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日常の一幕  作者: 警備員さん
12/14

教室にエアコン設置を求む


「先生ー、エアコンつけないんですか?」


先日の勉強会からしばらくして、俺と水本さんは無事、補習となった。


「学業に必要ないだろ」


書類かなにかを書き込みながら、こちらを一切見ることも無く答える先生。


「いや、暑かったら授業に集中できませんよ」

「先生が子供の頃はそうでもなかったけどなぁ……」

「そりゃ、昔と今じゃ最高気温とか違いますし……」


そう、日本は年が経つにつれて夏の暑さと冬の寒さの差が激しくなっている……気がする。


「せんせー、わたしもエアコンに賛成です。快適に寝られる……」

「それ聞いてそうだな、と答えると思ったか?」


くでーっと机に突っ伏しながら言う水本さんの言葉に、先生は的確にツッコミを入れていく。


「というか先生、職員室はエアコンついてるじゃないですかー」

「そーだー、おーぼーだー」


俺の言葉に、水本さんのやる気のない声が続く。……頼りない。


「とはいってもなぁ……。それは昔からだからなぁ」

「昔からあるからって、差別するのはおかしいんじゃないですか」

「いや、そうは言ってもなぁー」


煮え切らない態度だ。おそらくは、このままはぐらかそうとしているのだろう。


「それに、昨今ではエアコンをつける学校も増えてきてます!」

「私立以外でも、公立の高校でもつけてる学校はあるよー」


水本さんナイス援護。

心の中で水本さんにサムズアップしつつ、先生の方を見る。


「いやでもな、エアコンの設置はかなりのお金がいるんだよ」

「えっ、でもそこまでかかります?」


確か、家でエアコンを設置した時は、30万円もいってなかったような気がする。確かに高いが、県からのお金も入るだろうし、そこまで渋る金額かと頭を捻る。


それを見た先生は、ひとつため息を吐くと、黒板になにやら書き出した。


「まず、値段についてだが、家と学校では設置するにかかる金額は大きく違う」


家庭と学校とそれぞれ文字を書き、それぞれの隣に文字を続けていく。


「まず、家庭では基本的に30万もあればエアコン設置には余裕があると言われている」


家庭の隣には30万と書かれ、それをまるで囲んだ。


「そして、学校ではなんと300万もかかることがある」


学校の隣にそう書き、今度は赤のチョークで丸で囲んだ。


「それはまあ、色々な規約やらルールやらがあり、それに見合った工事をするとなるとそれぐらいかかる」


300万の文字の下に規約、ルールと書かれていく。


「しかもひとつの教室につけると、もれなく全教室つける必要が出てくる。4クラス3学年だから、最低でも12この教室にな」


単純計算で3600万円……。うわ、やば……。


「そして、エアコンの設置には時間もいる。となると、長期休暇の時期に設置するしかなくなるんだ」


まあ確かに。教室で工事されてる中で集中して授業を受けられるかと言われたら、NOだろう。

先生は一通り書き終わると、スっと席に座った。


「まあ、確かにエアコンのついている学校も増えてはきている。だが、この辺はまだだろう? 少なくとも、ここにエアコンがくるのはもう暫くあとだ」


まじかぁ……今年結構暑いんだけどなぁ……。

ぐでーっと机に突っ伏してそんなことを考える。もう無理……暑い……。


「というかお前ら、勉強しろよ」

「水本さんはもう寝てまーす」

「ええ……」


頭痛でもするのか、こめかみをそっと押さえる先生。

教師って割と大変らしいから、疲れが溜まっているのだろう。と、暖かい目で先生を見つめる。


「……どういう感情の目だ、それ」

「教師って大変なんだなぁと思いまして」

「山岡、そう思うなら勉強してくれ」


ちょっと何言ってるか分からない。

首を傾げていると、先生ははぁーっと大きなため息を吐いた。


「とりあえず、配ったプリントを終わらせてくれ」

「分かりました」


途中まで手をつけていたプリントの続きを解いていく。うーむ……わからん。


「そういえば先生ー」

「……お前の集中力は10分も続かないのか……」


またしてもため息を吐くと、どうしたと目を向けてくる。


