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日常の一幕  作者: 警備員さん
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人生ゲームをしよう!


「それじゃ、人生ゲームやってこー!」


一人で楽しげに準備する杏華。方や、面倒なことに巻き込まれたと言わんばかりの顔をしている清治と、寝ている水本さん。ちなみに俺は準備の手伝いを差せられてます。


「……ってか、これって市販のやつじゃないよな?」


ピンとかは市販の人生ゲームについてくるやつだが、マスとかお金とか職業カードとかは手作り感がある。……とは言っても、文字は綺麗だし、マスやお金の大きさも均一なのでパッと見市販のやつと見分けがつかないできだが。


「そーそー。この前、友達と作ったんだよねー」

「お前、その情熱を他に注げよ……」


というか、なんで人生ゲームを作ろうと思ったんだこいつは。若干、妹の交友関係に不安を覚えつつも、準備の手は進める。


「……よし。準備できたぞ」

「オーケー。こっちも出来たー」


杏華は水本さんを起こしに行き、俺は清治に向かって来い来いと手を振る。すると、仕方ないとばかりにため息を吐き、渋々といった様子でこちらに来た。


「お前って、なんだかんだ言って断らないよな。こういうの」

「……うるせぇ。なんとなく自分でもわかってるよ」


ガリガリと頭をかきながらそう呟く清治。……自覚症状あり……と。飲んでる薬とかある?


「まあ、人生ゲームだしそう変なことは起こらないから安心してよ」

「……それ、フラグじゃないよな?」

「……多分」


準備している時にちらりと見えた不穏そうなカードを頭の隅に追いやって答える。俺は何も見ていない。いやほんとに。一瞬だったから。


「よーし、全員揃ったなー」


元気な杏華に連れられて、眠たげな水本さんがやってきた。


「じゃ、ルール説明行くぞー」


☆ ☆ ☆


どうやら、ルールはほとんどが普通の人生ゲームと同じらしい。サイコロを振って、出た目の数だけ前に進む。そして、止まったマスに書いてあるイベントによって所持金が増えたり減ったりしながら、最終的に1番お金を持っていた人が勝ちというルールだ。ちなみに最初の所持金は1万円とのこと。

唯一普通の人生ゲームと違うところは、マスのイベントがあの杏華が考えたところぐらいだろう。


「んじゃ、それぞれ何色にするか決めてー」


それぞれがピンを取っていく。俺は赤、杏華は黄、水本さんは青、清治は緑といった感じにわかれた。


「誰から行くか決めるよー。じゃんけーん……」


公平なじゃんけんの結果、杏華、俺、清治、水本さんの順番でゲームを進めることとなった。


「それじゃあ、始めるよー」


まず杏華がサイコロを振る。出目は3。そしてイベントはーー。


「『大食いで3000円ゲット』」

「ええ……お前最初からそれって……」

「まあ、杏華ちゃんらしいと言えばらしいですよね」


水本さんが苦笑しながらそうフォローする。さて、次は俺だな。サイコロを振る出目は5。イベントは……『美人局に捕まり、所持金全部奪われる』


「あっははは! 兄ちゃん、早速! 早速……はははっ!」


俺を指差しながらゲラゲラ笑う杏華。水本さんは顔を俯かせて肩を震わせ、清治はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。……ちくしょう、こいつら嫌いだ!


「……ほら、次清治だぞ」

「はいはい」


出目は3で杏華と同じで『大食いで3000円ゲット』。まあ、清治が大食いでってのは意外だけど……。


「なんかエンタメに欠けるな」

「いや、どういうことだよ……」


俺の言葉にげんなりしながら、サイコロを水本さんに渡した。水本さんの出目は2でイベントはなし。


そんなこんなで人生ゲームは順調に進んでいき、就職ゾーンでは、杏華は芸能人、俺と清治は編集者、水本さんは銀行員となった。その後、保険ゾーンへ突入。全保険加入の俺と、全保険スルーの杏華。残り2人はそれぞれ火災保険と自動車保険のみに加入した。


