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Steel Curse  作者: 接木ねこ
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第一話「発火」

コンクリート塀を背にその少女は座っていた。


日々丁寧に扱っているのであろう美しい白金の髪を風で揺らしながら、何の礼儀もなっていない姿でそこにいる。


少女の頭部からはぽたりぽたりと赤い雫が落ち、黄土色の地面を静かに濡らしている。


青いワンピースから覗く白い肌は、何かに食い破られたかのように引き裂かれ、中の臓器が筋肉や骨といった束縛から解き放たれたかのようにあちらこちらに飛んでいた。


まだあどけなさの残っている顔にある一つの青い瞳に光はなく、もう一つの瞳には紅い花が咲いていた。




死体というやつがここには何百体と転がっている。


頭部をジューサーでグチャグチャにされたような顔の判別がつかない男の死体。


腸をずるずると伸ばし、地を這い、一つの赤いボーダーラインを引いた少年の死体。


子供を守ろうとしたのか、大人が覆いかぶさっているものの、何か大きなものに貫かれ共に大きな風穴の空いている死体。


一般人が一生に見る何倍もの何通りもの死体がここにある。


屍者(ししゃ)たちの肉体的におかしい点はどこかの部位が金属でできているということだ。


その肉と金属のマッチングは鮮烈であり、悪質であり、狂気的と言えた。


一人は腕を


一人は足を


一人は頭部を


そんな悲惨なアートに仕立て上げている。


彼らの手元には、何十年と製造されている劣化コピーのAKや、何世代も昔の今や化石の兵器と言われている武器が転がっている。


彼らの撃ち方を見るに兵士や民間軍事会社(PMC)から教わった様子は全くなく、その稚拙(ちせつ)な立ち振る舞いには殺しながら溜息をつくほどだった。


肉のこんがりと焼ける臭いが鼻腔(びこう)をくすぐる。


ぶすぶすと民家や死体が燃えている臭い。


そんな事をしている炎の燃料はそこら中に流れている血であって、雨が降らない限り当分の間はモノを焦がすことに専念するだろう。


紅い風景を眺めながら俺は一人でタバコを吸った。


「人であれば、これを地獄と呼ぶのだろうか」


煤で汚れて青を見せない空を見上げながらそう呟いてみた。


人形である俺に人間の感情は到底理解できない。


だがこれが地獄なのであれば、俺はおぞましいと人間に言われている場所をずっと闊歩(かっぽ)していることになる。


首にかけていたドックタグを取り出す。


「アナクシビア部隊 コードネーム:フォルトゥム」


その小さな金属に刻まれている文字が鈍く輝いた。



「作戦開始一時間前、全部隊は身体停止モードを解除。作戦区域への介入を開始せよ」


しわがれた圧のある声を聞き、俺はゆっくりと目を開けた。


日差しと共にまず眼前に広がるのは多種にわたる木々である。


湿気の高さと暑さは顔を(しか)めてしまう程で、久しぶりのジャングルに入る作戦だと再確認させられた。


聞こえてくるのは名も知らぬ鳥の鳴き声と葉が揺れる音のみ。


視界(ウィンドウ)に映っている時刻を確認すると、ここに拠点を置いてから八時間ほど経過していることに気がついた。


「おはよーさん、フォルトゥム。素晴らしい作戦日和だねぇ」


声の方向に振り向くと、そこにはブロンドの長い髪を後ろで縛り、青い瞳をした女型人形が立っていた。

コードネームはインサニア。


俺たちの部隊で最も危険な人形だ。


「作戦開始時刻前に起動していたのか。何か問題でもあったのか」


その問いに対し、

「いや、ただ単に武器の調整をしていただけさ。やましいことは何もしちゃいない」

と薄汚れたブロンドの髪を弄りながら返して来た。


インサニアがそう言う時は、何かある時だが、今は無視をする。


毎度毎度、彼女の相手をしていては任務に支障が出る。


「ひとまず作戦区域への移動が最優先だ」


「ハハッ、やっぱ見た目はガキだけど、中身は兵士の見本みたいな奴だねぇ。フォルトゥムは」


俺の考えを悟ってか、ニヤニヤと笑いながら、インサニアはそう答える。


「これでもお前より前に作られたんだがな」


俺は岩壁から背を離し、昨日近くに埋めた装備を掘り起こし始める。


「フォルトゥム~、甲殻型強襲武装(スチールビートルウェポン)起動して良いかい?」


「あぁ、構わない」


そう返すと、インサニアは起動用デバイスを操作し始めた。


しばらくすると高音と共に、光学迷彩を使って隠れていた全長二メートルはあるだろう大



大きな鉄の蟹が姿を現した。


対人形用武装兵器。


それがこれのカテゴライズである。


人間に対しても有効ではあるが、それ以上の強度を誇る人形を破壊するための兵器。


無論、そんな強度の敵を相手にするこの鉄の蟹はそれ以上の強度を誇り、破壊するのは容易なことではない。


銀色に輝いている大きな蟹は、今もセンサーである二つの目でキョロキョロと辺りを見渡し、近くに目標とする敵がいないかを索敵している。


喰らわれる側ではなく喰らう側。


その立場は、俺たちも同じだ。


そんな蟹の重厚な質感に負けない黒いアサルトライフルを俺は取り出し、セーフティを外した。


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