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狭いベッド

 ピンク色の水鳥が、次々と舞い降りてくる。

 数羽ではない。何十羽もの鳥たち。

 長い足で、泉に立つ。

 フラミンゴだ、と智子は思った。

 この泉にはフラミンゴがやってくるのか。

 この泉? って何?

 知っているはずがない泉なのに、まるで記憶にあるように思える。

『アルバート』

 自分から発せられた声。

 けれどそれは自分の声ではなく、動画で聞いた声だった。

『こっちだ』

 男性と思われる低い声。

 知らない声にも関わらず、聞き覚えがある。

 これはデジャ・ヴなのかしら?

 智子はそう思いながら、導かれる方へと進む。

 そしてたどり着いた先には、レモンの木があった。

『?』

 声の主と思われる男性が近づいてくる。

 背が高く、肩幅がありしっかりした体型だ。

『ルビー』

 その単語が、何を意味するのかわからないのに、心がときめく。

 私、この人に恋をしている。

 そうとしか考えられない心の動き。

 近づいてくる顔。

 アルバートと思われるその男性(ひと)の目を見ていると不思議なことが起こった。

 彼の深いブルーの瞳には空を映しているのか、星々が見えていた。

 その瞳を見続けていると、流れ星が落ちた。

 急いで振り返るが、空に流れ星はない。

『ルビー、今日はどうしたんだい』

 智子は、知るはずもないことを思い出す。

 彼の深い青の瞳は、彼の感情が映されている。

 感情の調子によって、時折、星が流れるのだ。

 何かを鏡写ししているものではない。

『ルビー、こんな夢ではなく、早く会いたい』

 込み上がってくる強い感情。

 夢? これが夢なの? 私の?

 智子は不思議に思った。

 どこかで見た光景で全てが感じられた。夢のように曖昧さがなく、向いた方向を見ることができた。そして、ここが『どこ』とは言えないのに、全てリアルで、とても現実的に思えるのだ。

『これが夢!?』

 近づいて来ていたアルバートが、急に彼女の両肩を押しすと、後ろに下がった。

 強い警戒心が伝わってくる。

 いや、ただそれだけではない。

 生涯の中で初めて感じるものではあるが、ライオンや狼など獣から受けるような異質な殺気、殺気としか言いようがない雰囲気が広がっている。

 私がルビーであれば恋人として、そうでなければ殺そうとまでの敵意に転じる。

 アルバートというこの男は、一体何者なのだろう。

『君はルビーに見えるけど、何か、混じってる!?』

 混じっているも何も、私は……

『私は、智』

 言い終えることが出来ないまま、目の前が真っ暗になった。

 黒い風景にピントが合うと、目の前にあるのはアパートの天井だった。

 智子は狭いベッドで体をまっすぐにして、横になっていた。

 そして頬と、枕が濡れている。

 夢の中の強い感情で、いつの間にか泣いていたのだ。

「何なの!?」

 天井に向かって、吐き捨てるようにそう言う。

 故意に切られたように夢が終わった。

 何かの、いや、誰かの意思を感じた。

 続きを見られてはいけないのか、見られたくないのか。

 頭の中が混乱しながらも、夢の中の光景を確かめてみたくなった。

 夢の中で見た、あのフラミンゴの庭。

 どこかでみたことがある。

 智子は、ぼんやりと考えながら、再び寝てしまった。

 部屋が明るくなり、目を覚ますと閃くものがあった。

「あのフラミンゴの庭……」

 学生の頃、付き合うか付き合わないか悩んでいた男性と、一緒に行った動物園がある。

 当然、動物園には昼間見ているから、印象はまるで違うものだが、智子の中の記憶だとすればそこしかない。

 行けば何かヒントがあるかもしれない。

 今日は休みで、特に用もない。

 夢からの誘導を感じながらも、智子は外出の準備を始めた。




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