危険な賭け
そう声をかけられ振り向くとそこには隊服を着た体つきのしっかりとした男が赤髪の肩を掴んでいた
赤「俺ですか?」
?「お前以外に誰がいる。ったく、最近ここいらであの店について聞き回ってる赤い髪の男がいるってんで来てみれば……。」
そう溜息を零しながら呟く男
赤「あの店?一体なんのことでしょう。俺は関係無いので行ってもいいですか?」
聞き込みをしていた中で話しかける事はあっても話しかけられることは無かった
警戒するに越したことはない、そう思いとぼけてその場を去ろうとしたのだ
?「とぼけやがって…。まぁいい、あの店ってのは男共を売り物にしてる蜜景堂の事だ。」
あの店、蜜景堂<みつかげどう>とは白狐の売られていた店の名だ
そこまで知っている相手にとぼけても無駄だと話を聞くことにした
赤「えぇ、その店に着いて聞き回っているのは俺です。何かご用でも?」
そう尋ねると待ってましたと言わんばかりに話始める
?「おぉ、そうだった。お前に用があるんだった。俺は新選組の永倉ってもんなんだが……。ところでお前、なかなかいいツラしてるじゃねぇか。」
そんなことを言いながら赤髪の顔をまじまじと見る永倉という男
赤「はぁ……。そんな冗談はいいから、用ってなんだ。」
「それがお前の素か。まぁいいだろう。」とそんなことを呟きつつ
永「お前、ちょっとあの店の御館様について調べちゃくれねぇか?」
ニヤリと笑いながそんなことを提案してくる
どうやって、なんで俺が、など悪態が頭をよぎるがそんなことお構い無しに話を続ける
永「手段は簡単だ。お前も聞いただろ?常に人を欲しがってると。御館様って呼ばれてる野郎は裏方の人間でもそこそこ整った顔のヤツしか入れないそうだ。だから、お前が裏方として潜入しろ。」
なんてむちゃくちゃな…。そう思っていると顔に出ていたのか
永「安心しろ、先に俺の仲間が潜入している。そいつにお前が見聞きしたことを伝えるだけでいい。……取り戻したいヤツがいるんだろ?」
そう、こいつは全て知った上で話しかけてきたのだ
しかも、捕らえるのは御館様やその指示に従っている者だけで、売り物の男共は元の家に返すか暫くは面倒を見るのみ
別に捕らえる訳では無いらしく、逃げたいやつもしくは行く場所があるやつはそのまま追うことは無いと
そんな都合のいい話があるだろうか、しかしこれを逃せばいつあの美しくも儚く佇んでいた男を救い出せるだろうか
あの白狐が一月半過ごしたあの男であるという確証も無い
だが、店先に佇む雰囲気が初めて白髪の男と出会った時の雰囲気と同じに思えて仕方ないのだ
赤「分かった。その話受けよう。」
この機会を逃すのは惜しい
さらに言えば潜入中に白狐が白髪の男であると確証が持てればそれでいいと思ったのだ
永「そうか、ならまずは……。」
そう言いながら床屋に着物やと潜入の準備を整えていく
永「さぁ、準備は整った。今日はもう帰って明日その着物を着て店に行けば大丈夫だろう。今夜はしっかり寝とけよ?」
まずはきちんと寝て御館様とやらのお眼鏡に叶うことを願うしかない
赤「あぁ、分かってる。」
さ、明日から潜入開始だ