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処刑された元王太子妃は、二度目の人生で運命を変える  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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17. 接触

 その日の講義が全て終わった後、私は調べ物をするために図書室にいた。


 人気の少なくなってきた放課後の図書室。数人の生徒たちはそれぞれ離れた席に座って静かに本を読んだりレポートを書いたりしている。私も奥まった席に座って外国語の分厚い辞書を捲っていた。


 しばらく夢中になり時間を忘れて勉強していると、ふいに後頭部にふわりと触れられるような感触がした。


(……ん?)


 振り返ろうとした、その時。


「……っ、あ……」


 私の髪をまとめていたサテンのリボンがするりと解け、長い髪がふわりと肩に落ちてきた。


「うん。やはりこの方がいい」


 聞き覚えのある声に、弾かれたように振り返る。真後ろに立って私のリボンを指で弄びながらこちらを見下ろしているのは、まぎれもなくラフィム殿下だった。


「ひっ────!」


 一瞬でパニックになった私は息を呑んで後ずさる。机に背中が当たりガタッと大きな音を立てた。


「ふは、何だその声は。そんなに驚いたか?ステファニー・カニンガム」


 ラフィム殿下は楽しそうに笑うと、何の迷いもなく私の隣の椅子を引き腰かけた。


「…………っ、……ごっ……、ごきげんよう、……ラフィム殿下……」


 ようやく挨拶らしい言葉を絞り出した私を、ラフィム殿下は頬杖をついて楽しそうに見ている。その目に恐怖を感じた私は一刻も早くこの場から逃げ出したかった。緊張と絶望感で目まいがする。どうして……、この人がここにいるの……?


 私の動揺した姿を楽しんでいるらしい殿下は、嬉しそうに話しかけてくる。


「俺がいるとそんなに緊張するか?ずっと同じ学園で学んでいたというのに。……まぁ、こうして君と会話をするのはここでは初めてだな。……やっと声をかけられた」


 そう言うと殿下は、あろうことか私に手を伸ばし、髪を一房指に絡める。


「……っ!」

「……美しいな、ステファニー。君のこのプラチナブロンドはそばで見ると芸術的だ。……何故いつもあんな風にまとめてしまっているんだい?もったいない」

「……っ、」


 よく聞かされていた褒め言葉に吐き気がする。そうだ。この人はいつもこうして私の髪を弄びながら愛でていた……あの頃も……。


 どうにかして、早く立ち去らなくては。このまま会話を続けるのは、ものすごく良くない。絶対に。


「……じゃまに、なるので……。下ろすのは好きではなくて、いつもまとめております……」


 掠れる声でどうにか返事をしながら、頭の中では早々に立ち去る言い訳を必死で考えていた。このまま目を付けられるのはマズいし、……イレーヌにこんなところを見られたくない……。

 放課後に殿下が一人でいるのだからもうイレーヌは帰ったのだろうとは思うけれど、それでも私は気が咎めた。彼女を二度と傷付けたくないのだ。動悸が激しくなってくる。


「そうか。だが俺は下ろしている方がはるかに好きだ。君のこの美しい髪は唯一無二のものだよ。……時々は、こうして俺に流したままの姿を見せておくれ」


 殿下はそう言うと小さな子どもを愛おしむ時のように私の頭を優しく撫でる。……気持ちが悪い。ぞわりと鳥肌が立った。何の許可もなく赤の他人の女性にこんな風に親しげに触れてくるなんて、一体どれだけ厚かましいのだろう。


 一度この男に嵌められて処刑にまで追いやられているだけに、以前よりもずっとラフィム殿下に対して嫌悪感があった。


 もう一分たりともここにいたくない。


「……はぁ、ですが……、……あ、もうこんな時間に……!すみませんが殿下、私はこれで失礼いたしますわ。母が待っておりますので……」


 わざとらしいのは百も承知で、私は下手な演技をしてその場を去ろうと立ち上がった。


 しかし、


「っ!」

「……ステファニー」


 ラフィム殿下はすばやく私の手首を掴む。強い力だ。


(な、何……?!一体、何を言うつもりなの……?!)


 汗ばんだ私の手を掴んでくる殿下の手を払いどけたい衝動にかられる。それを必死で我慢していると、殿下は穏やかな声で言った。


「……逃げられないよ、俺からは」


(──────っ!!)


 恐ろしい言葉に頭が真っ白になった。


 な、何……?どういう意味なの……?

 まさか、殿下も知っているのだろうか……今のこの人生が、巻き戻った二度目のそれであることを……。

 

 混乱する私が硬直したままそんなことを考えていると、ふいに殿下がクスリと笑った。


「ふ……、高潔な美女が俺を相手に緊張している様は実に可愛らしい。また話そう、ステファニー」

「……し……失礼いたします」


 私はまだ力の入っている殿下の手から強引に自分の手を引き抜くと、そのまま図書室を後にした。




(……深い意味はなかったんだ、あの“逃げられない”という言葉には……。ただ狼狽える私を弄んで楽しんでいただけ……)


 万が一にも追ってこないかと、私は廊下を早足で歩きながら、ついに我知らず走り出していた。


 自分を相手に私が緊張していると思い込むなんて、馬鹿馬鹿しい。そんなわけないじゃないの。どれだけ自意識過剰なんだか。緊張するのは別の理由があるからよ。


 ムカムカしながらも私は焦り、考えた。


 このままではマズい。






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