魔法だからね。これが成功しないと次に進めない」

「きっと成功できますよ!」

「うん!ありがとう」


 魔法陣に片手をかざす。目を閉じて深呼吸をし、集中し直す。


「では!いきます!≪浸透≫(インフィルトリーレン)

 

 意を決して魔法陣に魔力を込めた。

 魔力が吸い取られると同時にある感覚に陥った。

全身に違和感を感じる。体中汗でべとべとになった時の、そんな不快感を。


「アーレ、魔力回復薬をください!」

「こちらに」


 魔力を回復して、魔法陣に魔力を注ぎ続ける。

 徐々に感覚が研ぎ澄まされていき、不快感から解放され始める。


 今度は水に浸かっているみたいな感覚だ。とは言っても当然重さとかはないな。これが魔素ってことでいいのかな。


「……ふう。とりあえず成功かな」


 僕は魔法陣の使用をやめ、一息つくことにした。

 ちなみにあの感覚は残ることなく、すっかりと元の状態に戻った。


「お疲れ様です、ネローア様」


 アーレはお茶を出し、労いの言葉をかけてくれた。


「ありがとう」


 今回は失敗ではなかった。しかし、思ったような成果を得られたわけではない。さすがに一度だけで慣らしが終わるとは思ってはいなかったが、感覚が元に戻るのは誤算だった。

 やっぱり、何度も慣らしを繰り返していくしかないのかもしれないな。


「兄さん、今回は何をしていたのですか?」

「ああ……今回は僕の魔力を魔素に浸透させていたんだ。境界を無くせられるかなって」

「あれ?魔素には干渉できないのでは?」

「魔素に直接干渉しなければそこまで難しくはないんだ」


 僕はカイルに詳しく説明した。

 

 魔法というのは知覚していないものに効果を付与することは出来ない。そういう意味で魔素に干渉することができないということだ。今回の魔法は自身の魔力に≪浸透≫(インフィルトリーレン)を付与し、その浸透する対象を周囲の空間に設定した。

 するとどうなるか。周囲の空間という曖昧な対象設定により、周りの魔素も副次的に対象に設定されたのだ。


「まさかこんなに上手くいくとはって感じだね」

「つまり、偶然も重なっての成功ってことですね!」

「う、うん、まあそういうことだね。都合よく行って良かったよ」


 確かにここは大分賭けの要素が大きかった。半年かけても偶然にかけることしかできなかったのは反省点だな。

 魔力回復薬は魔力回復促進薬とは違って高価だからなあ。成功確率を高めるために試行回数を増やせないのが悩みどころだ。


「今後はどんな研究を進めるんですか?兄さん」

「当分は魔素を知覚する感覚を掴むために、同じことの繰り返しかな」

「……そうですか。」


 カイルは少し悲しげな表情をしていた。そんなに魔法研究見るの楽しかったのか。ちょっと申し訳ないな。


「その分、カイルと話す時間も増やせると思うよ」

「ほんとですか!嬉しいです!」


 笑顔がまぶしすぎる!これはずっと構ってあげたくなるよ。

 実際、対象が曖昧なせいなのか、魔力消費が馬鹿にならないほどに多い。魔力回復薬にも限りがあるから魔法の使用も当然制限され、毎日使うことは出来なくなる。この半年はあまり話す時間を取れなかったし、これからは家族との時間を積極的に取ろうと思う。


「というわけでアーレ、これからはそんな感じだよ」

「かしこまりました。ご主人様にもお伝えしておきます」

「うん!よろしくね」


 それからというもの、これまでの一年半とは全く異なって自由な時間が多くなった。家族との時間も増え、自分のこと以外に時間を割けるようになった。もちろん魔法の勉強は続けているし、魔素を知覚する特訓もやっている。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな日々を過ごして三か月、カイルに一緒に勉強しようと言われたのでカイルの部屋へと向かっていた。最近では週に二回ほどカイルと勉強をしている。前まではほとんどが魔法の勉強だけだったのでそれ以外の勉強もなかなか楽しいものがある。

 カイルとも共通の話題が増えたことで以前よりも仲を深めることができた。

 

 僕は軽い足取りで廊下を歩いていた。

 すると前からアーレがこちらへ歩いてくるのが見えた。隣には見知らぬ薄い緑色の髪を持った少女が歩いていた。不安な様子であたりをキョロキョロと見まわしながら歩いている。


「こんにちは!アーレ」

「こんにちは。勉強頑張ってください、ネローア様。それでは」

「分かってるよ。それじゃあまた」


 軽く挨拶を交わしてそのまま各々の目的地へと向かった。

  

 ……ん?さっきの子は誰だ?

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