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導かれた動物園

 化粧を済ませると、智子は部屋を出た。

 良い天気だ。

「!」

 扉を出て部屋を振り返った時、何か動いた。

 彼女は扉を開けて部屋を確認する。

 明るい部屋の中には、何もいない。

 再び部屋を出ると、ゆっくり扉を閉めていく。

『にゃー』

 猫? あの白い猫だ。

 閉めかけた扉を開いた。

 いない。

 扉を閉めながら、中にできる闇を覗き見る。

「!」

 猫だ。あの白い猫。

 そう思って智子が扉を開くと猫は消えてしまった。

「何なのよ!?」

 思い切って素早く扉を閉めて耳を澄ませてみる。

 うん、猫の声もしない。

 どこかは分からないが、猫が勝手に出入りしているのなら、閉じ込められて死ぬこともあるまい。

 智子は鍵をかけて、駅に向かった。

 目的の駅に着くと、トイレに入った。

 手を洗って化粧を確認した時、今度は鏡に白い猫が見えた。

 びっくりして振り返ると、そこには智子が鏡の前を退くのを待っている女性がいた。

 もう一度鏡を見ると、そこに猫がいる。

 慌てて振り返ると、待っている女性が怪訝そうな顔で見返してきた。

 やはりトイレ内に猫はいない。鏡にはガッツリ映っているのに……

 頭がおかしくなったのかと思いながら、服装を正し、トイレをでた。

 動物園に行くには、駅から出ている動物園行きのバスに乗る必要がある。

 案内板を見てバス乗り場を見つけると、待ちの列に並んだ。

「……」

 動物園は家族のものかと思っていたが、バスに並んでいるのはカップルばかりだった。

 家族連れは車で行くのだろうか。それとも自分が一人でいることのせいで、余計にカップルを意識してしまうのか。

 智子はそんなことを思いながら、列に並んでいた。

 来たバスに乗り、奥の座席に座った。

 次第に席が埋まっていく。

 すると智子の横の席へカップルがやってきて、男性が、彼女さんの方だけを座らせようとする。

「良いよ、ナオくんが座って。その代わり荷物持ってもらうから」

「ダメだよ、結構遠いよ、メイたんが座ってよ」

 外で『メイたん』呼びする男はどうなんだ、と心の中でツッコミがはいる。

 そのまま終わらないだろう席の譲り合いを始めたカップルを見て、席に座ったのを『失敗した』と智子は思った。

 このバスの一人席は全て『優先席』だ。

 ご老人が乗ってこない前提なら座ってもいいが、他の席が空いている時、真っ先にそこに座るわけにはいかない、だから奥に来たのに。

 奥は奥で『カップルが優先』かのように圧をかけてくるとは思わなかった。

「どうぞ、お二人で座ってください」

 智子は席を譲り、終点の動物園まで立っていた。

 カップルにお礼はされたが、譲ったことに対して良い感情は生まれなかった。

 彼女はチケットを買って中に入った。

 中は広く、フラミンゴがいる場所はどちらかというと奥で、それなりに歩かねばならないことがわかった。

 大学の頃を思い出しながら、順番に動物たちを見て歩いていく。

 記憶と同じ感じもあれば、全くレイアウトや動物を覚えていないものもあり、時折スマホで画像を撮ったりした。

 天気が良いせいか、気温が上がってきて智子は上着をバッグにしまった。

 ついでに日焼け止めを塗り直そうと、バッグを探している時に視線を感じた。

 今度は猫ではない。

 日焼け止めを塗り直した後、道の角々(かどかど)でチラりと後ろを確認するようにして歩く。

 何度かやっているうち、視線の主がわかった。

 気持ちよく晴れた動物園に、スリーピースのスーツを着ている男性がいた。

 視線は合わなかったが、どうやらそのスーツの男で間違いなさそうだった。

 家族連れやカップル、カジュアルな服装の中で、カッチリとスーツを着ているなんてそれだけで奇妙だ。

 なぜ最近、こうも変なことばかり起こるのか。

 智子はそう思って手を合わせ、指を組む。

「まさか」

 白い猫はこれを知っていて、動物園に行かせまいとしていたのだろうか。

 とにかくスーツの男は警戒するに越したことはなさそうだ。

 智子は動物より、後ろのスーツの男をまくことに注意がいくようなった。

 同じ動物の周りを回りながら、後ろの男を振り切ったところで、智子はフラミンゴの展示に向かった。

 相手が一人なら、これだけ広い動物園で一度はぐれたらよっぽどのことがない限り見つからないだろう。

 到着したフラミンゴの周りには子供を連れた家族が二組いるだけだった。

 それを確認すると、智子は安心してフラミンゴの様子を見始めた。




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