嫌な夢と嫌な現実
ふわふわとしているのか、ずっしりとしているのか表現が何ともし難い感覚がある。
目が開かない、口も開けられない勿論声だって出せない、そんな何もかもが封殺されたかの様な場所に居た。
額には脂汗をかき、背中にはジメッとした感覚がある。
「ふぅ・・・・・・」
目覚めの悪い嫌な夢を見ていた。稀に見る夢、歳が六を超えた辺りから見始めた事を覚えていて記憶に残る時もあれば、記憶に全く残らない事もある夢。
外は微かに明るくなり、山の輪郭がハッキリ見えてきているが日はまだ登っていない。
「何か今日の夢は重いというか、しんどくなるそんな夢だったなぁ」
そんな事を部屋の中一人で呟きながら、いつもの服に着替える。動き易さを重視している木こりの一般的な服だ。
十二歳を超えると何か職に就く、というのがこの国エール王国の法だ。歳は十六、木こりとしての仕事はもう板につき親方からも好きにして良いぞ、と言われるぐらいには慣れてきていた。
「・・・・・・ヨッと」
手に馴染んだ使い慣れた斧で勢いよく木の根元を叩いていく。
周りでも木を叩く音と、木が倒れる音と同時に男達の声が聞こえる。
「あぶねえぞ!!」
「おいバカ! こっちに倒すなよ! 倒す向きを考えろよ」
木が倒れる時に仲間が近くの木で作業していのだろう
そんな罵倒とも冗談とも取れるキツイ言い方だが、両人ともそこまで怒ってはいないのが声で分かる。
そんな事を思い、聞きながら、自分も今日の仕事をこなしていく。
「今日は陽が頭の上へ来る前に10本目に取り掛かれそうだな」
そう言いながら斧で6本目の木の芯近くを叩いた瞬間
ガチッ
斧が石に当たった様な音がし、勢いよく叩いたので手に痺れが出てくる。
「何だ?!」痺れる手を水を払う様な仕草で振る
「木の中から・・・・・・なんだこれ丸い石か?やけに綺麗な石、それに真っ黒だな」
そんな事を思い、斧を見ると
「うわっ! 斧にヒビが入ってらあ、後で親方に修理頼むのと、代わりの斧も出してきてもらうか」
今日の金と貯めてた金で買い替え、修理、どちらになっても問題は無いだろう、と自分を落ち着かせる。
「本当に何だこれ、まぁ少し不気味だがお宝かもしれないし貰っておくか」
そう言い斧で叩いても傷一つ付いていない、少し不気味な綺麗な石を手に持ち上げた瞬間、とてつもない轟音と地の揺れを感じた。
「ッッハ・・・・・・ァ?」
地面が爆発したのではと錯覚する程の轟音と衝撃
一体何が起こったのかすら分からず身体は地に前のめりに倒れる。
唐突な音や衝撃による吐き気を止められず、今朝食べた固パンを吐いてしまう。
ふわふわするような、ずっしりする様な、喋る事すら出来ずに思う。
(この感覚、確か今朝の夢に似て?)
だが今起きている事は現実であり、そう確信している。
何故なら今は目を開けられているからだ。
そして今、目の前では倒れている自分に駆け寄ってくる木こり仲間が見える。
(助け)
そんな小さな願いを心の中で呟くのと重なる様に野太い声が聞こえた。
『集まれい』
その声に疑問を浮かべる前に意識は、真っ黒な石と同じ様な黒い沼へと沈んでいった。