小さな小さな 大冒険!! 44
本来、複数の精霊を同時召喚できるが、全力戦闘ともなると使役した精霊のコントロールが難しいのだ。
その為、強敵と判断した四人は、自分が最も信頼する精霊を召喚したのだった。
「龍聖君? パパちょっと本気で戦わないとダメそうだから、その間、パパの精霊達に守って貰えるように頼むけど大丈夫かな~?」
「大丈夫~♪ パパ~頑張れ~♪」
「ゴメンね~直ぐ終わらせるからね♪」
「うん♪」
こんな時でもうちの子は可愛いなぁ~♪
一瞬で魔力を最大限に高めると全精霊を同時召喚した。
「来い!イフリート!オン=ディーナ!シルフィード!グノム=アース!」
俺の周囲に魔法陣が現れると4人の精霊が姿を顕した。
「時間がないから手短に言うぞ! 俺が戦っている間、俺の子供を守ってくれ! 傷一つ付けたら許さないからな!」
「お任せください!我が主よ!」
「分かった~♪ 任せてよ龍徳♪」
「畏まりました。ご主人様の宝物には傷一つ付けさせませんわ♪」
「僕がいるからには安心してよ♪」
「あぁ。お前達だからこそ任せられるんだ♪ 頼んだぞ♪」
全員俺の言葉が嬉しかったのか、頬を紅潮させてそれぞれに返事をしてくれた。
俺と精霊たちの話の最中既に左右のジャイアントボアとの戦闘が始まっていた。
どうやら、いつも通りのペアで戦う事になったようだ。
猪が大き過ぎる為、四人共戦いの場が離れてくれた事は僥倖だった。
ナツが“凍てつく世界”を連続してジャイアントボアに放つ事で閉じ込めレイナが“サンダーランスを連続で放っている。”
両者ともに通常状態の3倍近い大きさの魔法となっていた。
猪突猛進とは良く言ったものだ。
レイナとナツの魔法が直撃しているにも拘わらず二人に向かって愚直なまでの突進を繰り返す。
二人がギリギリ躱すものの巻き上げられた土や小石が2人に当たるとそれなりのダメージを喰らってしまう。
さらに巨猪の突進による突風に巻き込まれるとそれだけで弾き飛ばされてしまうようだ。
巨猪が動き続ける為、完全に凍結させる事は出来ないようだが、それでもレイナの雷が直撃する度、硬直する一瞬にナツが“凍てつく世界”を放つ。
そんな攻防を繰り返しているが、傍から見ても徐々にジャイアントボアの方がダメージを追っている事が分かった。
ハルとアキも同じような展開を繰り広げていた。
アキの闇魔法による“ブラインド”で目隠しをしたり土と水の混合魔法による“泥沼”で巨猪の突進を防ぎ動きが止まったところをハルの最大魔法である“バーニングフレア”が直撃していた。
残念なことにアキの泥沼により体表を湿らせたジャイアントボアには、本来の威力の5分の1程度の威力に軽減されてしまうようだ。
どうやらストーンウォールでは、簡単に突破されてしまうらしい。
最初は、小人状態であれば30mものストーンウォールを作り出すが、いとも簡単に回避されるか飛び越えられてしまっていた。
その為、ジャイアントボアの突進による突風のダメージや巻き上げられる草木や小石のダメージを喰らってしまっていた。
精霊の力を借りた事で、魔法の威力が上がっていなければ正直厳しい展開になっていた事は予想に容易い。
しかし、泥の影響で、威力は下がってしまうが、バーニングフレアを連発する事で、徐々にだがジャイアントボアを弱らせる事に成功しているようだ。
四人の戦いを遠くに見ながら俺は正直ホッとしている。
「これなら本気で戦っても皆を巻き込まないで済みそうだな・・・。」
今までは、全員の成長の為フォローをしていたのも事実だが、本気で戦ってしまうと、皆を巻き込んでしまう恐れがあった為、安全第一で魔法を使っていたのだ。
「どれ・・・。」
小人状態での肉弾戦がどれ程か・・・。
試してみるのも悪くない・・・。
自身のマナが体内を駆け巡る。そして、細胞一つ一つが目覚める様な感覚。
細胞一つ一つから発せられる微量なオーラをかき集め周囲に向け解き放つ!
ドン!と爆発したかの如く強大なオーラが龍徳の周囲に膨れ上がる。
小人状態にもかかわらず実にその大きさ半径1m。
眼前の巨大猪がビクッと反応するが、餌として認識された俺に向け突進してきた。
本来であれば、当然回避するところだが、今回は敢えて・・・
「はっ!」
ジャイアントボアに向けて全力で跳躍した。
踏み抜いた大地がボゴンっと凹みクレーターをつくっていた。
実際の距離にして10m。
小人の距離感では400m以上もの距離を一瞬で詰める。
眼前にいたはずの俺を見失った猪が動きを止めた瞬間。
猪の鼻っ柱に蹴りを見舞った。
ジャイアントボアはグラついたものの倒すまではいかなかった。
その後も周囲の部分へ凄まじい速さで打撃を繰り返すも僅かなダメージを与えるに留まった。
「いやぁ~やっぱりまだ無理か~!?」
正直もう少し位はダメージを与えられると思っていたのだが、結果は大した事はなかった。
精々2~3cmの大きさの石を時速50~60km位で投げ付ける程度の威力と言ったところだろうか?
ブギィィィ~!と痛がってはいるが、倒すのは難しそうだ。
「たはは・・・流石に重さが足らなさすぎるな・・・。だったら!次は、これだ!」
そう言って俺はフレイムソードを出現させ再びジャイアントボアに向けて跳躍した。
フレイムソードを全力で伸ばすと40m程の長さとなった。
実際の大きさとしても1mもの長さがあれば、流石にダメージを与えられるはず!
