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閉じたセカイで獣は吠える 8

「勘違いだったら謝るけど、これは人間ミサイルとどう違うの」

「人間ミサイルだな。600年前の回天という自爆兵器を思い出す」

ぼくのポッドに一緒に入っているドローンからユウキの声が聞こえる。

ドローンは戦場に無数に飛行しており、墜落すればまた新たに出撃される。

ユウキはドローンの全てを統括しており、送られてくるテラでは表せない膨大なデータを処理しながら戦場というチェス盤を支配している。

「着陸機能がついてるだけありがたいと思え。雑魚どもを薙ぎ払わず目的地まで行けるんだから。ユウキ、能力者は何人だ?」

「一人だ。まったく、囚われの姫を助ける王子様きどりか?王子というより姫だろう奴は」

「?」

「了解。そっちは任せる。俺はやばそうな場所に飛ばしてくれ」

「ラジャー!いっくぜ~!3、2、1、0!」

身体にとんでもないGがかかる。

特殊兵専用のポッドは快適性をあまり考慮していないらしい。

外が見えない。

目隠しで常識外れのジェットコースターに乗っているような感覚だ。

ふっと嘔吐感を伴う浮遊感に包まれ、ポッドは着陸した。

即座に目の前のハッチが高速で開き、血と硝煙の匂いが鼻に突っ込んできた。

そこは趣味の悪い見世物小屋のサーカスのようだった。

左腕が命を狩ることに特化し改造された機械化兵士が十徳ナイフのように様々な機能で銃と刀を備えた侍たちを圧倒し、三つの頭を持つ大蛇が口から吐く液は地面を溶かし大穴を空け続けている。

しかし、この異様で奇怪な戦場には女王がいた。

白く長い髪を振り乱し、晴れ渡る笑顔で跳ねまわり、ネズミ花火のように侍を駆逐している。

「あれえ、君、もしかして俺のお姫様をさらった横恋慕さん?」

その少女はぼくを見て笑う。

「お、俺?」

「君のお姫様になった覚えはないよ。彼は私のナイトで王子様さ。練馬天音」

「もしかして、婚約者って」

「俺の事だよ。俺は世界一可愛いから、かわいい物は片っ端から集めるんだ。女の子の服も、夕姫も、BFDもね」

その跳躍力と恐ろしい速度の足、そして『可愛い』BFD。

「兎?」

「お、よく分かったね。君のその牙、まさか夕姫がBFDを隠し持っていたとは。なんの動物だい?」

「さあね」

「まあいいや。夕姫を取り戻すには君を殺さなきゃって思ってたから、こんなに早く会えて嬉しいよ」

「ぼくも本物の男の娘を見るのは初めてだ。会えて光栄だよ。」

「と、いう訳で、あれがボクを縛る鎖のひとつだ。マコト、ぶっ壊せ」

「わかった」

「やってみな。狗藤真琴」

天音は指に挟んだ8本のナイフをぼくに放る。

金切り声を上げて飛んでくるナイフを、僕は一本一本認識して「牙」で弾く。

いかに能力者の投擲といえど、対物ライフルより速い訳じゃない。

そうたかをくくっていたら、弾いたナイフ達が不自然な軌道を描きもう一度僕に

遅いかかる。

僕はうしろに跳躍し、「牙」を伸ばしてなんとか7本弾く、弾いたナイフが最後の一本の軌道を変え、僕の頬を掠めた。

「面白い武器だね。如意棒みたいだ」

「ワイヤーでナイフを操ってるんだね」

天音の両手には左に4個、右に5個指輪がついている。形が違うセーブリング以外の8個は、それぞれワイヤーでナイフと繋がっていた。

天音は器用に指を高速で動かし、右手にナイフを集め、左手のナイフ達でまた僕を狙った。

ワイヤーの射程範囲外(アウトレンジ)から牙を伸ばせばいい――

 そう考えてバックステップを繰り返す。

「俺がなんの動物か忘れたか?」

僕が数回跳んだ距離を一瞬で詰め、右手のナイフを振るう。右手の「牙」は間にあわない僕は左手を犠牲にすることを刹那で判断する。ナイフは何とか骨で止まり、天音は、

「へえ」

二の腕の一部が噛み千切られ、血が流れている。

「犬か」

「ご名答」

「俺ってばお坊ちゃんだからよ。安全な場所で雑魚狩りばっかやってたから能力者と戦うの実は初めてなんだ」

天音はペロリと唇をなめる。

「すっごい楽しい。クセになりそう」

ぼくはなにも言わなかったが、心臓が高鳴り、恋のように胸が焦げて脳汁が止まらなかった。

「もっとやろう。こんなに楽しいなら、もっと早く獣の王と戦うんだったよ」

ぼく達は共に前に跳躍し、戦場に高らかな金属音を響かせた。



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