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どうも、上平です。
二週間ほど、間隔が空きましたが、
第八話です。
それではどうど・・・・・
二千二十×年 四月十日 十三時五十二分
東京都日野市 日野駅周辺
東京都内でも二十三区外となる南側は比較的治安も良い。
しかし、最近半グレ集団が集まり、悪さをしていると所轄にも通報が入っていた。
今回、小山田から養護施設周辺で悪さを行っていたであろうグループの情報を貰い、石毛力と草壁は、その半グレ集団が集まるポイントを虱潰しに当たっていた。
「にしても中々見つからないですね。今日月曜日だし、昨日から夜通し遊んで今頃解散して寝てるんですかね?」
既に何カ所かポイントを回っているが、空振りに終わっている。
「いや、悪ガキ共の事だから夜通し遊んでどっかで朝飯食ってどっか隠れ家みたいな所で休んで、そろそろ出てくる時間だな。それともまだ休んでるかだな」
「そうですね。まだ、半分近くポイント残ってますが、とりあえず今日中には全て回れそうですね」
「しかも、連中が立ち退きに関しての嫌がらせに絡んでるとなると、報酬貰って、羽振りが良くなってる可能性が高い。そうすればまだこの辺遊び歩いてるさ」
二人は次のポイントとなっている雑居ビルの空きテナントに入っていく。下調べした所、一階に飲食店などは入っているが、二階以上はもう数年テナントが入っていない状況で、荒らされ放題になっているとの事だった。
階段で三階まで上がると、若い男たちの笑い声が聞こえる事に気付く。二人は顔を見合わせ、声のする方向へ向かった。
声の方向に近づくにすれ、煙草や一般人が嗅ぎなれない臭いまでしてくる。草壁瞬時に鼻に手を、その匂いが入ってこないようにした。煙草を嗜む草壁でも、嗅ぎなれない臭いの正体を察知し、その煙を体に取り込みたくは無かったからだ。
「ったく。連中大麻までやってんのかよ。まったくどこから仕入れてきてるのやら・・・・」
「やっぱり実家の職業柄気になるのか?」
「うちでは大麻をはじめ、シャブの部類のしのぎは御法度にしてるんですよ。まぁそんな物と関わってきませんでしたって言えば嘘になりますけどね・・・・」
身の上話をしていると、集団がいるであろう部屋の扉の前までたどり着いた。
「連中楽しそうだなぁ。打ち上げ中みたいだ」
「どうせ連中は今頃、葉っぱの効能でリラックスタイム中ですよ。どうします所轄に通報してそっちで話聞いてもらうようにしますか? それとも業者装って、話だけでもそれとなく聞いてみます」
草壁はこの後に段取りについて尋ねるた。
「いや、どっちも却下」
石毛はニヤリとしながら、草壁の提案を一蹴した。
「まさかですけど・・・・突撃ですか?」
草壁は若干表情が青ざめ、石毛に尋ねる。
「そう・・・・突撃ぃ!」
そういって石毛は勢い良く、目の前にあった扉を蹴る。
扉は外れ、部屋に立ちこもっていた煙が廊下へと流れてくる。
部屋の中で騒いでいた声も、ドアを壊した爆音で一瞬静まりかえり、今度は何事かと混乱の声へと変わる。
そんな事は気にせず、石毛は部屋に入り、草壁も後を追うように入っていく。
「皆さん、こんにちは。元気してるかなぁ?」
石毛がに陽気な挨拶をすると、部屋の中にいた十数人の男たちは困惑しながらも、一人の男が声を荒げ、尋ねてきた。
「おい。オッサン! お前何もんだよ! さ、さてはサツか⁉」
「ウ~ン? 警察ではないんだどね。まぁ俺たちの素性はどうでもいいとして、ちょっと聞きたい事があって来たんだ。最近の君たちの羽振りの良さが気になってね。臨時ボーナスの理由と金額を突撃インタビューしに来たって訳!」
「誰がてめえらなんかに話すか! おいお前ら袋にすんぞ!」
そういって男たちは落ちている鉄パイプやガラス片などを拾い上げ、覚束ない足取りで石毛に近づく。
「あぁ、人の話を最後まで聞いた方がいいのに。なぁ草壁、お前もそう思うだろ?」
「はぁ~・・・・。巧介に続いて、石毛さんもこれかよ。言っておきますけどやりすぎないで下さいよ!」
「努力する」
草壁は溜息をつきながら、石毛に釘をさすも、生返事の回答が返ってくるだけだった。
そうしている間にも石毛の周囲には半グレ集団が袋叩きにしようと集まっていた。
「やっちまうぞ、お前ら!」
リーダー格の男の掛け声と共に、男たちが石毛に襲いかかっていった。
二千二十×年 四月十日 十四時十三分
東京都新宿区 新宿駅周辺オフィス街
日野市にある児童養護施設を出た瑠璃子と土井は、塚本と合流するために新宿へと向かっていた。合流地は、山代の勤務地近くである新宿オフィス街のとあるカフェだった。
二人が店舗に入るとピーク時を越えたからか、座席が少し空いていた。
店員から空いている席に座るように促され、店内を見回すと塚本らしき後ろ姿の男がいたので、二人はそこに近づく。
すると二人が近づいてきた事に気付き、塚本は振り返る。
「あ、二人ともお疲れさッブホッ!」
塚本は土井を見た瞬間食べていたホットドッグを吹き出した。
「どうした塚本! 詰まったのか⁉」
「ど、土井さん! もしかしてマジでその瓶底眼鏡かけて仕事してたんすか(笑)?」
