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智子のルビー(仮)  作者: ゆずさくら


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13/30

アルバート・ノクターとルビー・ハートリッジ

 アルバート・ノクターは死んでいる。

 死につつあるというべきだろうか。

 彼もルビーと同じく吸血鬼である。吸血鬼は不老・不死と思われているが、実際にはそうでもない。寿命が非常に長いだけで、最後は細胞が維持できなくなって死ぬ。

 だが、そうは言っても本来なら彼はまだ若く、死にゆく年齢でも体でもない。

 ではなぜ彼は『死につつある』のか。

 これには訳があった。

 ルビー・ハートリッジとアルバート・ノクターは愛し合っている。

 普通に二人は結ばれない。なぜなら、各々家の問題が立ちはだかったからだ。

 ルビーのハートリッジ家とノクター家は昔から因縁深い関係で、互いに吸血鬼社会の覇権を争い、対立していたのだ。

 ある時、アルバートはハートリッジの吸血鬼に、親友を殺されてしまう。だが、彼もただ(・・)殺された訳ではない。ノクター家の者である彼が、無断でハートリッジのテリトリーを犯していたのだ。

 だが、親友を殺され逆上したアルバートは、彼の罪を棚に上げ、親友を殺した相手を殺してしまった。

 決闘を申し込んだわけでも、何もない。

 正当な理由なく吸血鬼殺しをしたアルバートは、掟を破った罪で追放されてしまう。

 アルバートの家族も、そんなことがあってからルビーを逆恨みして殺そうと企む者も出てきた。

 家同士の緊張感がこれまでにないほど高まってしまい、このままでは何もかもダメになってしまうと考えた二人は、ある計画を立てる。

 アルバートとルビーは一度死に、別の肉体で復活しようというのだ。

 ルビーはドレスの中に隠していた小瓶を取り出して見せる。

「これがその秘薬!?」

 アルバートはそれを手に取り、夜空にかざすようにして、瓶を振って中の液体を確認する。

 液体には夜空の星に加え、彼の瞳の中の星が映り込む。

「こっちが、アルバートの薬よ」

「聖水。これを飲めば……」

 アルバートの表情が固く、緊張したものに変わる。

「吸血鬼の肉体(・・)は滅んでしまう」

「依代となる者は?」

「遥か遠い国に生きる者よ」

 コウモリを使って、東の果ての遠い国から人間の一部、つまり血液を運んできた。

 その血に復活呪文をかけ、聖水に混ぜることで、肉体が滅んだ後、血の所有者に憑依することができるのだ。

 書に記述があるだけで、本当にそれを行なった者はいない。

 記述の通りに復活できなかったら……

 ルビーは震えた。

「怖いわ」

 アルバートはこれを実行するしかないと、決意していた。

 彼は少しでも彼女の気を紛らわせようとした。

「ちょっと東の国へ新婚旅行(ハネムーン)に出かけると考えれば」

「……」

 ルビーは頷いた。

 二人はそれぞれの秘薬を手に取って別れた。

 家同士の争いをやめさせて、各々が死んだと思わせる為、ルビーはノクター家の屋敷の前で、アルバートはハートリッジ家の庭先で、この秘薬である聖水を飲むことになった。

 相手の家族の前で、毒を飲み干した。

 サラサラとこぼれる砂となって、ルビーの、アルバートの肉体が、それぞれ滅んでいった。

 そこまでは良かった。

 二人は智子が暮らす極東の国で復活し、互いの家の争い事とは無縁の地で幸せに暮らせる…… はずだった。

 ルビーは智子の体の中で、夢を見た。

 アルバートは夢の中で、ルビーに告げる。

『僕はどうやら憑依できていない』

 アルバートが得た情報によると、彼の依代は交通事故に遭い、アルバートが死んだ時点で『灰に』なっていたのだ。

 それが、彼がこの世とあの世を彷徨いながら得た情報だった。

 そして、今も依代に取り憑くことができないまま、アルバートの魂はあの世とこの世の間を彷徨(さまよ)っている。

 今は彷徨っていられるが、この状態には時間的な限界がある。急がねば、彼の精神は行き場を失い、あの世へ行くことになる、つまり死んでしまう。

 同じ秘薬を使おうにも、肉体のない彼は薬が飲めない。

 彷徨う彼の魂を新しい依代に導く方法がわかれば、彼を復活させることができる。

 だが異国で、憑依した状態のルビー一人ではどうしようもなかった。

 敵対する吸血鬼ではなく、味方になってくれる吸血鬼に出会ったルビーは、藁をも掴む気持ちで言った。

「一つ相談があるの」

「いきなりなんだい」

 ルビーは小さい声で言った。

「アルバート・ノクターを地上に復活させたいの。何か方法を知らない?」

「……まさか。彼はまだ意識があるのかい」

 ルビーは小さく頷いた。

 ルビーはスマホを彼に向け、録画中であることを見せた。

 彼は急に小さい声になった。

「ああ、憑依させることが可能なことは知っている。やり方が記された書も持っている」

 たまたま黒峰を診察した医師で吸血鬼の前田(まえだ)歴彦(つぐひこ)、吸血鬼の名で言うところのフィオン・マックムールが、その術を知っているというのだ。

「で、依代はどうする」

「彼がいいわ」

「確かに最適な人物だな。後で検査ということで、血をとろう。その血があれば……」

 ルビーとフィオンの二人は、アルバートの依代としてある人物を選んだのだった。

「今、この場で行うのは問題がある。数日検査入院させよう」

 ルビーは静かに頷いた。




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