殺人(と書いて対価)予告
ある日、言った。「私はまた、殺します。」
あの人に私は必要ないんだ。
そう、それだけ。
でも、許せなかった。
どうして、私を見てくれないのか。
どうして、誰もが私を捨てて行くのか。
どうして、私はまた同じことを?
私たちは仲が良いはずだった。
少なくとも、周りが見れば。
でも、あの人の頭のなかに、私は居ない。
私の目の前に居るのに、他の人のことをみる。彼女は推しだという、その人しか見ない。少し考えれば、わかるだろう。
そう。私はわかっているはずなんだ。ちゃんとわかっている。
所詮私の立場は友達だ。見られているあの人は、恋愛対象だ。どちらが大事かなんて、誰かの口から聞かずとも、遺伝子より、確かだ。
私はもう大事な存在として、私の人生のなかで要る人物として、あの人を位置付けているのに、相手は私をそこまで大事だと感じてくれていない。それが悲しい。寂しい。
でも、なんでこんなことを気にするのか。私が、その程度で一喜一憂するのか。
……ある日、あの口から言い放たれた言葉が耳にこびりついたまま、離れない。「別に、居なくたって構わない。」「居ても居なくてもどっちでもいい。」「なにをしててもどうでも良いよ?」
私ばかりが、あの人の事を考える。誰かの事が友人の意識に浮かぶたびに、私の必要の無さをひしひしと感じる。必要とされたい。誰かにとっての価値が欲しい。あんなに仲が良いはずなのに、どうして、親しくなれないの。でも、その思いも届かない。
ふと、思うことが度々あった。
私と居ないときの方がいきいきとしてて。
私は居ない方がいいのかな、と。
中学の友人の話を聞くたびに。
私には興味がないのに、と。
彼女の話にのれないことに、
申し訳なくなって。
優しくしてくれるから。
なにも出来ない自分が顕になる。
……要らない、といわれて当然なんだ。
私はなにもしていないのだから。
私は、彼女に、何も利益をもたらしていない。
楽しいことも、嬉しいことも、なにも。
私は、必要ないのだ。彼女の視界の隅に、思考の隅に入ることさえ許されない。
ならば、要らない。
元より、嫌いな命だ。
私だって、役に立つならいざ知らず
こんな要らない私は
必要ないんだ。
要らない。居らない。イラナイ。
『また、殺すか。』
交換体系、Mモース。これらが言いたい事ってつまりは、
なにかを望むなら、対価を払わないとね。
人間は、望むもののためにどこまで犠牲に出来るだろう。
例えば、目の前に値札のないケーキが有ったとしよう。
店主はいくらでも良いという。
いくらだすかは、人それぞれだろう?
それが、とてつもなく良い出来で、どうしても欲しい人。
子供の誕生日がある人。
友達とのパーティ。恋人との記念日。
どの人からとっても、ケーキは同じ価値じゃない。
それと一緒だ。
他の人がどんなに低く見たものだとしても、
私は、いつかの誰かである私が、他人に必要とされる人間になれるなら。そのために何人の私が犠牲になったって構わない。
そうやって、生きてきた。
今度が私の番なだけ。
バトンが次に、回されるだけ。
でも、ひとつの懸念がある。ひとつ前に死んだあの子。あの子は、悪くなかったのに。死んでた。私に殺されずに、自分で。そんなバトンを受け取ったかわからない私が、「私」を引き継いでしまった。
ならば、やはり早く死ぬべきだ。
自分の感情は後回しにしましょう。
いや、寧ろ無くていい。
「そんなに怯えなくても良いのに」
一歩ずつ
人の話は肯定しましょう。
更には共感して、話を繋げて。
「大丈夫、私がその、わたしになるから」
近付いてきて
常に第一に周りの事を考えましょう。
そして、笑顔は忘れずに。
「あなたは死ぬだけでいい。」
残り一メートルに、私が迫る。
「そうだね。怖いね。」
相手を肯定して、共感して、笑顔で。
近付くわたしは、いい人に見えた。
私は、私のために死ぬ。
私は、私のために殺す。
鋭利な先が胸に刺さって、息が止まる。
押し倒された先に逃げ場はない。
振りかぶる、私と同じ人が見える。
--水滴が顔に飛んできた気がする。でも、気にしない。
もう一回刺して、捻って。泣いた顔なんて見ない。
もう一度刺して、捻って。自分の手だって見ない。
もう何も、顧みない。
立ち上がれば、そこには何もいない。
やり遂げた。
さあ、ケーキに火でもつけようか。ろうそくごと燃やして、誕生祝いをしよう。
「ねえ、何か変わった?」と、あの人は言う。
「いや?何も変わってないと思うけど。」と、私は言う。
「そっか。」と言う彼女に、私は笑ってついていく。
話を合わせて、楽しく過ごして。
意見は全て、誰かの肯定になるように。
あの人の前でも、
心配かけないように笑って生きて。
泣くことは、許されない。
これって仲が良いって言うのだろうか。
幸せな人生っていうのかな?
私が望む通りになったかな?
でも、良いの。
仲良くしたいという空しい気持ちも、必要とされたい貪欲な気持ちも、友人を離したくないなんてくっっそ要らない重荷も、全部まとめて対価に出してしまったから。
楽だなあ。