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日常の一幕  作者: 警備員さん
2/14

妹と出かけた日

二話目です


「兄ちゃん、財布用意して」

「へ……?」


六月の第一日曜日。その日、妹から俺に向けられた第一声は挨拶ではなく、脅しの言葉だった。


「え、なに? 俺、なにかした?」

「は? 何言ってんだ? ほらほら、財布用意して!」


そこで先ほどの言葉の意味を正確に理解する。


「あー、なるほど……。別にカツアゲじゃなかったか……」

「は? 兄ちゃん頭おかしくなった?」

「さすがにそれは酷くない?」


頭のおかしい子を見るような目で見られて、若干傷ついた。……昔は兄ちゃん兄ちゃんと、頭を叩きながらあれこれねだってきた妹はどこに……いや、それは今もか。

まあつまるところ、妹のこの兄に対する態度は今に始まったことではないのだ。


「で、なんで財布用意しないといけないんだ?」

「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた! 兄ちゃん、うちの近くのゲーセンのクレーンゲームに、新しくフィギュアが入荷するんだよ!!」


熱く語ってくるが、そう言われてもゲームセンターの情報を集めているわけではないうえ、ゲームセンター自体滅多に行かないのでテンションについていけない。


「えーと……。で、それでなんで俺が財布準備するの……?」


まさか、俺に奢らせるつもりなのか……。と、カツアゲ疑惑が再浮上してきた。が、そんな俺の反応に杏華は何言ってんのと言わんばかりの視線を向けてきた。


「そりゃ、兄ちゃんがあたしとゲーセンに行くからだろ?」

「ええ……。それ、いつ決まったの……?」

「ほら、どーせ暇だろ? それに、兄ちゃん貯金ばっかで何か買うとかしてねーし、遊びにもあんま行ってねーだろ? そろそろ金の使い時だと思うんだよ、あたしは」


雰囲気としては筋の通ったことを言っている感じを出しているが、冷静に考えてみるとめちゃくちゃなことを言っている。


「その理論はおかしいだろ」

「そうか? まあ、そんなことどうでもいいだろ。それより一緒にゲーセン行こーぜー!」


うーん、雑。我が妹ながら、どうしてここまで正確に差が出ちゃったのか……。それとも、俺も自覚してないだけでこんな感じなのか……?

まあ、その辺は置いといて……。


「わかったわかった。直ぐに出るの?」


伸びをしながら聞いてみたが、杏華からの反応がない。訝しんで、杏華の方を見てみると、なぜか固まっていた。


「どうした?」

「相変わらず兄ちゃん、変に甘いよな。あたしに」

「そうか?」

「絶対にそうだよ。ま、そこが兄ちゃんのいい所でもあるからな!」


バシバシ俺の背中を叩きながら褒めてくる。痛い痛い……褒めるんなら叩かないでって……。


「で、直ぐに出るのか?」

「おう。10時半ぐらいだし、今から行ったら昼飯までの暇つぶしにピッタリの時間帯だろ?」

「はいはい。じゃ、準備するから部屋から出ていって」

「は? なんで?」


何言ってるのか分からないとばかりに首を捻る杏華。


「いやほら、俺これから着替えるし……」

「うん、着替えればいいじゃん」


ええ……。我が妹の察しの悪さにげんなりする。なんでこんなにも鈍感なのかしら……。


「いや、着替えるからでてってってこと」

「別によくない? 兄ちゃん、そんなこと気にすんの?」


気にするか気にしないかで言われれば別に気にはならない。15、6年一緒に暮らしていたら、杏華相手に羞恥心なぞ持つだけ無駄だと思うようになった。が、羞恥心とは別の問題もある。


「恥ずかしくはないけど、ちょっと嫌だなって感じはするよ?」

「あー、まあ、確かに。なんか、見られても別にいいけど、見られたいかって言われたら否って即答するよなー」


あははと笑いながら納得する杏華。納得はしたようだが、一向に出ていこうとしない。


「いや、はよ出てけよ」


俺が催促すると、杏華はハッとして顔になって誤魔化すように頭をかきながら愛想笑いを浮かべた。


「悪い悪い。忘れてた。じゃ、準備出来たらあたしの部屋に来いよー」

「はいはい……」


ヒラヒラと手を振りながら出ていく杏華を見送って、俺は準備をするために服へと手を伸ばしたのだった。


☆ ☆ ☆


ガチャガチャピコピコと騒々しい機械音。扉一枚隔てているだけなのに、外とは一線を画した世界が広がっていた。


「ついたー!!」

「うわー、すごい熱気」


何度も来たことがあるゲームセンターではあるが、家や学校といった普段の空気とは全然違う空気に圧倒されていた。

そんな兄の心情など全く気にしておらず、楽しげにキョロキョロと見渡す妹。


「おー、太鼓に釣りにカーレース。兄ちゃん兄ちゃん、どれからやる?」

「クレーンゲームするんじゃなかったのかよ……」


当初の目的を完璧に忘れている風の妹に呆れながら言うと、おおーっと感嘆の声を上げたかと思うとパンっと手を叩いた。


「そーいや、そうだったな。じゃ、クレーンゲームに行くか!」

「りょーかい」


ピシッと敬礼すると、俺を置いてさっさと行ってしまった。ええ……俺来た意味ある……?


