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泡沫の魔術師は今日も夢を見る  作者: Smogree
第一章 幼少期
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2.鳥はわざとらしい

「兄さん、これすごいですよ!」

「なるほど、消費魔力が総質量に依存するのか…なかなか汎用性がありそうだな」


 部屋の中には数冊の本と二人の少年が浮かんでいた。


「ネローア様、そろそろ薬を飲んでください」

「そうだね。こんなことで倒れても嫌だし」


 僕は魔法を解いて薬を受け取り、消費した魔力を回復した。

 カイルが不服そうな顔をしているのを見ると少し申し訳なくなってくるなあ。


「要素の抽出、成功しましたね!兄さん」

「そうだね。予想通り上手くいって良かった」

「ネローア様、一歩前進ですね」

「ありがとう。でもここからが問題なんだ」


 僕はおもむろに落ちている本を拾い上げた。

 【水の根源】著者不明の本であり、水の性質について詳しい研究の結果が書き記されている。


「僕の理想の道筋はこの浸透する力と循環する力を魔素に適応すれば、症状を軽減することが可能だと思うんだけど…」


 そう言いながら本に書かれている文字を指差し。カイルが覗き込んできた。

 

「それは難しいのですか?」

「そうだね、カイル。そもそも魔素に干渉すること自体難しいんだ」


 魔素とは生物の魔力の根源となるものでどこにでも存在するが視認することはできないと言われている。もちろん干渉することなど言うまでもなくだ。

 現在ある魔法理論で魔素に干渉できる魔法を作れるのかそこが悩みどころである。

 眉間にしわを寄せながら書物と向き合っていると、突然ドアをノックする音が部屋の中に響いた。


「お取込み中失礼するよ。ネロ、お客さんだ」


 そこには父ネベルの姿があり、後ろには翼を携えた人の影があった。


「ネロ!!久しぶりだなぁ!」

「!?アルさん!久しぶりです!二年ぶりくらいですかね?」


 後ろにいたのは鳥の獣人である吟遊詩人のアルバトリであった。


「そうだな!大きくなりやがって。聞いたぜ、俺の言葉が希望を与えたとか」

「そうですよ!ほんとに助かりました!でも自分でいうのはどうかと」

「そう言うなよ。吟遊詩人冥利に尽きるぜ!」


 アルさんはお父様の古くからの親友であり、僕も病気を発症する前から親交がある。よく世界中を飛び回った話を聞かせてくれたのはいい思い出だ。


「二人も久しぶりだな」

「アルさん、久しぶりです」

「お久しぶりですね、アルバトリさん。こちらへどうぞ」


 二人にも挨拶を済ませたアルさんはアーレに誘導され、僕の前の席に着いた。


「アルさんは最近まで何をしていたんですか?」

「今回は西の方まで飛んで行ったぜ!ほいっ、お土産だ」

「……?何ですかこれ?」


 僕は首を傾げた。手の上で骸骨がカタカタ小刻みに動いている。怖い。


「それ、呪いの置物だぜ?」

「うわああ!」


 僕は髑髏を投げてしまった。落ちていくのがゆっくりと見える。これ逆にやばいかもなんて思っていると時すでに遅く地面に叩きつけられ壊れてしまった。


「あ、あの…これ大丈夫ですよね?」


 僕は恐る恐る確認した。

 

「ハッハッハ、冗談だよ。おもしれえな」

「面白くないですよ。なんて嘘つくんですか……」


 忘れていた。アルさんがこういう人だってことを。


「わりいわりい、許してくれよ」

「はあ、いいですよ。気分転換になりましたし」

「ならよかったぜ!しかし……手紙である程度は聞いていたが、大変そうだな」


 先ほどまでの陽気な雰囲気とは異なり、アルさんは周りを見渡しながら少し悲しそうな表情をして言った。


「最初こそ大変でしたけど、今は楽しいですよ。目標があるとやる気が違いますね!」


 当然、最初の半年こそ制限されることを窮屈に感じていたが、今はやるべきことが明確にあるから逆に充実しているまである。

 

「フッ、お前は強いな。将来いい男になるぜ」


 アルさんはどこか遠い目をして言ったが、すぐにいつもの笑顔に変わった。


「俺がこんな顔してちゃ、駄目だな!ネロ、最近はどうなんだ?」

「それがですね、丁度さっき少し進展したんですよ!」

「そうなのか?ちょっと見せてくれよ」

「いいですよ。汝に空を飛ぶ力を与えん ≪浮力≫(アウフトリープ)


 詠唱を終えると同時に、その巨体が宙に浮く。


「おお、こりゃすげえな!……でも新鮮味はねえ」

「……アルさんのために作ってません。」


 そりゃそうでしょ。自分で飛べる人に新鮮味なんてあるわけありませんよ。


「ハハッ、そう不貞腐れんなよ。でもよ、これ水関係なくねえか?」

「実はそんなことないんですよ!」


 よくぞ聞いてくれましたと僕はこの魔法の理論について説明を始めた。


「……ふーん、要素の抽出か。そりゃすげえな。噂に聞いたことはあるが理論として提唱してる奴は見たことねえ」


 世界中を旅し続けているアルさんにも新鮮な考えだったようだ。


「この感じだと順調ってことでいいのか?」

「いや、そこから行き詰ってるんですよね」

「なんか問題があんのか?」

「魔素に干渉する方法が見つからなくて…」


 アルさんにも現状考えている理想の魔法について話をした。


「なるほど…そりゃ大変だなぁ。うんうん」

「なんで少しにやけてるんですか?」


 僕はその含みのある話し方を見て少し疑問を抱いた。


「フッフッフッ……ネロ、よく聞けよ!このアルバトリ様がありがたーい助言を与えてやるぜ!」


 アルさんは自信満々の顔つきで腰に翼を当てて勢いよく立ち上がった。

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