「聞きそびれてましたけど、なんでさっき黒板に書いたんですか?」


黒板に書かれた家庭やら学校やらの文字を指さしながら、そう問いかける。


「え? なんか黒板に書きながら説明したら先生っぽくないか?」

「先生ぽいって……先生じゃないんですか」

「もしかして、うちのクラスに数学の時間に勝手に教えに来てる暇人とかですかねー?」

「あー、なるほど」


納得した。と、うんうんと頷く。というか、水本さん起きてたんだな……。


「いや、なんの得があるんだよ。それに、もう3ヶ月経つんだぞ。それが本当ならなんでバレてないんだよ」

「えー、……影が薄いとか?」

「それだ!!」

「いやちょっと待て。それは酷くないか」


確かに先生はパッとしない。と、納得しているとまたしても先生が待ったをかける。


「なんですか、ちょうど結論が出てきたところなんですけど」

「いや、その結論は納得いかないんだが。俺は別に影薄くないだろ」

「んー、じゃあキャラが薄い……とかですかね?」

「それだ!!!」

「いやなんでそっち方向に行くの。普通にここの教師だからってならないのかよ」


色々と文句を言ってくるが、そうは言っても先生のキャラが薄いことは事実だしなぁ……。体育の教師のインパクトの強さは異常。


「別に先生って熱血系ではないですよね?」

「まあ、そうだな」

「かといって、とびきり若いわけでも、定年間近ってわけでもないですよね?」

「そうだが……」


熱血系だと、インパクト強くて覚えやすく、若いと親しみやすく、定年間近だとそういう肩書きで覚えてしまう。けれど、この先生にはそんなわかりやすい特徴や、肩書きが一切ない。


「先生として、そういう特徴がなくていいんですか?」

「お前は教師に何を求めてるんだ」


呆れ交じりにそう言われるが、多分うちの学校の教師の中で1番認知度が低いと思うのだが。


「あだ名とかどうですかねー?」

「あー、親しみを込めたあだ名かー」

「いや、そういうのいいから勉強しなさい」


あだ名あだ名……。あれ? というよりこの先生の名前ってなんだっけ? ……まずい、思い出せん。聞くか? だが、さすがに『先生の名前ってなんでしたっけー?』と聞くのは失礼だ。仕方ない、ならば……!


ちらと首からかけられている名札を見る。小野田 貴道と書かれている。……なるほど、小野田先生か。どう略すかが重要だ……。


「そういえば先生の名前ってなんでしたっけー?」

「覚えてなかったのか……。小野田だよ、小野田 貴道」


小野田先生の名札を盗み見しているうちに、水本さんが堂々と名前の確認を行った。……そうだ、水本さんが名前聞くのに便乗すればよかった。


「小野田かぁ……。小野先? タカ先生? なんかビミョーですね」

「なんか一般的な呼び方感が否めないねー」


水本さんの案は、悪くは無いんだけどなんかこれじゃない感がすごい。他のいいあだ名いいあだ名……。


「なんかどれも違う気がする……」

「そもそもわたし達って、人にあだ名をつけるってことしませんからね」


野田先生、タカミチ、おーくん、貴ちゃん、タセン……。どれだけ考えても、先生に合ういいあだ名が思い浮かばない。


「……ま、先生は先生だな」

「? どういう意味ですか?」

「先生みたいな人だからこそ、なんでもないただの先生ってあだ名が似合うと思うんだ」

「それ単純に思い浮かばなかっただけじゃないのか……」


うぐっ……。確かにそれもあるが、さっき言った言葉も実際に思った事だし、問題はないだろう。多分、きっと、おそらくは。


「まあ、というわけで先生のあだ名は、先生ってことでいいか?」

「わたしはいいと思いますー。覚えやすいし」

「いや、それあだ名というより役職だよな……」


的確なツッコミを受けつつ、目を逸らす。

そんなやり取りをしてる間に、俺は心の中で、先生のあだ名は『先生』と可決するのだった。


「まあそれはそうとして、早くプリント終わらせろよー」

「おやすみなさーい」

「先生、ちょっと気になったんだけど……」

「おい、お前ら……」


今日はもう暫く、この教室に残ることになりそうだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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