11/22[冬:十月中気] 小雪
町はずれで鈴なりになっていた柿の実は、手近な枝からなくなっていき、今では梢にいくつかが残るだけになった。
今年の柿は出来がよかったらしく、早々と小鳥たちに食べ尽くされてしまった。
わずかに残された柿の実が夕日に照らされて赤く輝くのを眺めながら、僕はなんだかほっとしていた。
「どちらが先に恋人を作れるか」という競争をしている相手は入学して間もなく知り合ったユイナだ。
ユイナは、誰彼なく話しかける社交的に見える一方で、誰とも深く関わろうとしない、八方美人的な振る舞いをする女の子だ。
そんなユイナが、中庭のベンチで昼食をとっている僕の隣に陣取ったのは8月の終わり、新学期が始まってすぐの蒸し暑さの残る日だった。
「ねぇ、彼女いないんでしょ。」
ちょっと上目遣いに、挑発するように言い寄ってきた。
「せっかくの新生活なんだから、今年のクリスマスには恋人と過ごしたいんだよね。」
「でもね、いろんな人と話してても、いまいちピンとこないのよね。」
「決心がつかないっていうか、考えちゃうと粗探しみたいになって、気持ちがしぼんじゃうの。」
「だからね、競争相手がいて、何が何でも彼氏を作るぞって、勢いをつけたい感じかな。」
「まあ、嫌そうじゃないから、決まりね。今からがスタートよ。」
僕が口を挟む間も与えられず、一方的にまくしたててて、一方的に競争をスタートさせられた。
ユイナが言うように、僕は決して嫌ではなかった。僕もユイナと同じで、後押しというかプレッシャーがなければ何年経っても彼女ができないような気がしていたからだ。
「クリスマスの直前にできたって、他人行儀なクリスマスなんてつまらないから、11月中が期限ね。付き合い始めて1ヵ月くらいが一番盛り上がるっていうよね。」
「競争なんだから、恋人ができた方は相手からお祝いを貰えるってことにしましょ。」
「それから、お互いの進捗報告しなきゃだからID交換。スマホ貸して――」
すべてはユイナの思うがままだが、こうして始まった恋人作り競争はもう2ヵ月半が過ぎ、期限が迫っている。
文化祭や体育祭ではちょっと気になる女の子に声を掛けてみたし、別にできなければそれでいいと思っていた時期もあった。でも、毎日のようにユイナから送られてくるメッセージに返信しているうちに、僕の心は決まっていた。
「――ユイナ……。――僕の彼女になってくれないか?」
ユイナは少しだけうつむいて、ふふふと笑って、「いいよ」と答えてくれた。
そして、
「おめでとう。恋人できたね。お祝いしなくっちゃ。」
「でも、私にも恋人ができたんだから、ちゃんとお祝いしてよね。」
来週には冬将軍がやってくる。
僕は、ユイナに毛糸の手袋を送ろうと思う。
ユイナは僕にどんな贈り物をしてくれるのか、まったく想像がつかない。
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♪かきの実(与田準一)
楽曲ではありません。詩です。
小学4年生か5年生の国語の教科書の扉に載っていました。
担任の先生が暗唱を宿題にしたので、いまだに覚えています。
晩秋から初冬の風景を、柿の実に焦点を当てて詠まれています。
この言葉の美しさに小学生ながら感動をおぼえました。
与田準一は、明治38年福岡生まれで、1997年に逝去されている。
詩人であると同時に、児童文学者として童話の執筆も多い。
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小雪
├ 太陽黄経:240°
├ グレゴリオ暦:11月22-23日
└ 七十二候
├ 初候:虹蔵不見
├ 次候:朔風払葉
└ 末候:橘始黄




