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どうも、上平です。
また、投稿頻度が空いてしまい、申し訳ございません。
長年連れ添ってきたPCが旅立ってしまい(故障)、色々と時間を取られてしまいました。
それでは第七話、どうぞ・・・・
二千二十×年 四月十日 十三時十分
東京都日野市 児童養護施設みらい付近
瑠璃子と土井は、廃工場殺人事件の被害者である西たち三人が育った児童養護施設に向かっていた。
昨日の事件発生後、所轄の刑事たちも話の聴取に行っていた。
しかし、事件現場付近で新たな遺体が出た事もあり、再び訪れていた。
「土井君、分かってると思おうけど、あくまで事件と合わせて施設を見学を訪れた厚労省職員である事。それを忘れないでね?」
「承知してますよ。こっちも下手に動いて事件の解決が長期化何て洒落になりませんから」
「なら、いいけど・・・・。あと一つ聞いてもいい?」
「はい。何ですか?」
瑠璃子は土井の顔を覗き込みながら問う。
「変装のためだと思うけど、そのビン底眼鏡は何⁉」
「え? あぁ、これですか。こうすれば役人っぽく見えるって力と塚本が言ってて」
「いつぞやの時代の浪人生にしか見えないわよ・・・・」
瑠璃子を頭を抱えながら歩く。そんなやり取りを続けていると目的地に到着し、インターホンを押した。
『はい。どちら様でしょうか?』
「お忙しいところ恐れ入ります。警察の者です。昨日奥多摩で発生しました殺人事件の件でお伺いしました。お話をお伺いしたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
瑠璃子はインターホン越しに警察手帳を見せ、尋ねる。
『今、そちらに向かいますね』
そういってインターホンは一度切れ、施設の担当者が出るのを待つ。
その間、土井は施設の外観を見回す。
事前調査の時から古い施設だとは聞いていたが、施設の見た目通り、何十年も施設が運営されてきたのであろうという事が頷ける。
ただ、少し不可解な点がある。
それは施設の玄関だ。元々古い施設で少し汚れている事が分かる。しかし、薄っすらとスプレーの跡やテープの跡が残っている。明らかに落書きや張り紙が貼ってあった跡だと察しが付く。
そんな事を考えていると、建物から初老の女性が出てくる。
「施設長の宇佐美です。昨日も西くんたちの件で刑事さんが来られてましたが、今回はどういった件で?」
「はい。本日、廃工場近くの資材置き場で遺体が見つかったのはご存じでしょうか。その件と今回の殺人事件に関連がないかを調べるためにお話しをお伺いに来ました」
「そうですか・・・・。立ち話も何なのでどうぞ、お入り下さい」
「ありがとうございます。失礼致します。」
二人は施設にある応接室に通され、待機していると一人の若い女性が入ってくる。年齢は土井よりも五歳程か若い女性で、顔が泣きはらした後のように赤く腫れていた。
女性は二人にお茶を出しながら、ぶっきらぼうに自己紹介を始めた。
「どうも。当施設で職員をしています。宇佐美零華と申します。本日はどういったご用件でしょうか」
「はい。本日は例の廃工場近くの資材置き場で見つかった遺体と今回の事件が関連が無いか、調査のために参りました。つかの事をお伺いしますが、施設長とあなたは親族か何かですか?」
「施設長の宇佐美は私の祖母です。この児童養護施設みらいは代々宇佐美家の人間が運営を行ってきました。」
「そうだったんですか。若いうちから家族で行っている仕事をお手伝いされているとは、良い親孝行ですね」
すると土井の前に叩きつけるような勢いで湯吞茶碗が置かれる。
「馬鹿にしてるんですか? 私はこの施設で働く職員の方や祖母を見て育ったんです。その姿に誇りと憧れを持って子に仕事を目指して、今行っているんです。それをただ手伝っているだけのような表現は何ですか!」
零華は土井の発言に激昂していた。
