表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

殺人(と書いて対価)予告


ある日、言った。「私はまた、殺します。」

 

 







 あの人に私は必要ないんだ。

 

 そう、それだけ。

 でも、許せなかった。

 どうして、私を見てくれないのか。

 どうして、誰もが私を捨てて行くのか。

 どうして、私はまた同じことを?

 

 私たちは仲が良いはずだった。

 少なくとも、周りが見れば。

 

でも、あの人の頭のなかに、私は居ない。

 私の目の前に居るのに、他の人のことをみる。彼女は推しだという、その人しか見ない。少し考えれば、わかるだろう。

 そう。私はわかっているはずなんだ。ちゃんとわかっている。

 所詮私の立場は友達だ。見られているあの人は、恋愛対象だ。どちらが大事かなんて、誰かの口から聞かずとも、遺伝子より、確かだ。

私はもう大事な存在として、私の人生のなかで要る人物として、あの人を位置付けているのに、相手は私をそこまで大事だと感じてくれていない。それが悲しい。寂しい。

 でも、なんでこんなことを気にするのか。私が、その程度で一喜一憂するのか。

 ……ある日、あの口から言い放たれた言葉が耳にこびりついたまま、離れない。「別に、居なくたって構わない。」「居ても居なくてもどっちでもいい。」「なにをしててもどうでも良いよ?」

 私ばかりが、あの人の事を考える。誰かの事が友人の意識に浮かぶたびに、私の必要の無さをひしひしと感じる。必要とされたい。誰かにとっての価値が欲しい。あんなに仲が良いはずなのに、どうして、親しくなれないの。でも、その思いも届かない。

 

 ふと、思うことが度々あった。

 私と居ないときの方がいきいきとしてて。 

 私は居ない方がいいのかな、と。

 

 中学の友人の話を聞くたびに。

 私には興味がないのに、と。

 

 彼女の話にのれないことに、

 申し訳なくなって。

 

 優しくしてくれるから。

 なにも出来ない自分が顕になる。

 

 

 ……要らない、といわれて当然なんだ。

 私はなにもしていないのだから。

 私は、彼女に、何も利益をもたらしていない。

 楽しいことも、嬉しいことも、なにも。

 


 私は、必要ないのだ。彼女の視界の隅に、思考の隅に入ることさえ許されない。

 

 

 ならば、要らない。 


 元より、嫌いな命だ。 


 

 私だって、役に立つならいざ知らず

 

 こんな要らない(人格)

 

 必要ないんだ。

 

 

 要らない。居らない。イラナイ。

 

 『また、殺すか(死ぬか)。』

 

 

 交換体系、Mモース。これらが言いたい事ってつまりは、 

 なにかを望むなら、対価を払わないとね。

 

 人間は、望むもののためにどこまで犠牲に出来るだろう。

 例えば、目の前に値札のないケーキが有ったとしよう。

 店主はいくらでも良いという。

 いくらだすかは、人それぞれだろう?

 それが、とてつもなく良い出来で、どうしても欲しい人。

 子供の誕生日がある人。

 友達とのパーティ。恋人との記念日。

 どの人からとっても、ケーキは同じ価値じゃない。

 

 それと一緒だ。

 

 他の人がどんなに低く見たものだとしても、

 私は、いつかの誰かである私が、他人(ひと)に必要とされる人間になれるなら。そのために何人の私が犠牲になったって構わない。

 そうやって、生きてきた。

 今度が私の番なだけ。

 バトンが次に、回されるだけ。


 でも、ひとつの懸念がある。ひとつ前に死んだあの子。あの子は、悪くなかったのに。死んでた。私に殺されずに、自分で。そんなバトンを受け取ったかわからない私が、「私」を引き継いでしまった。

ならば、やはり早く死ぬべきだ。



 

 自分の感情は後回しにしましょう。

 いや、寧ろ無くていい。

 「そんなに怯えなくても良いのに」

 一歩ずつ

 

 人の話は肯定しましょう。

 更には共感して、話を繋げて。

 「大丈夫、私がその、わたし(理想)になるから」

 近付いてきて

 

 常に第一に周りの事を考えましょう。

 そして、笑顔は忘れずに。

 「あなたは死ぬだけでいい。」

 

 

 残り一メートルに、私が迫る。

 

 「そうだね。怖いね。」

 相手を肯定して、共感して、笑顔で。

 近付くわたし(跡継)は、いい人に見えた。

 

 私は、私のために死ぬ。

 私は、私のために殺す。

 

 鋭利な先が胸に刺さって、息が止まる。

 押し倒された先に逃げ場はない。

 振りかぶる、私と同じ人が見える。


 

 

 

 --水滴が顔に飛んできた気がする。でも、気にしない。

 もう一回刺して、捻って。泣いた顔なんて見ない。

 もう一度刺して、捻って。自分の手だって見ない。

 もう何も、顧みない。

 

 

 

 立ち上がれば、そこには何もいない。 

 

 やり遂げた。

 さあ、ケーキに火でもつけようか。ろうそくごと燃やして、誕生祝いをしよう。 

 

 

 

 「ねえ、何か変わった?」と、あの人は言う。

 「いや?何も変わってないと思うけど。」と、私は言う。

 「そっか。」と言う彼女に、私は笑ってついていく。

 話を合わせて、楽しく過ごして。

 意見は全て、誰かの肯定になるように。

 あの人の前でも、

 心配かけないように笑って生きて。

 泣くことは、許されない。

  

 これって仲が良いって言うのだろうか。

 

 幸せな人生っていうのかな?

 私が望む通りになったかな?

 

 

 

 でも、良いの。

 仲良くしたいという空しい気持ちも、必要とされたい貪欲な気持ちも、友人を離したくないなんてくっっそ要らない重荷も、全部まとめて対価に出してしまったから。

 

 

 楽だなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