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智子のルビー(仮)  作者: ゆずさくら


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24/30

ルビーの気持ち

 智子(ともこは体調不良を理由に、連日会社を休んでいた。

 佳代(かよ)にも、会社と同じように体調が悪いと伝えている。

 本当は体調はすこぶる良かったが、黒峰(くろみね)のこと気になっていて仕事どころでは無かったのだ。

 智子は部屋で面会に出かける準備をしていた。

 白い猫(ルビー)がやってくると、準備をしている智子の周りを確認するかのように、ぐるりと回った。

『智子。そんな格好で行くつもり? 下着は変えた? 下着は、もっとセクシーなものにしないと。前回は突然過ぎたから仕方ないけど』

 服の上から下着まで言及され、顔が熱くなっていた。

「な、何でよ。病院でそんなエッチなことしないわよ」

『どうかしら。吸血鬼のパワーを得て、彼も溜まってるかも。そうなればどうなるか、わからないわよ』

 そんなことのために病院に行くんじゃない。

 黒峰くんに悪いことをした、と思うから罪滅ぼしとしてお見舞いに言ってお世話するだけなんだから。

 智子は何度も自分にそう言い聞かせた。

『いいから着替えなさいよ。あんただってしたいんでしょ?』

「やめてよ! もう行かない!」

『それはなしよ。アルバートは今、完全な吸血鬼の力を発揮できない。誰かが守ってあげないと』

 確かにからかわれただけで見舞いに行かないというのは大人気ない。

 智子は一応、それなりに考えた下着を探し、服装も多少露出の高いものに着替えた。

 ギリギリ、病院に行っても大丈夫なラインを保っている、と思えるものだった。

 智子はそのまま病院へと向かった。

 面会の受付をして、黒峰の病室に着くと、扉が開いていて中から声が聞こえてきた。

「もう、勝手に夜出歩かないでください」

「すみません」

「だいたい、退院が遅れた原因だって、夜中に出て行ったことが原因なんですから。これ以上勝手な行動をするなら、治療は続けられませんからね」

 扉から覗き込むと、看護師さんが智子に気づいた。

「面会の方ですか? あなたからも、ちょっと黒峰さんに注意してください」

 智子は頭を下げながら、部屋の中に入る。

「あの、黒峰くん夜中出歩いてるんですか?」

「昼間、暇で寝てると、今度は夜に起きてしまってさ。昼なら許可を取れば動けるんだけど、夜だと許可とる人もいないし、仕方ないよね」

「だから、何度か説明してますが、仕方なくありません。夜はとにかく出歩いてはダメです」

 吸血鬼の血が夜、彼をそうさせるのかもしれない。

「とにかく安静にしてください。病院とはそういう場所です」

「面会の方も、注意してくださいね。一緒になって変なことしないでください」

「へ、変なことって……」

 看護師は智子の言うことなどろくに聞かないまま、部屋を出ようとした。

 扉を出てすぐ戻って来て、こう言った。

「恋人が来たからって調子に乗らないように」

「キスぐらい()いだろ」

 黒峰がボソッと言うと、智子は真っ赤になる。

 看護師は血相を変えて戻ってくる。

「ダメです。とにかく安静にしてください! そうじゃないと面会謝絶(めんかいしゃぜつ)にしますよ」

「大丈夫です。まだ恋人というわけではないですし」

「そういう問題ではないです。病室なんです。リハビリの場ではないんです。安静にすることが重要なんです」

 智子は出ていく看護師に頭を下げた。

 黒峰は頭の後ろで腕を組み、じっと智子を見ているだけだった。

 看護師が出ていって、病室に一瞬の静寂が訪れる。

「笹川さん、来てくれてありがとう。話をする前に、悪いんだけど、看護師さんが聞いていないか、外を見てきて」

 智子は一旦病室の扉を開け、周りを見て黒峰が横になっているベッド戻ってくる。

「もう看護師さん、離れたみたいね」

「もっと近くに来て」

「!」

 強引に体を引き寄せられ、あっという間に顔が近づくと、そのまま瞳を閉じた。

 求められるまま唇を重ね合わせる。

 彼の手が胸の辺りにきた時、智子はその手を掴んで止めた。

「ま、待って」

「大丈夫。体は至って健康なんだから」

「黒峰くん、状況はわかっているのよね?」

 彼は智子が抑えた手を握り返している。

「状況って? この前、そこのファミレスで二人が結ばれたこと?」

「そ、そういう無神経な発言、好きじゃないから」

「……ごめん。色々重過ぎて」

 いきなり体の中に吸血鬼がいるなんて、信じられないだろうし、さらに体の中に聖杯の銀が入っていて、全快するには手術が必要だけど、前田以外に執刀できる人がいないとか、それには相当なお金がかかる、なんて、今後の人生詰んだといわんばかりだ。