「軽薄な発言、失礼しました。いやぁでも、大変だと思いまして。今は通常行っている業務以外にも大変な事が多いと思いましてね。たとえば不動産会社からの嫌がらせとか・・・・」
零華はお茶を出す手を止め、土井の方に顔を向けた。
「・・・・どうしてその事を?」
「いやぁ、ここに来る前少し調べてきましてね。何でもこの日野市に新しい大型の商業施設が立つって話があるじゃないですか? そこでこの施設がある地域が候補で、その商業施設の開発に向けて動いていたプロジェクトメンバーの一人に今回、亡くなった山代さんが関わっていたというじゃないですか。これは西さんたちが殺害。さらのて商業施設開発に携わってた山代さんの死。これが関係ないとは言えないでしょう?」
「・・・・警察はもうそんなところまで調べているんですか?」
「まぁ、まだ調べる事は多いですよ。山代さんに関しては、この辺りの聞き込みや会社での調査で分かった事です。今まで随分と強引な手段でお仕事をしていたようです。今回の商業施設の件でもこの辺一帯の住民に立ち退きを要求していたようでしてね。また、それを飲まない住民にはこの辺の半グレ連中から嫌がらせを受けてるとかで。この施設も対象にされてますよね。すでに監視カメラ等で確認はしてあります」
「・・・・何で今頃何ですか?」
「はい?」
「そこまで調べてるのに何でもっと山代を逮捕しなかったんですか! 私たちは子どもたちを安心して生活させて、社会に送り込んであげたいのに! それを商業施設何かのために・・・・・何で⁉」
零華は泣きじゃくりながら、土井に掴みかかる。土井はそれを防ごうとせずに受け入れていた。土井から引きはがそうと瑠璃子が零華の肩を掴み、自分の方に引き寄せ、抱きしめた。
「落ち着いて零華さん。大丈夫よ」
「な、何でなのよ・・・・。浩二たちまで何で死ななきゃならないのよ」
零華が暴れた際にスマホを落としており、落ちた表紙で画面が点灯していた。その画面を見ると西と零華がツーショットで映り込んでいる。その二人の顔を見るととても幸せそうだった。
「零華さん。あなた西さんとお付き合いされていたんですか?」
「・・・・えぇ、昨日きた刑事さんたちは信用できそうもなかったので、幼馴染で通しました」
零華は少し落ち着きを取り戻し、瑠璃子の問いに答えた。
「これは私と別の者が調査したのですが、事件前に西さんたちは電話で口論している様子が職場などで何度も目撃されています。それにここ最近は退園された三人が良く出入していたようですね?」
「はい。立ち退きの件で、相談を行っていました。施設長である祖母だけだと半グレ連中に何をされるか分からないので、浩二たちが協力してくれたんです」
「そうですか。ちなみに生前西さんたちから、山代さんと会うとか、何か報告が入っていたりとかはありませんでしたかね?」
「いえ、特には。でも四人で対抗出来る策は無いか、調べてはいませんでした。多分、施設を巻き込まないようにと気を遣ってくれたんだと思います」
「四人?この件で他に一人関わって方がいらっしゃるんでしょうか?」
「この施設出身の幼馴染で、亡くなった三人とも面識があります。今日ここを訪ねると言っていたので、もうすぐ来ると思います」
「その方が来るまで、待たせていただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいですが・・・・。浩二たちを殺したのは山代じゃないんですか?」
「現在、その線も含めて調査中ですが、詳しい事はわかり次第、お伝えしますよ」
「その線って、山代以外に誰が浩二だちを殺すって言うんですか・・・・」
零華は瑠璃子の回答に不満を示す。
その直後、土井たちのいる応接室のドアが開いた。
そこには青年が一人立っていた。青年はスーツ姿で、見るからにサラリーマンのようなに見えた。
「壱くん!」
「零華ちゃん! 無事で良かった」
そういって壱と呼ばれる男性は、零華の元へ駆け寄ってきた。恐らく零華が言っていたここを訪れる人間とは彼のことであろう。