そして迎える中盤戦ーー。

順位はほぼ良イベントを引き当て、芸能人という高収入の職に就いた杏華が1位、次に清治、僅差で俺、最後に水本さんといった感じになっている。


「よし、芸能人から政治家へランクアップ!」


続いて杏華が芸能人から政治家へランクアップ。そして俺、清治は過労で仲良く一回休みを引き当てた。


「おい……」

「いや、すごい偶然……」

「兄ちゃんたちの会社、ブラックなんじゃないの?」


編集者って激務っていうし……。でも、人生ゲームじゃ関係はないよな。続いて水本さんの番。水本さんがサイコロを振ると出目は4。イベントはーー。


「『会社の上司からのセクハラ、パワハラに耐えられなくなる。仕事を辞める』……」


どうやら仕事を失ってしまったらしい。そんな水本さんに、杏華はルールブックらしきものを渡す。


「えっと、確か仕事辞めたら、3回休み。就職、転職マスにとまっても、1か6が出ないと就職できないから」

「それ、結構終わってません?」


ただでさえ最下位だったのにトドメを刺された感じになった水本さん。……悲しいかな。これ、人生ゲームなのよ。助けようもないのです……。


「じゃあ次あたしだな! えーっと……『共通の趣味から友達を得る。友達が3人増える』」


ここで新たに友達を得た杏華。ここでふと疑問が湧き上がってきて、それを聞くため口を開いた。


「なあ、友達って何?」

「兄ちゃん……。いきなりひねくれたこと聞いてきてどしたの?」


何を勘違いしたのか、可哀想なものを見るような目で俺を見てくる杏華。……いや、違ぇよ。


「そうじゃなくて、この友達数って何?」

「あー、それね。友達が多かったら、いいことがあったり悪いことがあったりするイベントがあるんだよ」


なにそれ聞いてない。清治と水本さんに目配せするも、初耳だと首を横に振る。


「杏華、そういうのは早く言え」

「まあ、この友達って中盤からしか出てこないから」


そんなこんなでつつがなく人生ゲームは進んでいき、続いては結婚ゾーン。


「このゲームの結婚制度ってどうなってるんだ?」


清治が杏華にそう聞くと、杏華はルールブックらしきものを読みながら答えた。


「えっとー。『結婚マスにとまったら、1番近くのマスの人と結婚します。その場合、離婚マスにとまるまで、2人の所持金は共有財産とする』とのこと」

「なるほど……」

「つまり、誰と結婚するかによって、このゲームの勝ち負けは変わるってことか……」


となれば、一発逆転もあるわけで、今最下位の水本さんでも杏華と結婚すれば一気にトップに躍りでるわけで。だが、それは俺たちにも言えることで、俺と杏華が結婚した場合でも一気にトップにいける。これは、1位の人が1番美味しくないイベントって訳だ。

つまるところ、俺が狙うべきは杏華、時点でーー。


「……清治と結婚する、か」

「え、なに、お前気持ち悪いぞ」


思考が漏れていたらしく、俺の言葉を聞いていた清治がドン引きしていた。……なんか最近、清治に引かれてばっかりだな、俺。


「ゲームでの話しね!? 現実の話じゃないから!」

「さすがに分かってるから」

「そう言いながら、なんで距離とってんだよ……」


そんな茶番をしつつ、ゲームを進めていく。


「あっ、私結婚マスにとまった」


と、水本さんが一言。

この場合、1番近いのは俺なわけで。つまり、水本さんの結婚相手は俺。


「まさかの全員スルーだった結婚マスにとまって結婚とは……。全員ストップの結婚マスで離婚するのか?」

「ってか、なんで全員ストップの結婚マス作ってるのに他の普通のマスに結婚イベント作ってんだ?」

「なんかノリで」


杏華と清治がなにやら話し合っているが、今はそれどころではない。つまるところ、ここであの二人が結婚したら、一気に差がつけられる。ゲームとしては俺と清治、杏華と水本さんのペアが1番面白いが、なったものは仕方がない。