「そうよね。吸血鬼になったなんて言われても、って感じだよね」

「笹川さんも吸血鬼なんだと思えば、逆に嬉しくもあるけど」

「お、おばさんをからかうのはやめて」

 黒峰はずっと掴んでていた智子の手を、再び引っ張った。

 また顔と顔が近づく。

「そんな自虐的な言い方、好きじゃない。笹川さんはちっともおばさんじゃない。素敵な女性だよ」

「……」

 自然と二人の唇が近づいていく。

「!」

 突然、ノックの音がして二人は急に距離をとった。

 智子の目には、黒峰のかけ布団の上に白い猫が映った。

『お楽しみ中ごめん。壁谷(かべや)を呼んでいたの』

 黒峰が部屋の外の者を招き入れる。

「どうぞ」

 白衣と丸くて真っ黒なサングラスをかけた、山のように大きい男が入ってくる。

 黒峰の驚いたような声が病室に響く。

「だ、誰?」

壁谷(かべや)と申します。ハートリッジ家の極東担当執事にございます」

 白い猫が口を開ける。

『聞こえる?』

 黒峰が、周囲を見回す。

「何、今の声?」

 智子は驚いて、聞き返す。

「黒峰くんにも聞こえたの?」

『そうなるように話している』

「壁谷さんも聞こえてる?」

 大男が小さく頷く。

『壁谷に近況とこれまでの調査の報告をしてもらうわ』

「ここで?」

『時間がないのよ』

 壁谷が白衣のポケットから小さなメモ紙を取り出して、何かを確認すると、話し始めた。

「現状、智子様とルビー様は同じ体を共用していますが、その点に関して、ハートリッジ家が動き出そうとしています。ポイントは一つ。ハートリッジ家としては、ルビー様に完全な吸血鬼へと戻っていただきたいと願っていることです」

「……」

 猫は髭を撫で回してから、言う。

『具体的には、この体を捨てて別の人間に憑依させ、その後で殺そうとしている訳ね』

「あるいは、この状態で智子様を殺すか」

「どういうこと?」

 言葉の通りだとすれば、私か、私以外か、どちらにせよ人が一人死ぬということになる。

「そのままのことです。人間の体にルビー様がいる状態で、体を殺せば、人の心は死にます。ですが、すでに憑依しているので、体は全てルビー様のものになります」

「私か、私以外の人間を殺そうという発想なの?」

『完全な吸血鬼とは、本来、そういうことなのよ』

 それがルビーの気持ちなのだろうか。

「絶対にそんなことさせない」

 白い猫は爪を出して脅かすような格好をした。

『あなたを殺しに、吸血鬼が襲ってくるのよ?』

「ルビーに助けてもらうわ」

 猫はそっぽを向いた。

『助けられればね』

 体に似合わない小さなメモに目をやると、壁谷が言った。

「それと、調査の方です」

 それが、なんの調査かを黒峰にもわかるように説明する。

「アルバートが憑依する予定の人物が殺された件ね?」

「そうです」

 その時、智子には、黒峰の表情が変化したように思えた。

「血を収集している吸血鬼の証言では、情報が見られた可能性があるという話です」

「……」

 黒峰、いや、アルバートに猫の姿が見えているのかはわからないが、白い猫は彼の方に向いて言った。

『アルバート、あなたが最初に憑依しようとした者が誰か、覚えている? 名前とか』

 黒峰は首を傾げた。

「アルバートが出てこれない」

 智子は考える、体の中に聖杯の欠片、正確にいうと銛の先端が残っているのだ。アルバートの意識が出てこようとすると、その激痛に耐えれないのかもしれない。

『まあ、いいわ』

「情報を見た人物が、殺したと考えるのが筋ですが……」

「ビル側の監視カメラとかに映ってないのかしら? あ、吸血鬼は監視カメラに映らないんだっけ」

 智子がそう言うと、壁谷が追加の情報を話す。

「その点ですが、殺された現場には吸血鬼の気配はありませんでした」

「その血の気配って、ダンピールや、壁谷さんみたいな極薄く血が混じっている場合でも、わかるのかしら」

 白い猫があくびをする。

『わかるわよ。それはハッキリとね』

 猫は黒峰の胸の辺りで丸くなってしまう。

『とすると人間に私とアルバートの計画がバレていたことなる』

「ルビー様がネットでやりとりしていたのを、第三者に読み取られたということになります」

『不可能ではないと言うことね』

 黒峰が会話に入ってきた。

「もしネットの書き込みを見られたとしても、吸血鬼化するのを邪魔する為だけに人殺しをするでしょうか。その人、別の理由で殺された気がします。保険金の為とか、私的な恨みとか……」

 智子が頷く。

「とても的確な意見だと思うわ」

 白い猫は、赤い瞳で睨みつける。

『明らかにアルバートだけが狙われている。絶対に何か理由があるはずなのよ! 偶然なんて認めない』

 激怒するルビーを前に、三人はそれ以上意見を言えなくなってしまった。




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