ところが、長すぎた事で、ジャイアントボアに当たる前にいくつかの木(実際は茂み)も切り裂く事となってしまった。
この一撃によりジャイアントボアの前足に深手を負わせるものの周囲に火が灯り始めた。
「ヤバい!! “ギガントウォーター”」
再度、跳躍すると周囲に向け大量の水生み出す魔法で火を消すと周囲に水蒸気が生じてしまいジャイアントボアの姿が見えなくなってしまった。
「アホか俺は!こんな場所で火魔法は厳禁だろうが!」
着地してそんな事を考えているジャイアントボアを見失った一瞬の事。
眼前の水蒸気が揺らめくと目前に足を怪我したジャイアントボアが俺目掛けて突進してきていた。
「避け切れん・・・。」
そう思った瞬間・・・。
俺の時間間隔がゆっくりとなっていった。
あぁ・・・この感覚・・・ガキの頃にもあったな・・・。
中学生の頃の話だが、トラックに吹き飛ばされた事がある。
その時も不思議と時間間隔がゆっくりになっていき、僅か1秒にも満たない時間が数十秒に感じた事があった。
命の危機に瀕した時に走馬灯が見えるなど良く言うが、正にそんな感じだ。
時速70kmで衝突されたらしいが、その瞬間に歩道を歩いている人の数や運転手の顔や口元の動きなどはっきり覚えている。
あの時、本来であればトラックの右フロントに衝突するはずだったが、ダメージが大きそうだと考えた俺は、一瞬ワイパーを掴むと強引にトラックのど真ん中に自分の身体がぶつかる様にした記憶がある。
そのお陰で、入院したものの死ぬ事はなかった。
何で、覚えているかと言うと事故の後、再三度
「角に当たっていたら死んでたぞ!」
と言われたからだ。
おっと!話がそれたが、正に今の俺の状態はそんな感じだ。
考えられる時間が伸びたからと言っても身体の速度まで早くなる分けではないのが欠点だが、それでも最後まで諦めずに考える事が出来る事は大変ありがたい。
今にも弾き飛ばされるであろう距離に猪がいる。
何とか躱そうと身体を動かすが、やはり動きが鈍い。
ダメージを最小限に抑える為に最大のブースト状態を維持しようとしたその時
「なんだ?どう言う事だ?」
不思議な事が起こったのだ。
限界まで引き上げたはずの“フロー”と“ブースト”だったはずが、まだまだ余裕がある。
それどころか、イメージ的には、まだ10%程度しか魔力を貯めこめていない感じだった。
慌てた俺は、オーラを最大にすべく魔力の体内循環を早めると同時に魔力を解き放つ。
すると今までは、白っぽいオーラだったのだが、某アニメの様な金色のオーラに変化していた。
正確には、金色になる前に青、赤とオーラの色が変化していた。
驚いている俺にさらなる事が起こった。
動かなかった体がイメージ通りに動き始めたのだ。
ユックリと動く時の中、俺だけが自由に動けるような感覚。
手で触れるほどの距離にあるジャイアントボアの牙に向けて手刀を降ろすとスパッといとも簡単に断ち落とす事が出来た。
さらにジャイアントボアの巨大な頭部をステップで躱し懐に潜り込むと地面を蹴り下から蹴り上げた。
踏み抜いた大地に巨大なクレーターを残し一瞬でジャイアントボアの腹を蹴り上げるとボゴンと奇妙の音の後ベッコリと腹部が陥没した。
完全に宙を舞う事はなかったが、それでもジャイアントボアは何かに躓いた様に転がっていた。
余りの出来事に呆然となる。
自分の身体をマジマジと見つめていると先程の時間がゆっくりと流れる感覚が終わっていた。
ジャイアントボアに目を向けるとピクピクと痙攣しているが、まだ死んではいないようだった。
なので、止めを刺す事にした。
いくら致命傷を負っているからと言っても相手はジャイアントボアだ。
簡単な魔法では、歯が立たない。そう思った俺は、最大威力を誇る水魔法を唱えた。
「アクアトルネードランス!」
硬質化した水で出来た巨大な槍が高速で回転する魔法だ。
通常であれば魔力を込めても20m程の大きさだったのだが・・・
「なっ!? なんだ!この大きさは!?」
放った魔法は200mをゆうに超えるであろう巨大な槍となりジャイアントボアを飲み込むかのように一撃で粉砕してしまった。
その後も威力が弱まらず周りの木々で見えなくなるまでブッシュ群に巨大な穴を空けてしまった。
四人も戦闘が終わったようで、暫し呆然としていた俺に声を掛けてきた。
「ひゃぁぁ~何この戦闘の後は・・・。」
「す・・・凄まじいですな・・・。」
辺りを見渡しているハルとアキがゴクリと息を飲んで言葉を紡いだ。
「やっぱり~!だから言ったじゃないですか~!神谷部長は力を隠しているって~!」
「えっ・・・えぇ・・・聞きましたし・・・分かっていたつもりでしたが・・・まさか・・・ここまでとは・・・。」
レイナは分かっていましたと言わんばかりの表情で呟いていたが、ナツは目を見開いて驚愕している。
小人状態だと周囲の木々の太さが直径3mもの幹なのだが、その幹が何十本と切られ燃やされている。
地面を見るといくつかの5m程のクレーターとは別に100m程のクレーターが出来ていた。
億の茂みを見渡すと直径25m以上もの穴が永遠と続いていた。