幸い、水本さんは最下位といってもダントツでは無いため、一応今のところは1位。だが、水本さんはフリーター。収入源はほぼほぼイベント。……巻き返せるか……。


「大丈夫。あの二人が結婚してもすぐ離婚するかもしれないうえ、出産マスにとまる回数によっては全然いけます!」

「そうだな。離婚率も高いっていうし、それにまだ終盤には宝くじマス、人生最後の賭けがある!」

「いや、人生ゲームで離婚率とか言わないでよ……」


まだ行ける、まだ行ける。そう信じてゲームを進めていく。結婚祝い金で2人から3万円をそれぞれ貰い、2人が順調に結婚マスで結婚した際に3万円渡す。


「今日から、俺のことはお兄さんと呼べよ」

「なんでだよ」


等々、茶番を挟みつつそれぞれイベントでお金を増やしたり減らしたりしていく。そしてーー。


「やった! 教師になりました!!」

「よし、まだいけるぞー!!」


俺、水本さんペアは順調に杏華、清治ペアに追いついていく。そして次のターンにて、ゲームの流れは一気に変わっていった。


「なぁ!? 『あなたの何気ない呟きが大炎上! 職業を失いました。別の職業に就いてください。ただし、友達の数によって個人情報が売られるため、友達の数の分だけ再就職できない目が増えます』って書いてあるんだけど!」


今までの幸運のつけか、3人の友達に情報を売られ、運悪く再就職できないマスにとまってしまいフリーターになってしまった杏華。


「流れが来てる!」


盛り上がりは最高潮に。そして俺のターン。出目は6。イベントはーー。


「『あなたは過労により亡くなりました(ゲームオーバー)』ぁ!?」


まじかよ。これからって時に……。ってか、人生ゲームにゲームオーバーってあるのかよ……。


「今まで普通だったのになんでいきなりゲームオーバー……」

「あーそれ、あたしが考えたやつ」

「お前……ろくなの思いつかないよな……」


渋々盤上からピンをとる。


「ちなみに妻である美恵さんには、労災が下りて大金ゲット!」

「おー、やったー」


このイベントによって、一気に水本さんがトップに躍り出た。しかも、死んだ俺の財産を全部継ぐというオマケつき。

その後、何故か同じ編集者なのに過労死せずに出世した清治が、フリーターの杏華を支えながら頑張るも、宝くじ、最後の賭けに勝った水本さんが独走状態で1位に。続いて杏華、清治ペア。最後に死んだ俺。といった感じにゲームは終わった。


「最後の最後に俺が死んだおかげで勝ったみたいでなんか嫌だな」


なんとも微妙な感じだ。あそこまで積み上げてきたものが、一瞬でなくなってしまったのだ。しかもそのおかげで水本さんは勝てたのだから、今の心境は複雑極まりない。


「ま、人生何があるか分からないということで」

「ゲームにそんな現実要素いらないよ……」


いやほんとに。特にゲームオーバー要素とかいらなかったと思う。


「じゃ、最後に勝者の美恵さんになにかする?」

「何をするんだよ……」

「うーん、普通に全員で送るとか? 家まで」

「隣だよ」


こいつバカか? 呆れたようにため息を吐くと、むっと怒ったように睨んできた。


「なんだよ」

「いや、なんかバカにしてるようなこと考えてそうだったから」


こいつエスパーかよ……。なんてくだらないことを話していると、水本さんおずおずと手を挙げて話し始めた。


「なら、また今度私の選んだゲームで対戦ってどうですかね?」

「おー、いいじゃんいいじゃん」


杏華は乗り気なようで、しきりにこくこくと頷いている。


「それって俺も参加?」

「そりゃそうだろ。面倒くさいとかなしね。勝者の命令だから」

「いや別にいいけどよ……。というか、お前も負けてんだろ、しかも最下位」

「うるせー」


そんなこんなで、4人での人生ゲームは、次回の対戦の約束をして幕を閉じるのだった。


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