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智子のルビー(仮)  作者: ゆずさくら


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18/30

瀕死

 スマホの明るさを最小限にし、通知をオフにした。

 通知がないので、定期的に意識をスマホに向けなければならないが、振動で気づかれるよりマシだった。

 すでにこの園内を何周しただろうか。

 身を隠せるポイントにも限界がある。

 バンパイアハンターは位置を掴んでいるか、掴んでいないに関わらず、常にプレッシャーをかけるような行動をする。

 完全にこの園内から撤退しない限り、有利なのは追いかける方だ。

 そう考えると、時折強い殺意が浮かび上がる。

 全力で仕留めにかかれば、逃げ回る必要など一つもないのに……

 だが、ルビーはその衝動を抑えなければならなかった。

 智子の意識を覚醒させてしまうからだ。智子がこの状態で覚醒すると、秘密にしていたことを知られる可能性がある。知られると、間違いなく邪魔を受けるだろう。それによってアルバート復活が阻まれることが、何より耐え難い。

 息を整えながら、ルビーは気持ちを抑え込む。

 スマホを見るが前田(まえだ)はまだ着く様子がない。

 とにかく時間を稼がねばならない。

 ルビーは夜空を見て、走り出す。

 人差し指を空に突き出すと立ち止まり、その指を水平に差し伸べた。

 彼女の指にコウモリがぶら下がる。

『仲間を呼んで』

 コウモリが飛び去っていく。

 ルビーは園内を逃げ回りながら、コウモリがやって来るのを待った。

 星あかりを覆い尽くすばかりのコウモリがやってくると、彼女はまた指を突き出した。

 一匹のコウモリがやってきてぶら下がると、ルビーはもう一方の手の指を自ら噛み、傷つけ、血を出した。

 出した血をコウモリに与えると、コウモリは飛び去っていく。

 突き出した指に、別のコウモリがやってきてぶら下がり、それにも血を与える。

 やって来るコウモリは代わる代わる指にぶら下がり、血を与えられると飛び去っていく。

『できるだけ分散して』

 奴は吸血鬼の血を感知しているに違いない。

 拡散するコウモリがもつ血を私だと判断すれば、混乱するだろう。

 どれが本物か分からなくなれば、こっちからも奴を見つけやすくなる。

 ルビーは最後のコウモリが飛び去っていくと、自らも闇に身を潜めた。

 ルビーとハンターは、互いに互いを認識出来なくなってしまった。

 そして夜は更けていく。


 一方、前田も動物園周辺にやってきて、目立たぬよう車を停めた。

 前田は目出し帽を被った。

 彼は動物園から感じるルビーの血の気配から、ただならぬものを感じていた。

「まずいな」

 前田は動物園の柵を乗り越え、中に侵入した。

 しばらく中を歩いていくと、ルビーの気配はあるのに、姿が見えなかった。

 彼女の気配が、実はコウモリだとわかると、彼は何が起こっているのかを理解した。

 このまま、強引に儀式を進めるしかない。

 彼は園内のマップを確かめ、目的のフラミンゴの展示場所に向かった。


 ダンピールは全てのコウモリを殺すつもりだ。

 ルビーは園内を回っていく中で、いくつか死骸を見つけていた。

 疑わしい影を全て倒せば、残りが私だということになる。

 ルビーは近くにもう一人吸血鬼がいることに気がついた。

 今なら前田、いや、吸血鬼フィオン・マックムールが加勢してくれる。

 ならば、早くフラミンゴの庭に向かい、アルバートを迎え入れる儀式を行わなくては……

 ルビーはフラミンゴの展示場所に向かい、園内の最短ルートを走った。


 前田は暗闇に血の気配を感じ、呼びかける。

「ルビーか?」

 反応がない。

 慎重に一歩踏み出すと、ヒラヒラとコウモリが飛び去っていく。

 またか……

 早く会って、事情を伝えないと危険なことになる。

 一箇所に固まるのは危険だが、フラミンゴのところへ向かうべきか。

 決断が出来ないでいると、彼は周囲の変化に気づいた。

「いない。さっきまでいたのに……」


 ルビーはフラミンゴの展示場所に着くと、様子を目に焼き付けた後、前田から受け取った血を取り出して、儀式を始めた。

 フラミンゴの展示の前で膝をつき、祈るように瞼を閉じた。

 彼女は前田に受けた説明を思い出していた。

『強くイメージすることだ。我々吸血鬼の思念なら、生と死の狭間に語りかけることができる。渡した血液(サンプル)を通じて、彼の肉体に降霊するようにアルバートが取り憑く』

 ルビーはアルバートと過ごした時間をいくつも思い出し、彼の姿を頭に思い描いた。

 夜空を飛び、人の住まない古城に忍び込んだこと。

 白夜の森で、ウサギ狩をした思い出。

 見つめ合う彼の瞳の中に星が流れる度、何度も祈った。

 二人でいるこの時間が永遠に続きますようにと。

『ルビー!』

「アルバート!」

 彼女が目を開いたが、アルバートはいない。

 殺気を感じて周囲を見回した。

 目出し帽をかぶった前田が何か、必死に訴えている。

「危ない!」

 ルビーは何者かに抱きつかれた。

 彼女の顔に、血が掛かる。

 抱きついてきた者の背中に、銀の銛が突き立っている。

 ダンピールの姿が、銛の延長線上に遠く見えた。

 ルビーは抱きつかれた者の顔を、そっと確認する。

 全てを理解した瞬間、彼女は叫んだ。

黒峰(くろみね)くん、死なないで!!」

 智子が覚醒してしまった。

 ルビーは彼の背中に刺さっている銀の銛を握った。

 聖杯の銀により、触れた場所から彼女の肉体が燃え始める。

 なんとか引き抜いたが、彼の背中からは大量の血が吹き出してしまっている。

 狂ったように背中を抑え続ける。

 そしてルビーの強い感情と智子の祈りが共鳴した。

『やめて! 死なないで!』

 その時、小さな小さな流れ星が、抑えている彼の背中に落ちてきた。

『大丈夫』

 ルビーと智子は背中の傷口が閉じるのを感じた。

「えっ……」

 黒峰の体が動いて、ルビーは飛び退いた。

 彼女は仰向けに黒峰を抱き抱えている。

 瞳が開き彼の口が動く。

「ルビー、心配ない。僕は戻ってきたよ」

 黒峰の瞳の中に夜空が見え、小さな小さな流れ星が動いて見える。

「アルバート!」

 黒峰は目を閉じて反応がなくなってしまう。

「黒峰くん!」

 ルビーの姿のまま、智子が言った。

 黒峰の体は反応するものの、目を開けることはなかった。

「どうしよう!!」

 困って周りを見るが、フィオンもバンパイア・ハンターであるダンピールもいなくなっている。

 おそらく前田(フィオン)がバンパイア・ハンターをなんとかしてくれているに違いない。

 ルビーはこのままの状態でアルバートがいられるのか不安だったし、智子は医師である前田の判断が欲しい。

 黒峰の体から声ではない意思が聞こえてくる。

前田(フィオン)の車が、動物園の外に停まっている。車で病院で戻り、治療してもらおう』

「アルバート!」

 ルビーは黒峰の体を背負うと、園内を走り、外壁を飛んだ。

 車に乗り込み、彼女は黒峰の頭を抱えるようにして後ろの座席に座った。

 しばらくすると、運転席に目出し帽を被った男がやってきた。

「急いで病院に戻ろう」

 声で、前田と分かった。

 エンジンをかけた時、ルームミラー越しに前田が片手で目出し帽を取るのが見えた。




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