日常の大事さ
「・・・ース、・・・・・・ぅかー?・・・ーい、スペースー!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ふわふわとした感触、これは夢では無くベッドの上だろう事は何となく目を開ける前に分かった。
「おっ、やっと起きたかスペース、ったく調子が悪いのなら朝に言ってくれよな。じゃないと仕事の計画が狂っちまうぜ」
病人を心配する気持ちはあるのかと疑問に思ったが、親方はこんな性格だったなと再確認をする。
「調子は特に悪くなかったんだけどね、それにしてもさっきの轟音と揺れって何だったんだ?あんな衝撃初めてだったし・・・・・・と水、水と」
少し上体をよろめきながら用意されていたであろう水に手を伸ばし、飲む
何だか手に力が入らない様な気持ちの悪い感覚を覚えながら、まぁ倒れて吐いてたし仕方がないよな、と思う事にした。
「はぁ? 音も地揺れも無かったぞ? しかもさっきって・・・・・・お前あれから日跨いで寝てたんだよ。今日は昨日の次の日だよアホか?」
「・・・・・・は? とんでもない轟音と地揺れしてただろう?! あんな聞いた事もない音と揺れを知らないって、まさか昨日酒飲んで酔って寝てたんじゃねえだろうな!?」
「酒飲んで酔ってたが寝ちゃいねえよ! というかお前が倒れた時に真っ先に駆け寄ったのが俺だよ! やっぱお前調子悪いんだよ、さっさともういっぺん寝ろ」
そう言い親方、ガフ親方が毛の無い頭を赤くしながら怒鳴りつけてきた。
「何だってんだ、助けてやったのに酔ってただの、寝てただの、お前の今日の飯半分食っといてやるからな」
齢四十後半を迎えてるであろう、ガフ親方は子供の様にぶつぶつ言いながら休憩室から出て行った。
それと入れ違いで入ってきたのが、ガフ親方と一緒に仕事をしている同年代のヒスであった。
「おう、大丈夫か? 倒れたんだって?ハハハ、夜更かしのし過ぎなんじゃねえか? 」
そんな軽い感じの口調で喋ってくるのがコイツだ。
良い奴ではあるが、真剣なのか冗談なのかいつも分からないのが残念な甘い顔である。
「まぁちょっと左腕が痺れる感覚はあるが大丈夫だよ。なぁ、ちょっと聞きたいんだが、俺が倒れた時に轟音と地揺れが起こったよな?」
親方は真剣に話し合ってくれないので、ヒスに聞いてるが正直真剣か冗談なのか分からないんだよな・・・・・・と聞いてから後悔していた。
「轟音? ・・・・・・知らねえなあ、揺れに関してはお前が起こした失神で感じた揺れなんじゃ無いか?ハハハ」
これは冗談だと理解出来た。何ともムカつく奴だが顔のせいか憎めない
「それなら、声はどうだ?『集まれい』って声が気絶する前に聞こえた様な気がしたんだが」
「それは確実に幻聴だろ、まぁ俺たちが集まってたがなハハハ」
確かに事実なので何とも言えない返答だな。
「それとお前が倒れた時に大事に握りしめてた黒い石みてえな物は、お前の部屋に置いてるからな。汚ねえ部屋だな」
「勝手に入るんじゃねえよ」
そんな軽い喧嘩をしながらヒスは広場に戻って行った。
(あれが幻聴や錯覚・・・・・・とんでもねえけど周りは確かに知らないっぽいし・・・・・・体調悪いんだなやっぱ)
と、自分に言い聞かせて休憩室から自分の部屋に戻っていった。
(やっぱり力の入り具合がおかしいな、特に左半身が痺れてるし、片目も何かボヤけてるな)
ヨタヨタと自分の部屋へと戻りながら、途中声を掛けてくれた他の仲間達には大丈夫だと言い部屋に着く。
「はぁやっぱ自分のベッドが一番だな、とと」
自分のベッドに倒れて楽な格好で天井を見る。
外はもう陽が沈みかけていて、山の輪郭が薄っすらと見えるがそれもどんどん暗やみに紛れていく。
そんな暗やみが進む山の輪郭に、木より大きな影が一つ見えてくる。
その影は何かを探しながらといった風に長い腕を地面へ添えながら歩く。
そこには他の木こり達が使う家があった様だが、光が消え、残ったのは大きな陰と木の影だけとなっていた。