「そうだが、やっぱり不適切な眼鏡だったのか? 小山田さんにも言われて試しにお前の前でかけてろって言われてな・・・・・。あ、マズい」
「ハハハハハ、笑わせなで下さいよ。で何がマズいんですか?」
「お前、ホットドッグを吹き出した方向を見てみろよ?」
塚本はその方向へ顔を向けると、そこには瑠璃子が立っており、ホットドッグの形をしていた物が当人の顔にたっぷり付いていた。
咀嚼されていたホットドッグがかけてしまった影響もあるが、瑠璃子の顔がとんでもない表情になっている。
「・・・・使います?」
塚本は卓上にあった紙ナプキンを差し出す。
瑠璃子はそれを奪い取るように受け取り、無言で顔を拭う。
「まぁ、今回は私がかけてみろって言った事だし水に流すわ。で、情報は集った? これで坊主だったら殺すわよ」
「やっぱり気にしてんじゃないですか・・・・」
そう言いながら塚本は頬を掻く。今回の件は事故や本人が非を認めてる事とは言え、流石に申し訳ない気持ちになる。
そう思い、後から来た二人分のコーヒーを塚本は注文した。
「というか、奴さんの勤務地はここではないんだろ? どうやって調べたんだ?」
「はい。新宿に勤めていた企業の本社があるんですよ。といっても勤務地もここの隣の代々木の支店だったんで、二人と合流する前に調べてきました。まぁ、法人取引の部署だったんで潜入は難しかったですけど、そこの社員がランチで出かけるの見計らって聞き耳を立ててました」
「聞き耳って近所のおばさんはじゃあるましいし・・・・。で何か分かったの?」
「やっぱり強引な仕事やってたのは本当っぽいすよ。何でも調べてた通り、今回みたいに強引な立ち退きやってたのと他にも黒い噂が絶えなかったみたいですよ。まぁ、成績は良かったみたいなんで文句を言えるに言えなかったし、それがあったから本社から近い支店にいたみたいです。まぁ、話聞いてる限りは腫れ物が居なくなって良かったみたいな口ぶりでしたよ」
「いくら成績が良いとは言え、流石にそんな強引なやり方してて、何で上から目を付けられなかったのかしら?」
「あぁ、これも聞いた話なんですけど、どうやら本社のお偉いさんと深い繋がりがある奴がいたらしくて、そのお陰もあってか何も処分も無く、過ごしてきたんじゃないんですか?」
「そのお偉いさんの検討はついてるのか?」
土井の質問に塚本は手元にあったタブレットを操作し始めた。
「えぇ、管理職クラスかつ山代よりも役職が高い人間、プラス共通点がある人間で絞りました・・・・っと、石毛さんからの連絡来た」
塚本はコーヒーを一度口にし、携帯のバイブレーションに気付き、石毛からのメッセージを確認する。
「ブッ⁉」
すると、塚本はまたもや口の内容物を吹き出しそうになり、今度は間一髪で堪えていた。
「何々、今度は何に吹き出しそうになってるのよ」
瑠璃子が呆れながら塚本に問うと、塚本は震えながらメッセージの内容を見せる。
『おっつー。例の半グレ集団見つけて話聞いてみたぞ~。何か金貰って例の養護施設とか周辺の建物に嫌がらせしてたみたい。依頼してきた奴だけど人相は見てないってさ・・・・。あと連中、いっちょ前に大麻なんて嗜んでた。写メ送るからどこの出処か調べてちょ。』
添付されていた写真を見ると透明なジッパー付きの小袋に詰められた大麻であろう写真が送られてきた。
「あんた、こんなので笑ってんの? 悪趣味ね」
「ゲッホゲッホ。ち、違いますよ! 写真の方よく見て」
「ん? どれどれ・・・・」
写真をよく見ると袋詰めされた大麻以外に人物が写っていた。
一人は石毛に同行していた草壁だ。顔に手を当て、頭を抱えているように見える。
また、草壁以外に、人物が写り込んでいる。写真には半グレ集団であろう男たちが重なってのびており、ピラミット状になっていた。
これが頭を抱えている理由であろうと瑠璃子と土井は察した。
「先日は巧介で、今日は力か・・・・。これは草壁には堪えますね」
「あんたらの事務所は頭が狂ってる奴しかいないの⁉」
瑠璃子は頭を抱えながら、尋ねる。
「巧介が狂ってることは認めます。石毛さんはただ雑把なだけ」
「どっちにしろ、ろくでもない事に変わりないじゃない!」
塚本の回答に瑠璃子はさらに頭が重くなったのか、両手で顔を抑え始めた。
その姿は写真に写っていた草壁と同じような雰囲気を漂わせている。
「まぁ、ともかく本社に突撃してみましょっ! 俺も五限に講義あるんで早く切り上げたいんで」
塚本はそう言いながら立ち上がり、先に荷物と伝票を持って、入口近くにあるレジへと歩いて行った。
土井は飲み残したコーヒーを流し込み、瑠璃子に話しかけてる。
「小山田さんから見て今の古巣は最悪ですか?」
「そんなんじゃないわ。ただ、あの風見って子の存在が大きいんだと思うんだけど、危うく見えるのよ」
「危うく見える? それって自分たちが死に急いで見えるって事ですか?」
「そうじゃないって言えば嘘になるけど、昔紫電君が五十幡商事に入った頃の事思い出してね・・・・。」
「もしかして昔マサの相棒だったーーーー」
土井が何の話か察した瞬間、瑠璃子が口を滑らしてしまった事に気付く。
「ごめんなさい! 今の話は忘れてちょうだい・・・・」
そういって出口へと駆け足で向かっていった。
いかがでしたでしょうか。
相変わらず雑な扱いを受ける小山田警部でしたね
それではまた・・・・