プロローグ. 後悔
「ステファニー・カニンガムよ、ラフィム王太子殺害未遂の罪により、そなたを斬首刑に処す」
静まり返ったその場に、国王陛下の冷ややかな声が響き渡った。両腕を拘束され跪かされていた私はその言葉を聞いた途端、背中にずん…と大きな岩が乗っかってきたような感覚を覚えた。ひどい耳鳴りがして、何も聞こえなくなる。
両サイドから誰かに腕を持ち上げられ無理矢理立たされる。だけど、体は異様に重いし、足には力が入らない。恐怖と絶望で、私の全身はガクガクと大きく震えていた。
ぐるり、と大きく向きを変えられ、私は引きずられるようにしてその場から立ち去る。強い力で無理矢理動かされているけれど、腕の痛みは感じない。ゆらゆらと視界が揺れている。
その時、突如我に返った私は国王陛下を振り返り、力の限り叫んだ。
「陛下!!お待ちください!!お願いです……!私の……私の話を聞いて下さいませ!!私は、ラフィム殿下を殺そうとしたりしていませんっ!!私は、そんなことはしない……っ、これは、何かの間違いでございます!!……陛下……っ!!」
首だけで必死に後ろを振り返りながら叫んだけれど、陛下のお姿までは見えない。ただ、私の声に返事をする人は誰もいなかった。
そのまま引きずり出された私の後ろで、重厚な扉の閉まる音がした。
断頭台まで歩く私を、大勢の民衆が見ている。騒がしい野次がただの雑音として私の耳に届く。もはや何も感じない。私は連れられるがままに無意識に足を動かしていた。
その時─────
「ステファニー!ステファニー…!!あぁぁ……っ、神様……っ!!」
(………………っ!!)
たった一人の泣き叫ぶ声だけが、意味を持つ言葉として私の耳に届いた。声のした方を見ると、そこには髪を振り乱した私の母がいた。涙に顔を濡らしながら私の方に手を伸ばしている。その隣には苦渋に満ちた表情の父がいて、母の体を支えている。
(……お父様……、お母様……っ!ごめんなさい、……ごめんなさい……!!)
両親の顔を見た途端、堪えきれない悲しみが押し寄せ涙が溢れた。ああ…、母の胸に飛び込みたい……。
どうして、……どうして、こんなことに────
断頭台にうつ伏せの姿勢で固定される。これが現実に起こっていることだなんて、信じられない。
なぜ、私がこんな目に遭わなければならないのだろう。なぜラフィム殿下は、ただ私と離縁してくださらなかったのか。
私には分かっていた。この処刑が彼らによって仕組まれたものであることが。
あの女性を愛したラフィム殿下にとって、いや、愛しあう二人にとって、私の存在は邪魔だったのだ。私さえいなくなれば、あの人を新たに妻として迎えることができるから。
でもだからと言って、こんな仕打ちはあんまりだ。
ラフィム殿下には、元々別の婚約者がいた。私にも、別の縁談が進んでいた。それを強引に破棄してしまい私と結婚したのは、殿下の強い意志であったはずなのに。
どこで間違ってしまったのだろう。どうすれば、私はこんな運命から逃れられたのか。
私が、ラフィム殿下の目に留まらなければ。
もっと早くに、私が別の方と結婚していれば。
あの男と結婚などしなければ…………
絶望に引き千切られるような母の悲しい叫び声が聞こえる。私は全てを諦め、目を閉じた。熱い涙が頬を伝う。
頭上から、大きな音がした。
その瞬間、私の意識は途切れ─────