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処刑された元王太子妃は、二度目の人生で運命を変える  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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16. 見つかる

 マルセル様と会話を楽しむふりをしながら軽いランチを食べている間も、私の意識はずっと入り口付近のあの席にあった。もう出て行っただろうか。怖くてチラリとも見ることができない。


「今日はあまり食欲がありませんね、ステファニー嬢。具合でも悪いのですか?」

「あ、い、いえ……大丈夫です。ちょっとその……朝食を食べ過ぎましたわ。あまりお腹がすいていなくて」

「はは、珍しい」


 目の前で優しく微笑むマルセル様に集中したいのだけれど、今日はもう無理そうだ。離れたあちらの席が気になって仕方がない。




 お昼休みいっぱい二人でお喋りした後、ようやく私たちは席を立つ。


「午後の講義は一緒ですね」

「ええ、こちらの扉から出ましょうか。次の講義室が近いですわ」


 私はそう返事をしながら、最後に確認するように向こうの入り口付近に目をやった。


 すると──────、



(…………っ!!)



 頬杖をついたラフィム殿下が、微笑みを浮かべながら私をじっと見つめていた。放たれた矢が真っ直ぐに私の胸に突き刺さったような衝撃に、私はビクリと震えるとそのまま固まった。まるでラフィム殿下の視線に捕らわれ、身動きがとれなくなってしまったかのように。


「……ステファニー嬢?」


(……しまった……!)


 はっ、と息を吐き出すと私は自分の心に鞭を打ち、どうにか殿下から視線を剥がすと無理矢理体の向きを変えた。


「どうしたの?顔色が悪い」

「……だい、じょうぶです。は……早く、出ましょう」


 どうしよう。目が合ってしまった。はっきりと。

 心臓は早鐘を打ち続け、たった一瞬の出来事で体中に汗が浮かんだ。


 気のせいじゃない。殿下は確かに私を見ていた。


 確実に、真っ直ぐに私のことだけを見つめていた。







「…………。……あぁ……」


 次の休日。自分の部屋で読書をしていた私は、あの日のことを思い出してまた絶望的な溜息をついた。ものすごく気持ちが焦る。どうしよう。


 ラフィム殿下に存在を認識されてしまった。いや、もちろん私という人間の存在はご存知のはずだ。公爵家の娘としてこれまで何度も顔を合わせる機会はあったわけだし、……だけど、数年前までのまだ年若い頃と今では全然違うのだ。子どもの頃のラフィム殿下は別に私だけに特別関心を持っているわけでもなかったし。


(……油断したわ。もう大丈夫だと思い込んでいた……。気を引き締め直さなくては)


「…………。」


 私は立ち上がると、部屋を出て居間へ向かった。今日は父が屋敷にいるのだ。




「学園生活はどうだ?ステファニー。順調かい?」

「……ええ、お父様。つつがなく……」

「成績も常にトップで、誇らしいわ。まああなたならきっとこうなるとは思っていたれけどね。ふふ」


 両親との会話を楽しむふりをしながら紅茶を口に運び、私は話を切り出す機会を窺っていた。


「マルセル殿は元気にしているかい?今月はまだうちに顔を出していないな」


(……っ!来た……!)


 この話題に持ち込みたかったのだ。私は落ち着いて紅茶を一口飲むと、微笑みながら返事をする。


「ええ、お元気にしておられますわ。最近は毎日ランチをご一緒してますのよ。彼とは話も合うし、一緒にいてとても楽しいですわ」

「まぁ、ふふ、よかったわねステファニー。あなたにとって最高のお相手じゃないの。マルセル様は誠実で礼儀正しくて私も大好きよ」


 母が嬉しそうにそんなことを言うので、私はその流れでサラリと尋ねた。


「ええ。……私たちの結婚はいつになりますの?お父様。あと数年もすれば卒業ですし、気になって……」


 すると父はうむ……と頷くと、


「まぁ、卒業後遅くないうちにとは思っているよ」


と答えた。


「……そうですか……」


(やっぱり卒業後か……)


 そうだろうとは思っていたけれど。

 何かよほどの事情でもない限り、在学中に結婚する子女はあまりいない。だけど私には悠長にその時を待っている心の余裕がない。

 先日の、食堂で私を見ていた殿下のあの目。

 頬杖をついて楽しそうにこちらを見て微笑んでいるその瞳は、まるで獲物を見つけた捕食者のようにギラついて見えた。


 断頭台のゴツゴツとした冷たい感触がふいに蘇り、背筋に冷たいものが走る。


「あら、なんだか残念そうねステファニーったら。そんなにマルセル様と早く結婚したくなったの?ふふ」

「っ!えっ……、あ……」


 母が私の方を見ながらニコニコとそんなことを言う。どう答えようかと少し逡巡していると、父がなんとなく面白くなさそうに言った。


「ま、どの道もう結婚は決まっているんだ。急ぐことはないだろう」






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