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日常の一幕  作者: 警備員さん
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友達の家に行く(俺抜きで)


「じゃあ兄ちゃん、行ってくるなー……ほんとにだいじょぶ?」


心配そうに覗き込んでくる杏華と目が合う。


「だいじょぶだいじょぶ。はよ行かないと、遅れるぞ」


しっしっと追い払うように手を振ると、ようやく杏華は顔をどけた。


「じゃー行ってくるけど、なんかあったら呼びなよ?」

「はいはい……。あっ、清治と水本さんにはごめんって伝えといて」

「そんぐらい自分で言いなよ……。じゃ、お土産楽しみにしといてねー」


そう言ってひらひらと手を振って部屋から出ていく杏華。


「おい、なんで清治の家に行くのにお土産が出てくるんだ」


そうツッコミを入れるが、既に部屋から出ていった杏華に聞こえるはずもなく、虚しく部屋に反響する。


「なんか持たせてくれるかもしれないじゃん!」

「聞こえてたのかよ! つか、わざわざ戻ってこなくていいから!!」


バンっと音を立ててドアを開け、そう行ってくる。いや、はよ行けよ。


「んじゃ、いってきまーす」

「いってらっしゃい……」


げんなりしつつそう返すと、今度こそ杏華は部屋から出ていった。


そう、俺は清治の家に他2人と一緒に遊びに行く約束をした今日この日、風邪で寝込むこととなったのだ。


☆ ☆ ☆


しばらくすると、杏華から風邪で行けないという旨を聞いた2人からの、心配のメッセージがスマホに届いてきた。


『バカは風邪ひかないんじゃなかったんですか!? 』

『お前……爆弾だけ送ってくんなよ』


……こいつらどうしてやろうか。まじで冷たい。少しも心配する素振りがない。……鬼かこいつら。


「とりあえず清治にはスタ連して、水本さんには煽り文送っとこう」


『それはつまり、風邪引かなかったお前らはバカなのか?』と書いたメッセージを送って、その次清治へ2、30個スタンプを送り付ける。……よし、スッキリした。

それからしばらくすると、スマホが鳴った。


「誰だぁ……」


ゆっくりと上半身を起こして確認する。スマホの画面には、清治と映し出されていた。


「はい、もしもし……」

『あー、体大丈夫か?』


スマホから、いつもの気だるそうな声が聞こえてきた。


「あー、まあ。そこまで高熱って訳でもないし。念の為ってことで安静にしてんだよ」

『そうか……』


安堵の声が漏れ聞こえてきた。清治……割と心配してくれてたんだろうか。


「んで、電話してくるってことはなんかあったのか?」

『ああ……まあ……』


聞くと歯切れの悪い声が返ってきた。

まあ、そんなことだろうと思った。心配なら、さっきのメッセージに書いとけばいいし、わざわざ電話する必要もない。


「ほーん……、俺に電話してくるってことは杏華がなんかしたわけ?」


思い当たる節はこれしかない。というか、大体がこれだ。


『まあ、その……なんというか……』

「さっきからどうした。歯切れが悪い。お前らしくないぞ?」


清治は俺に対してはかなり遠慮がない。たまにもう少し遠慮して欲しいと思うレベルで遠慮がない。そんな清治が何を言いずらそうにしているのだろうか。


『お前の妹の暴走を止める方法ってあるか?』

「いやない。諦めろ、あれはそういう生物だ」


即答すると、はぁーっと深いため息が聞こえてきた後、『そうか……』という声が聞こえると電話が切れてしまった。なんだったんだ……?

何かあったのかと思った俺は、水本さんに電話をすることにした。数コールの後、聞き覚えのある声がスマホから聞こえてきた。


「あー、水本さん? そっちでなんかあった?」

『えっと、そのー……なんと言いますか……』


めちゃくちゃ言いづらそうな、困ったような声が聞こえてくる。

……うーん、こうなってくると杏華が帰ってきた時に聞くべきか……。

そう考えていると、突然聞き覚えのない声が耳に入ってきた。


『あれー? 何してるんですか?』

『あっ、その、杏華ちゃんのお兄さんから電話が来たんですよ』

『へー……』


よそよそしい水本さんの態度から、今日あったばかりなのだろうかと考える。

スマホから小さく『ちょっと代わって』と声がしたかと思うと、さっき聞こえてきた声が次は鮮明に聞こえてきた。


『あー、もしもし? 私、兄さ……清治の妹の潮と言います。山岡さんであってますか?』

「あ、はい。山岡です……」


思わず敬語で返してしまった。……というか、清治の妹……やばい、嫌な予感しかしない。


『いやー、実はですねー。ちょうど親戚の子が遊びに来てましてー』


親戚が……。となると、杏華がその子たちと一緒に遊んでいるという感じか……? それに振り回されて清治は疲れたってところか。

だが、次の瞬間。思いがけない言葉が聞こえてきた。


『それでうちの兄と杏華ちゃんが付き合ってるって騒ぎになったんですよー』

「は?」


完全に予想外の言葉のせいで、思わずとても冷たい声を出してしまった。

……落ち着け落ち着け。クールダウンだ。そうだ、冷静になれ。あの二人に限ってそんなことはありえない。うんうんそうだ、そうに決まっている。


『――のー、聞こえてますか?』

「へっ!? あっ、聞こえてる聞こえてる」


妹さんの声でどうにか現実へと戻ってこれた。


『それて今の状況なんですが……ちょっと待ってください』


ガタッと音がした後、ビデオ通話に切り替わる。スマホには、並んで椅子に座る清治と杏華、その向かい側には小、中学生辺りの女の子3人と、隅っこに縮こまっている男の子が1人座っていた。


