小さな小さな 大冒険!80
話を聞くとどうやらレンズの様な魔法を通す事で光の精霊マッチの攻撃魔法の威力が段違いになるのだとか・・・
「えっと・・・ちょっと待ってね・・・ダンゴは闇精霊だから穴って・・・亜空間か!空中に?座標計算を瞬間で行ったって事か!? そ・そんな莫大な情報量を処理して何ともないのか?」
「えっとね~ ゼリーが回復してくれるんだって~♪」
「なっ・・・雷の精霊で思考力を上げ脳が焼き切れる情報を水の精霊で回復しながら闇の精霊が空間を湾曲させた場所を光の精霊の魔法を魔力ブーストを使った状態で通過させたって事なのか!?」
「ん~難しい話、龍聖君分かんない♪」
『うちの子・・・天才なんてもんじゃない・・・これは・・・俺には無理だ・・・マジか・・・』
不可能と言われた事を次々に可能にしてきた龍徳をして“無理”と言わしめる。
4属性の精霊を顕現させ続ける莫大な魔力・・・。
これは、龍徳の子供である龍聖は凄まじい魔力量を持っている為、理解できる。
だが本来、精霊を使役し命令を下す事は原則1体なのだ。
それだけ精霊を使役するには神経を使うもの。
4属性の精霊を同時に顕現させる事は可能だし龍徳にも出来る。
だが、同時発動となると話が変わってくる。
これは、映画を見ながら物語の会話を左手で日本語を書き、右手で英語を書き続ける様なもの・・・
さらに状況説明など効果音を含めて書き写す・・・ハッキリ言って不可能な芸当であった 。
4属性の精霊と完全融合が出来る龍聖だからこその魔法なのだ。
それを鼻歌交じりで使っているのだから流石の龍徳も笑うしかない。
「クハッハ・・・正直驚いたぞ・・・だが・・・今の攻撃を当てられなかった事は失敗だったな! 獅子は兎を倒すのも全力を尽くす! 一瞬だ・・・一瞬で殺してくれる!」
そして、ラインが雄叫びと共に襲い掛かってきた。
「早いっ!龍聖!」
最愛の我が子を守ろうと勝手に体が反応した。
龍聖前に一瞬で移動すると獣王ラインに向けて相対した。
「クハッハ♪馬鹿め!そんなガタイで何が出来る!」
獣王ラインが龍徳と龍聖に自慢の牙を向けて来た。
一瞬早く龍徳が跳躍し獣王に飛び掛かると龍徳の拳がラインの眉間に深々と突き刺さった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ~!!!」
ドゴン!っと爆発したかのような音と共に数メートルも獣王ラインの身体が後ずさる。
質量が違い過ぎるから吹き飛びはしないが、かなりのダメージにたたらを踏んでいる。
「グワーッ なっ・・・なんて拳だ・・・」
「大丈夫か龍聖!! って・・・あれ?」
心配して龍聖に声を掛けるがムスゥ~っとした龍聖の顔があった。
「パパ~! 約束が違う・・・」
「あっ・・・ほら! 危ないかなぁ~って思って・・・」
「パパ嫌い・・・」
「グハッ・・・」
「嘘ついた・・・」
「ゴベッ!」
「あっち行ってて!」
「ご・ごめんなさい・・・」
流石の龍徳も我が子には甘いのだ。
「むぅ~・・・誤ったから許してあげる! もう嘘ついたらダメだよパパ!」
「は・・・はい・・・『危険だと思ったのに・・・』」
そして、何かあっても間に合うであろう場所までトボトボ離れて行った。
「おう!龍聖! パパさん心配性だから遊んでないでサッサと倒しちまおうぜ!」
「どんな傷を負っても私が治してあげるからね龍聖君♪」
「そうですわ!龍聖様のご活躍を邪魔される訳には参りませんわ!」
「ボクは楽しければなんでも良いよ~♪」
龍徳に邪魔をされる前に一気に倒してしまおうと4体の精霊に言われキリっとした顔になっている。
「分かった!じゃ~行くよみんな~!」
「「「「オォ~!!!」」」」
「吾を倒すだと~!!やれるものならやってみるが良い!!」
「うん♪ ここからはちょっと本気だからね!」
龍聖がそう言った途端、空気が変わる。
「魔力門・・・第一!開放!!」
その瞬間!
爆発的に龍聖の魔力が跳ね上がる。
『なにそれ・・・今のナツ以上の魔力なんだけど・・・』
体内に宿る魔力量が多くても放出出来る魔力量が多いとは限らない。
龍聖の総魔力量はナツやレイナよりも圧倒的に多いが、扱える放出量はナツやレイナの方が上であったのだが・・・“魔力門・・・第一!開放!!”と龍聖が言った瞬間周期の木々が薙ぎ倒される程の魔力が巻き起こったのであった。
しかし、獣王は怯まなかった。
「クッ!凄まじい魔力よ!だが、よもや貴様がただの子供とは思わん!」
次の瞬間、体制を整えたラインが跳躍し頭上から龍聖に襲い掛かった。
「やはり子供よ!戦っている最中にペラペラと! 瞬殺してくれる!!」
獣王から放たれる魔力も今までの敵の比ではない。
激高した獣王の前足による魔力を込めた凶悪な一撃が龍聖に襲い掛かる。
その瞬間!