☆ ☆ ☆


「いやー、やっぱり難しいねー」

「そうだなー」


一時間後、ゲームセンターから出てくる俺はフィギュアの箱を二つ持っていた。


「3000円くらい使ったのに一つって、ぼったくりだろ。なあ?」

「そういうところだから……。なんなら店員さんに取ってもらえばよかったんじゃないかな?」


俺は1000円ぐらい使ったあたりで店員さんに頼んで、取ってもらうことにしたのだが、杏華は結局自分の力だけで取ろうと奮闘したのだ。


「へっ、こーいうのは自分で取らなきゃ意味がねーだろ?」

「そのおかげで、3000円も使ったんだがなー」

「ふっ、目当てのもんは手に入ったし、あたしはもう思い残すことはないぜ……」


またぞろおかしなことを言い出しているが、ここは無視でいいはずだ。むしろ下手に構うと面倒なことになる。


「……そーいや、そろそろ昼か。寿司と肉、どっちの気分だ?」


不意に時計を見ると、既に一時はすぎている。問いかけながら杏華の方を見ると、先ほどまでの達観したような表情から一転、うーむ……と唸っていた。


「寿司か……肉もいいな……けど、最近寿司食ってねぇからなー……いやでも……」

「サッと決めてくれ。なんなら俺が決めてもいいけど……」

「よし! 決めた!!」


パッと顔を上げると、バシバシと背中を叩いてくる。痛い痛い……ってか、なんで俺叩かれてんの……。


「ラーメンにしよう!!」


……寿司か肉かで聞いたらラーメンと返ってきた。やっぱり杏華はあれだな。一か二で質問したら三とか四とかで返ってくるタイプだよな。

と、内心でグチグチ文句を言いつつも、仕方がないと切り替える。


「じゃ、ラーメン食いに行くか」

「ラーメンへの道はあたしに任せろ! ……ふむふむ、ここからラーメンまでは……こっちだ!!」


こめかみに指を当ててぶつぶつ言い出したかと思うと、突然走り出す。


「おーい、急げ! ラーメンが逃げちまう!!」


訳の分からないことを言いながら走り去っていく彼女の後ろ姿を眺めてため息を吐くと、彼女の後ろを小走りで追いかけるのだった。


☆ ☆ ☆


裏道を通って人通りの少ない道へと出ると、さびれた店構えが目に入る。辺りはシンと静まり返り、世界に俺と彼女と二人きりに取り残されたかのような錯覚をを覚えた。


「……ここ、本当にやってるのか?」


人の気配が一切しないことから不安を覚え、隣に佇む杏華に聞いてみると、彼女は自信ありげにうむと答えた。


「大丈夫だ。あたしを信じろ」

「……わかった」


微妙に信じきれないが、一応頷いておく。

『風来店』と書かれた看板が扉の横に立てかけられていた。……ほんとにこれやってんの……。


「こんにちはー!」


ガラッと扉を開け入っていく杏華に続くいて入る。切れかけの蛍光灯、薄暗い店内を見回してみても人がいるようには見えない。


「杏華ーー」


本当にやってるのか? と、再度問おうとしたその時。


「……らっしゃい」

「えっ……!?」


突然誰もいないはずの場所から声がして、思わず驚きの声をもらしてしまった。

恐る恐る声のした方を見てみると、そこには白いエプロンに身を包んだ老人が佇んでいた。


「おっ、大将! 久しぶりー!!」


ぶんぶんと手を振りながら挨拶する杏華につられて、俺は会釈した。……大将って、ここの店長か。一瞬幽霊かと思ったなんて絶対に言えない……。


「よし、兄ちゃん、何食う?」

「あー、じゃあ、豚骨ラーメンで」

「兄ちゃん、ここに豚骨ラーメンないよ」


カウンター席に座りながら聞いてきた質問に、俺もその隣に座りながら答えた。が、この店には豚骨ラーメンはないらしい。


「じゃあ、味噌ラーメンで」

「……うちにはないよ」


覇気のない声が正面から聞こえてきた。見ると大将がメニュー表らしきものを差し出してきた。


「あ、ありがとうございます」


お礼を言いながら受け取ってメニュー表を見てみる。一番上には醤油ラーメンの文字と画像。その下にはサイドメニューがそこそこ……。


「あれ? ここ、醤油ラーメンしかやってないの?」

「大将はその辺こだわってるからなー」

「へー……」


の割にはサイドメニュー豊富ですね……。


「じゃあ、醤油ラーメンの中を一つ」

「兄ちゃん、中でいいのかー? あたしは特盛で!!」

「あいよ」


ふっと小馬鹿にした感じで笑う杏華はスルーする。……サイドメニューはラーメンの量を見てからでいいか。


「ってか、よくこんな店見つけれたな」


