表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/39

プロローグ. 後悔

「ステファニー・カニンガムよ、ラフィム王太子殺害未遂の罪により、そなたを斬首刑に処す」


 静まり返ったその場に、国王陛下の冷ややかな声が響き渡った。両腕を拘束され跪かされていた私はその言葉を聞いた途端、背中にずん…と大きな岩が乗っかってきたような感覚を覚えた。ひどい耳鳴りがして、何も聞こえなくなる。


 両サイドから誰かに腕を持ち上げられ無理矢理立たされる。だけど、体は異様に重いし、足には力が入らない。恐怖と絶望で、私の全身はガクガクと大きく震えていた。


 ぐるり、と大きく向きを変えられ、私は引きずられるようにしてその場から立ち去る。強い力で無理矢理動かされているけれど、腕の痛みは感じない。ゆらゆらと視界が揺れている。


 その時、突如我に返った私は国王陛下を振り返り、力の限り叫んだ。


「陛下!!お待ちください!!お願いです……!私の……私の話を聞いて下さいませ!!私は、ラフィム殿下を殺そうとしたりしていませんっ!!私は、そんなことはしない……っ、これは、何かの間違いでございます!!……陛下……っ!!」


 首だけで必死に後ろを振り返りながら叫んだけれど、陛下のお姿までは見えない。ただ、私の声に返事をする人は誰もいなかった。


 そのまま引きずり出された私の後ろで、重厚な扉の閉まる音がした。






 断頭台まで歩く私を、大勢の民衆が見ている。騒がしい野次がただの雑音として私の耳に届く。もはや何も感じない。私は連れられるがままに無意識に足を動かしていた。



 その時─────




「ステファニー!ステファニー…!!あぁぁ……っ、神様……っ!!」




(………………っ!!)




 たった一人の泣き叫ぶ声だけが、意味を持つ言葉として私の耳に届いた。声のした方を見ると、そこには髪を振り乱した私の母がいた。涙に顔を濡らしながら私の方に手を伸ばしている。その隣には苦渋に満ちた表情の父がいて、母の体を支えている。


(……お父様……、お母様……っ!ごめんなさい、……ごめんなさい……!!)


 両親の顔を見た途端、堪えきれない悲しみが押し寄せ涙が溢れた。ああ…、母の胸に飛び込みたい……。


 どうして、……どうして、こんなことに────




 断頭台にうつ伏せの姿勢で固定される。これが現実に起こっていることだなんて、信じられない。


 なぜ、私がこんな目に遭わなければならないのだろう。なぜラフィム殿下は、ただ私と離縁してくださらなかったのか。


 私には分かっていた。この処刑が()()によって仕組まれたものであることが。


 あの女性を愛したラフィム殿下にとって、いや、愛しあう二人にとって、私の存在は邪魔だったのだ。私さえいなくなれば、あの人を新たに妻として迎えることができるから。


 でもだからと言って、こんな仕打ちはあんまりだ。


 ラフィム殿下には、元々別の婚約者がいた。私にも、別の縁談が進んでいた。それを強引に破棄してしまい私と結婚したのは、殿下の強い意志であったはずなのに。


 どこで間違ってしまったのだろう。どうすれば、私はこんな運命から逃れられたのか。


 私が、ラフィム殿下の目に留まらなければ。


 もっと早くに、私が別の方と結婚していれば。


 あの男と結婚などしなければ…………




 絶望に引き千切られるような母の悲しい叫び声が聞こえる。私は全てを諦め、目を閉じた。熱い涙が頬を伝う。


 頭上から、大きな音がした。


 その瞬間、私の意識は途切れ─────






 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