閉じたセカイで獣は吠える 7
短め 次回能力者同士が戦います
手に馴染んでしょうがなかった、あの竹刀を眺める。
「一本!」
織田家の剣術修練に反則はない。竹刀に気を取られている信人の足をはらい、頭に竹刀を雑に叩きこんだ。
「兄ちゃん!もう一本」
「もう36回目だぞ。ついでに言うなら3歳から通算8726回目だ」
信人には才能が無い訳では無かった。俺の天性の戦闘センスと、織田家のルールががっちりはまり、俺は8726回信人を斬り殺していた。
剣が大好きだった信人は、毎日修練の時間が終わっても道場で素振りをずうっと続けていた。「型通り」の信人の剣筋は一つ一つをとってみれば芸術の域に達していた。
圧倒的にセンスが無かった。あるいは悪意と言い換えてもいい。他人を叩きのめす方法を産む悪意のなさが、刹那、刹那の戦略の拙さに繋がっていた。
剣道なら信人の右に出るものはそういないだろう。ただ喧嘩の才能は皆無だった。
優しすぎ、真面目すぎる。俺はそんな信人を愛していた。
織田家は実力のあるものに投資を優先する。奇跡で流れ着いたBFDを誰に投与するか決める際、うつけの俺たちは親族同士で防具をつけずに木刀で殴り合い最後に立っていたものに投与すると一族の会議で決めた。
血と汗が飛び散った剣道場で、立っているのは俺と信人の二人きり。
俺は奇声を張り上げる。興奮したふりをして大振りで基本の技を繰り出す。
上段からの攻撃を受けるため防御の構えをとった信人。
俺はスライディングして足の骨を木刀で殴り、片手と足で飛び上がって後ろから信人を斬り伏せた。
BFDが投与された翌日、信人は「強くなりたい」と書き残して姿をくらませた。
優しい信人。真面目な信人。馬鹿な信人。
「信長」
「……真琴か」
「いらっしゃったよ。攻駆装、機械化兵士、改造動物、なんでもござれだ」
「特殊兵降下ポッドでBFD能力者にお前をぶつける。俺は地理的に弱い部分に降下する」
「わかった。――あのさあ」
「なんだ」
「なんでこんなことすんの」
「多分、お前と同じだよ」
「あ、わかる?頭の奥が熱くてしょうがないんだ。ぶっ壊せってうるさいんだ。でも」
「それじゃただの馬鹿だ。おなじ馬鹿共を守りたい――いや、違うか」
「ぼくは、ユウキと一緒にどこまでも行きたい。邪魔するものはなにもかも薙ぎ払って」
「そう、俺はあの織田家と見たことの無い景色を見たい。手当たり次第壊すのはただのきちがいだが、あいつらと一緒なら俺は――」
「大馬鹿の獣になれる」
「その通り」
「それじゃあ行くか。一宮の飼い犬。手始めに、戦場ごとぶち壊そう」
僕たちは狂った獣の王だ。本能の命じるままどこまでも駆けることしか知らないひとでなしの獣だ。