僅かな光
ずっと一緒だと言い、白髪の男が連れていかれた日から数日
どこから来たのか、どこへ帰って行ったのか。
名前も、歳も、何も知らなかった
それでも「一緒の時間」を過ごせるだけで良かった
ついこの間までそう思っていたのに、今はどうして何も聞かなかったのだと、せめて名前さえ聞いていればと後悔が頭の中を占めている
自分の中から何か大切なものが抜け落ちてしまったような脱力感の中、ただ無作為に街を歩き回りあの美しい白髪を探していた
けれど男が去ってから食事も手につかず、休む時間さえ惜しいと一日に二時間程しか寝ていない身体は既に限界を迎えていた
そのせいか普段なら足をふに入れることの無い夜の花街へと足を踏み入れていた
それぞれの店の前、客に触れられないようにと柵の中でただ静かに、それでいて華やかで妖艶な女達が道行く男達を魅了している
そんな中、何故か女達が群がっている店があった
その店先では女達が黄色い声を上げながらなにかにうっとりと目を奪われていた
花街といえば男共が群がるのだとばかり思っていたからかその店先だけが異様に気になり目を向ける
その店では女ではなく、見目麗しい男達が売られていた
こんなところに居ないだろう
そう思い他の場所へと向かおうと目を逸らした時、目の端に一際目立つ白い髪が写った気がして視線を戻す
そこには証明に照らされ綺麗に輝く白髪に鼻筋まで隠す白い狐の面、白く細い首筋、それを際立たせるかのようにあえて着せているような白い着物を着た美しい男が居た
先程から女達が話しているのはこの男だと思わずにはいられない程の美しい男だった
その男を見た瞬間
赤「(コイツだ。こんな所に居やがった!)」
そこに佇む面の男を見た時直感した
しかし、その男はさぞ高値なのだろう誰の相手も差せられること無くただそこに居た
他の数人の男は呼ばれては裏へと消えていくのに
今すぐにでも連れ出してしまいたい衝動を押え家路に着く
もしあのまま衝動に負けていたらその場で取り押さえられ、今後店に近づくことすら叶わなくなると分かっていたからだ
そして家路の途中にある屋台でたらふく食べ、家に着着布団をかぶり眠りについた
明日から情報収集するために
翌朝、久しぶりの食事と睡眠により体が軽く感じた
その足で昨夜の店周辺に聞き込みをしに行く
その日のうちに分かったことはあの店の店主は御館様と呼ばれていること、金さえ払えば女は勿論男でも関係なく相手をしてもらえるのだということ、そして常に人を探しておりそろそろ整った顔の男は店のものから声を掛けられることがあるということくらいだった
それから数日聞き込みをした結果、売られているのは地方の貧乏な家の出で、家族に泣く泣く売られたのではないかと噂されているという事、御館様という男が裏では違法な薬の売買をしているのではなかとお上に目をつけられていること
更に狐の面の男に関しても分かったことがある
その男は御館様にとても気にいられており、滅多なことではお客の相手はしないのだとか
ただし、薬を売る関係でお得意様にだけ高値で売っているのではないかと
そんな噂などの情報を集めていると一人の男に話しかけられた
「おい、そこのお前。」