「私は大丈夫だったとけど、浩二たちは・・・・」
「あぁ、俺もニュースを聞いてビックリしたよ。すぐにこれなくてすまない」
「そんな、壱くんが謝る事じゃないよ。仕事も忙しいのに、浩二たちと一緒にこの施設のことを考えてくれてるじゃない」
「この施設にはお世話になったからせめてもの恩返しだよ。ところでこちらの方々は?」
「あぁ、浩二たちが亡くなった件で訪ねてきた刑事さんたちよ」
「あぁ、これは失礼しました。岩槻壱と申します。零華ちゃんや浩二たちとこの施設で育った幼馴染です」
「私たちも挨拶が遅れて申し訳ありません。警察庁の小山田瑠璃子と申します。そしてこっちが・・・・」
「厚生労働省の土井です。」
「え?警察庁に厚労省?」
瑠璃子と土井が身分を明かすと、零華と岩槻は不振を抱く。
「普通なら警視庁や事件が起こった地域の所轄の刑事さんが事件を担当するんではないんですか? それに警視庁はまだしも厚労省の方がいらっしゃるなんて・・・・」
「あぁ、それは不審に思いますよね。小山田警部は、今回の事件で警察庁からのアドバイザーや支援要員という事で派遣されています。また、児童養護施設が事件に関わっている可能性があったので、児童養護の観点で、厚労省から派遣されました。最近、省庁内で設立しました包括的な支援・人員派遣を行う部署に私たちが所属しているものでして」
土井が自分たちの」身の上を説明しると、今度は岩槻に尋ねた。
「岩槻さんは、西さんたちと一緒にここの立ち退きの件で相談を受けていた一人という事でしたかね?」
「えぇ、そうですが、それが何か?」
「いや実は、西さんたちは切り札となる何かを入手して、交渉を行うために事件現場へと赴いたのではないか、そう考えていましてね。何か岩槻さんの方で話を聞いていたりしませんか?」
「いえ、特には聞いていませんが・・・・、というか厚労省のあなたが何故その質問を?」
土井の質問に岩槻は答えると共に尋ねた。
「いやぁ、失礼。少し気になったものでして、確認しただけですよ。気分を害したのであれば、失礼」
「あのそろそろよろしいでしょうか? この後予定が入っておりまして・・・・」
零華は申し訳なそうに瑠璃子と土井に言う。
「そうですね。突然の訪問、失礼しました。また、何か思い出した事があればご連絡下さい」
そういって瑠璃子と土井は席を立ち、土井も一緒に施設を出た。
二人は駐車場へと向かった。
「あの宇佐美零華さんは随分と警察を信用していないようね。」
「まぁ、立ち退きの件、相談してた割にはまともな対応して貰えなかったんじゃないですか」
「何よ? 自分と棘がある言い方ね。言っておくけど対応した警察官がどうだったか分からないけど、全員が全員、中途半端な人間じゃないわよ?」
「それは分かってますよ。とりあえず、山代が勤めてた企業、益々臭くなってきましたよ。とりあえずそっち調べてる塚本と合流しましょう。後これはお願いなんですが・・・・」
「分かってる。あの岩槻って人の事調べて欲しいんでしょ? 一旦宿題にさせてちょうだい」
「お願いします」
そういって二人は車に乗り込み、シートベルトを締める。
「にしても紫電君ほどではないけど、土井君も中々いやらしい質問してくるわね? 中々様になってたわよ」
瑠璃子が嫌味を込めて、土井に問いかけた。昨日から紫電や塚本に振り回されていたので、そのストレスもあってか、土井を少しいじめてみたくなったからだ。
「・・・・まぁ事件解決のために割り切ってやますよ。ただ、自分もあんなやり方は好きになれないし、それを手段としている自分にも苛立ちます」
「ごめんなさい。失礼な事言ったわね」
土井の声のトーンが低くなった事を察し、謝罪した。
「いえ、お気になさらず。事実なので」
土井は何も無かったように車を発進させ、目的へと運転を始めた。
殺された西たち三人と山代と接点が繋がりました。
次回も捜査の部分をお届けすると思います。
それではまた・・・・