少しばかり感心しながら言ってみると、杏華はそんなことないとばかりに手をふった。


「やー、たまたまここの大将と会うことがあってよー。そんで、話していくうちに店やってるって知ったんだ」

「ほー」


相変わらずどこから来るんだ妹の人脈は。ちょっと前には外国人の友達と買い物行ってたし……。


「高校どうだ?」


ニヤニヤしながらからかう様に言ってきた。そんな彼女の様子に怪訝な目を向ける。


「どうだって……何が」

「友達だよ、友達。できたか?」


母親みたいなことを言いやがって……。まあ、友達連れてきたことがないから心配かけてるのだろうけど……。


「……どっからどこまでが友達かの基準が分からないからどうにも」

「まあ、兄ちゃんはそうだよな。変に拗らせているからなー」


友達、と言われて清治の顔が浮かんできたが、彼とは中学からの付き合いなのだからこの場合は除外されるだろう。となれば……先生? は、違うよな。


「まあ、兄ちゃんは大勢友達できる感じじゃねえもんなー」

「友達多くても大変なことだってあるだろ」


知らんけど。と、心の中で呟いておく。


「兄ちゃんはそのままでも大丈夫だからなー」

「いきなりどうした」


珍しく褒めてくる妹に目を丸くする。……まさか、ここ奢れってことか?


「友達が全てじゃないし。それに兄ちゃん、あの無表情と一緒だし」

「まあ、そうだな」


無表情って……清治のことか。一緒だから大丈夫という理由はよく分からないが、今の現状に不満があるわけでもないので彼女の意見には賛成だ。


「それに、あたしもいるしな」


らしくないことを言い出した妹を前に困惑する。照れくさそうに頬を掻きながらはにかむ彼女。え、なにこれ。何この、兄想いの良い妹みたいなムーブは。


「……どうした、急に」

「うっせーなー! ほら、ラーメン来たぜ!」

「……はいお待ち」

「あっ、どうも」


麺が見えない特盛のラーメンと一般的な一人前サイズの中。特盛めちゃ量多……。

杏華はその量にかるく頬を引きつらせていた。どうやらここでこのサイズのラーメンは頼んだことがなかったらしい。……はあ、変に調子にのるから……。


「食べきれるか?」

「うぇ!? もももも、もちろん!!」


あからさまに動揺する杏華。思わずため息が出てくる。全く、この妹は……。


「もし残ったら分けてくれ。さすがにこれじゃあ足りそうにないから」


そう言うと、杏華はポカーンと目を見開いたまま固まっていた。


「……なんだよ」

「いや、なんでもない。……じゃ、少しだけ分けてやるよ」

「はいはい」


呆れながら返事をすると、肩を軽く叩かれた。お約束とばかりに「痛い……」と答えると、「痛くねぇだろ」と返されてしまった。……ノリだよ、ノリ。


その後、俺たちは黙々と麺を啜っていった。

……うん、結構美味い。今度一人で来よう。


☆ ☆ ☆


 帰り道。

 くるりくるりと回りながら前へと進む妹に、それについていく俺。不意にピタッと回るのをやめると、俺の隣に並んできた。


「で? どうでしたかな、今日のデートは?」

「デートなのか、これ」


ゲームセンターに行って、ラーメン屋に行っただけだ。これをデートと呼ぶのはどうかと思うが。


「デートっていうのは、異性が待ち合わせて出かけることだろ。なら、これもデートってことになるはずだ」

「ほーん……。俺は普通に楽しかったけど。お前は?」


 ちらと横を見てみると、人差し指をピンと立てて顎に当てると、うーん……と唸りながら考え考え言葉を紡いだ。


「あたしも楽しかった。フィギュア手に入ったし、ラーメン食えたし、兄ちゃんと久しぶりに出かけれたし」

「……ふーん」


 真正面から言われると照れ臭く感じてしまう。思わず頭を掻いて顔を背ける。

 杏華は再び回りながら口を開いた。


「ま、及第点ってとこだな。次は、満点目指して頑張れよ!」

「なぜ上から……まあいいけど」


楽しそうに笑う杏華。……回りながら。

そんな様子を見ると、俺も笑いが込み上げてくる。まあ、たまには、妹とどっかに出かけるのもありなのかもしれない。


今度は、どこへ連れてってあげようか。そんなことを考えながら、俺は家に向かって歩くのを再開するのだった。


「さあて、帰ってたらメガテロちゃんのフィギュアをしっかり味わおうっと」

「味わう? ……え?」


読んでいただきありがとうございます

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