凄まじい打撃音と共に獣王ラインが地面へと叩き付けられたのだった。
「グベッ!」
獣王が倒れた場所を中心に大地が割れクレーターが出来ているところを見ると凄まじい一撃を頭上から喰らったようだ。
ラインの眼前にいたはずの龍聖は消えた様に一瞬で後方に移動している。
『見えた・・・離れていた事で・・・ハッキリ見えたぞ・・・さっきの魔法と同じなのは分かるが・・・あ・あんな事が可能なのか?』
先程龍聖に叱られ離れた場所で見守っていた事が幸いしたようだ。
先程同様、近くにいたら何が起こったのか分からなかっただろう。
「龍聖王・・・無敵モード!!」
「カッコいい~! 良いぞ!龍聖!」
「素敵ですわ龍聖様♪」
『今確かにラインの前足が空間に飲み込まれて自分の頭上に現れた・・・アイツが倒れたのは自分の攻撃によるものだ・・・自分の全力の一撃を自分で喰らった訳か・・・』
表現としては龍徳の見た通りの事なのだが、実際には相手は動くのだ・・・。
本来であれば亜空間は固定しないと使用する事が出来ない。
只でさえ莫大な情報処理が必要な亜空間を意図的に相手に合わせるなど神業に等しい。
そして、龍聖が行った魔法は相手の攻撃を飲み込むだけではなく同時に相手の頭上に出口となる亜空間を並列して発動させていたのだ。
さらに龍聖は自分の後ろにも亜空間を開け自分の身体も一瞬で移動させていたのだった。
その凄まじさに流石の龍徳も目を見開いて呆然と立ち尽くしてしまっていた。
「グッ・・・今何を・・・ガキだと思って油断し過ぎていたようだな・・・もう油断はせんぞ!!」
シュゥゥゥーッっと獣王の身体の怪我が回復していく。
未だに龍聖に何をされたかを理解出来ない獣王が激高し龍聖に襲い掛かる。
「このモードになったからには悪即斬! 止めだ!! スーパ~・・・なんだっけ?」
自分で決めたであろう必殺技名を思い出せず頭を傾げてしまう。
「龍聖様! スーパーエンドレススラッシュですわ!」
「そうだった♪ スーパーエンドレススラッシュ!!」
そう龍聖が声を発した瞬間、襲い来る獣王ラインの周囲を覆う無数の空間が出現し光の刃が縦横無尽に現れその速度を増していく。
「ぬぅ~何だこれは・・・グワッ! チッ!こんな攻撃など何ともないわ!!」
龍聖が放った光の刃は消える事無く空間から空間に吸い込まれては現れる。
やがて数え切れない程の無数の刃となってラインに襲い掛かった。
「な・なんだ ガハッ! なんだこれは・・・グワッ! こ・こんなもの・・・グッ・・・グギャァァァ~!!」
『怖っ! 何あの魔法・・・えっ? 俺本当にいらないんじゃない? 怖っ!』
獣王ラインの回復速度を遥かに上回る無数の刃にダメージが蓄積されていく。
「龍聖! アレはどうしたんだよ?」
「あれってな~にマッチ?」
「な~に~じゃね~よ!決め台詞!決め台詞だよ!」
「あ!そうだった♪ 教えてくれてどうもありがとう♪」
どうやら事前に決めてあるらしいセリフをマッチに指摘され可愛らしく頭を下げてお礼している。
「おう!良いって事よ!」
「よ~し!」
またしても変なポーズを取ってラインに背を向けて指を鳴らしながら・・・
「パチ~ン! 悪の栄えた試しなし!!」
その言葉と共に一気に光の刃が爆発的に増え光の球体となった後、徐々に光の球体が消えていくとズタボロになったレオンが元の人型となって倒れていた。
恐らく完全体と呼ばれる邪法であった獣王の自己治癒能力は以前の比ではないだろう。
その速度をはるかに上回る幾万もの攻撃に勝負は一瞬で決したのだった。
「龍聖様ステキですわ~♪」
「うん♪ 龍聖君カッコいい~♪」
「決まったね~♪」
『強っ! うちの子強っ! えぇ~!! 何この強さ!?』
「パパ~♪ やったよ~♪」
変身を解除して龍徳が立ち尽くしている方へと駆け寄ると
「あ・ああ・・・す・凄かったな・・・」
いつもクールな龍徳には珍しく笑顔が引きつってしまう。
「エヘへ♪ 龍聖君凄かったぁ~?」
「お・おう・・・パパ驚いた・・・マジで・・・」
「キャホ~♪ みんな~パパ驚いたって~♪」
龍聖の言葉に精霊達がサムズアップで応える。
「龍聖君・・・ちょっと質問して良いかい?」
「な~に~?」
「えっと・・・いつも一人で遊ぶって言う時って・・・もしかして精霊達と魔法の練習をして遊んでいるのかな?」
「そうだよ~♪」
「そ・そうか・・・そうだよね~♪」
「うん♪」
我が子の驚異的な成長に戸惑いを隠せない龍徳であった。
その頃、ハルとアキも物見櫓に到着してきと相対していたのだった・・・
「我が名は空王ハジャ!何人たりともここを通させはせぬ!」
「ふむ・・・やはり龍徳殿の言った通り四天王がおったな・・・」
「これで私達の存在がバレている事は確定したって事だね。」
「貴殿達に恨みはないが、我が主君の為に消させて貰うぞ!」
「主君ってソンメルにそこまで忠誠を尽くす必要があるのかしら?」
「ソンメル?ハッハッハッハ♪ あの様な小物など忠誠を尽くす訳がないわ!」
「と・・・いう事は龍徳殿の言った通りアストゥーと言うものがお主の主君と言う訳じゃな・・・」
「ほぉ~そちらにも頭が切れるものが居ると我が主が仰られていたが、どうやら本当にいるようだな!」
「へぇ~随分あっさり認めるんだね。」
「フム・・・認めるも何も・・・お主等が死ねば関係のない話よ。死人に口なし!これ以上の話は無用だ!」
そう言うと同時にハジャの背中から翼が生えハルとアキに襲い掛かった。