『さてそれでは、再度確認をさせていただきます』


真ん中に座る亜麻栗色の髪をした少女、亜麻栗ちゃん(仮名)が口を開く。それにその隣に座っている、黒髪の眼鏡の少女、眼鏡ちゃん(仮名)がその言葉に続く。


『まず、お二人は付き合ってるのですか?』


眼鏡ちゃんの質問に、杏華は重々しく頷いた。


『ああ……その通りだ』


ピシッと小さな音が聞こえてきた。ハッとなって見てみると、スマホを握る手に力が籠ってしまっていたらしい。


『で、では、いつからお付き合いを……?』


今度は亜麻栗ちゃんが質問する。……というか、手前の子、なんかめっちゃ書いてる。手前の黒髪の……えーと、書記ちゃん(仮名)。


『ふっ、それは遠い昔の話さ。そう、これは人類が言葉を使い始めたばかりの頃……なんやかんやあった』

「何言ってんだ、こいつは……」


前世からの運命的な何かとか言いたかったのだろうか。舞台設定だけ喋って肝心なこと話さないからわけわからん。


『ええと……運命的な出会い……というわけですか?』


亜麻栗ちゃんがなんとか理解しようと言葉をひねりだす。


『そうだ。はるか先の、未来からの運命なんだ……』

『昔なのでは……? ……いえ、なんでもないです』


何かしら引っかかるところはあったものの、放置することにしたのか、亜麻栗ちゃんは頭を振って次の話へと移った。


『では、清治さんのどんなところが好きですか?』


……さっきから思ってたけど、何この状況。そして水本さんも妹さんもなんで何も言わないの……。


『ふっ、宇宙より広く、海のようにでかい。その全てが好きだ……』

『宇宙から海って……それ狭くなってません……?』


ドヤる杏華に頭痛がするのか頭を押さえる亜麻栗ちゃん。……なんかごめんね? ほんとに。


『つーか、こんなことして何がしてーんだ?』


心底分からないとばかりに首を傾げる杏華。

俺はお前がわからねぇよ……。


『貴女が清治さんに釣り合うかの確認です』


眼鏡ちゃんがバチバチと杏華を睨みつける。それを、杏華は涼しい顔で受け止める。


『いいだろう。……こういう時は拳と拳で戦い合うもんだぜ!!』


ガタッと立ち上がる。それに続いて立ち上がる亜麻栗ちゃんちゃん、眼鏡ちゃん、書記ちゃん。そして何故か男の子が強制的に立たされている。


『いいでしょう……絶対認めません! 清貴が!!』

『相手になりましょう……兄さんが!!』

『頑張ってねー!!』

『へ!? ちょっと、なんで俺!? いやいや無理無理!!』


いやいやと首を振るが、3人に押されて杏華の前に出る。


『ちょっ、いや、違います違います! ちょっ、清治さん。止めてください!!』

『こいつを止めろって……人の言葉が通じねぇんじゃ無理だろ……』


さらっと失礼なことを口走りながら、悟っためで虚空を眺めている清治。どうやらもう諦めたらしい。色々と。


『潮さん! 助けてください!!』

『んー、なんか面白そうだし、頑張って!!』

『もうやだこの家系! 変人ばっかーー!!』


涙目でどうにか逃げ出そうとする苦労人くん(仮名)に首を鳴らしながら近づいていく杏華。


『準備は……いいな?』

『待って、暴力はよくないから! というか、俺別に反対してないから!!』

『あたしの必殺技で倒してやるぜー!!』

『倒すって……ちょっストップ! なんでチョキ!? なんか逆に怖いから普通にグーかパーで……ぎゃああああ!!!』


こうして、苦労人くんと杏華の壮絶な戦いが始まった……!!


☆ ☆ ☆


「いやー、強かったぜー。きょーかちゃんの第二形態まで出す羽目になるとはな……」


家に帰ってそうそう、武勇伝を語り始める杏華。


「お前……あんまり初対面の人にああいうことすんじゃないぞ?」


一応注意してみるが、杏華は満面の笑みで頷くだけだ。……絶対にわかってないな、こいつ。


「そーいや、清治の妹さんと話してみたが、いい子そうじゃないか」

「ん? 潮と話したのか?」

「まあな。それでお前の暴れっぷりも見れたよ」


そーかそーかと明るく笑う杏華。……いや、笑いどころではねぇんだけど。


「まあ、キョーミある人にはいい顔するから、あの子は」


そう言ってポケットから取り出したのは、変な形をしたキーホルダーだった。


「え、なに?」

「まあ、だいじょぶだろうけど一応……。GPS付きのキーホルダーだから」


受け取りつつも、どした急にと視線を向ける。すると、杏華はいやと首を振り。


「まあ、念の為だよ、持ってて損は無いでしょ?」

「まあ、そうだけど……」


どうしてこんなものを……。

結局、今日のうちになんでこれを渡してきたのか教えてくれることはなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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