小さな小さな 大冒険!! 43
それを見た俺は、すかさず最大威力の魔法を放った。
「プロミネンス!」
手を翳した方向へ太陽の紅炎を思わせる深紅の龍が現れて気に向かっていく。
一万度の高熱を帯びた灼熱龍が逃げ惑うデビルバットを喰らうかの如く暴威を振るう。
大量の魔力を込めた事で、巨大になった長さ200mもの灼熱龍は、デビルバットの回避速度を上回る速度で、次々と敵を飲み込んでいきやがて消滅した。
そして、それを見たアキがレイナの魔法により地面に叩き付けられたデビルバットに止めを刺していた。
数十匹ものデビルバットを飲み込む灼熱龍の姿を見た四人は密かに息を吞む。
「なに・・・この魔法・・・?」
「相変わらず出鱈目な威力ですな・・・。」
ハルとアキは半ば呆れた様に独り言ちており
「龍徳様一人であれば、この魔の森を抜けるのも容易だったのでしょうね・・・。」
「流石~♪神谷部長~♪ 凄いです~♪」
ナツは、どこか遠い目をしており、レイナは、いつも通り龍徳の事を褒めちぎっていた。
そして、敵を殲滅した俺達は、先に進むと予想通りデビルバットに囲まれてしまった。
どうやらレイナのサンダーであれば、倒す事は出来なくとも地面に落とす事が出来るとナツとレイナの2人がフォーミングサンダーを使って攻撃魔法を放っている。
しかし、高速で飛翔するデビルバットにフォーミングサンダーの標準を合わせる事が難しく中々ロックオン出来ないようだ。
どうやら先程のレイナが使ったようなサンダーが偶然当たれば、効果が高いようだが命中精度にかける。
眼前の5匹の魔物に向かい様々な攻撃を全員で仕掛けるものの掠る事さえ至難の技であった。
すると龍聖君が、先程と同じ要領で魔力を込め始めた俺の頭の上で何やら呟いている声が聞こえてきた。
耳を傾けるとどうやら自分の精霊達と話をしているようだった。
命の遣り取りを行う中、何を話しているのか気になったので、耳を傾けてみる。
「ふ~ん・・・ソヨって!あったま良いなぁ~♪」
「へぇ~♪ マッチも出来るんだぁ~♪」
「じゃ~こうすればダンゴも大丈夫じゃないの~?」
「ゼリー向いてなさそうだよね~♪」
そんな声が聞こえて来たので、戦闘中ではあったが龍聖に話を聞いてみた。
「龍聖?精霊達と何話してたの?パパにも教えてくれるかなぁ~?」
すると、頭の上でモゾモゾと動き出して自分の顔が俺に見える様に頭を突き出してきた。
「良いよ~♪ 蝙蝠さんはね~罠を仕掛けた方が倒しやすいんだって~♪ だから~空中に罠を仕掛けて倒せば簡単なんだって~♪」
「罠?罠って・・・どんな?」
「う~んとねぇ~結界魔法だって~♪」
「結界魔法? ん?・・・どう言う事・・・? 結界魔法を仕掛けたって結界を避けられたら・・・意味がないんじゃ・・・なるほど! もしかして!結界は感知できないのか!?」
「うん♪良く分かんないけど・・・そうだって~♪」
「だったら! 皆~っ! 結界魔法で逃げ道を防ぐんだ! どうやら!結界魔法なら感知できないらしい!
光の結界と風の結界!後は、闇の結界で、逃げ道を塞いでから攻撃するんだ!」
敵の攻撃を回避しながら四人が結界魔法をデビルバットに向けて放ち始める。
魔力がある俺達であれば目に見える結界に次々とデビルバットがぶつかってはバランスを崩して地面に落ちそうになっていた。
それを見た四人は、阿吽の呼吸で二人一組になるとナツが複数の結界で、蝙蝠の逃げ道を塞ぐと照準の絞り易くなったデビルバットに向けフォーミングサンダーランスを放つ。
雷を纏った槍の一撃がデビルバットの胸を刺し貫くと地面に落ち絶命していた。
ハル達も同様にアキが闇魔法による結界をデビルバットの上下左右後方に仕掛けるとハルがフレアランスを放っていた。
空中を囲まれている事に気が付かないデビルバットは眼前から迫りくる深紅の業火を回避しようと何度も結界にぶつかっては、回避を繰り返しているが、やがて逃げ場を失ったデビルバットが一瞬にしてハルの放った炎に飲み込まれ絶命した。
手応えを感じた四人が俺の方に力強い目を向けて静かにコクリと頷いていた。
両手が使えれば一人でも大丈夫だったのだが、龍聖君を左手で押さえて使えなかったので、龍聖君に頼んで、攻撃魔法を使ってもらった。
「良いの~♪ やった~♪」
俺がまだ、結界魔法を放っていないのに
「もう良い~? まだぁ~?」
と龍聖君が急かしてきた。
「よし!良いぞ!」
「やった~♪ じゃ~ね~・・・ これ! シャイニングフレア!」
なにそれ・・・?
初めて聞く魔法を使う頭の上にいる我が子に眉をひそめると俺の眼前に光り輝く4m程の球体が一瞬で生成され凄まじい速さでデビルバットに向かって行き燃え尽きると言うより光の中に消えて行くような印象を受けた。
魔法が直撃した時にも音が鳴らない事を不思議に思って龍聖君に質問してみた。
「えぇ~っと・・・龍聖君?・・・何その魔法?」
「ん~? う~んとねぇ~・・・光の炎魔法だって~♪ あとね~良く分かんないけど温度が2万度だって~♪」
はい?
白の炎って6000度位じゃないのか?
魔法だから・・・関係ないのかな?・・・って!子供が使うんだよ?
これは・・・危険すぎる・・・。
「龍聖君? 今の魔法はパパと一緒の時以外では使っちゃだめだからね~?」
「は~い♪」
聞き分けの良い子で助かった・・・。
これによって強敵だったデビルバットの戦いも容易となったが、音もなく後方から襲い掛かられると危険と判断しブーストによる身体強化を使って一気に蝙蝠の巣窟を駆け抜ける。
それでも幾度かの戦闘は避けれなかったが、時間を掛けずに仲間を呼ばれる前に殲滅した事で、デビルバットとの戦闘も連戦にならなかったのは、僥倖だった。
そして、デビルバットとの戦いに時間が取られたものの僅か3時間で蝙蝠の巣を抜けたのであった。
「ゼェ~ゼェ~・・・あぁ~疲れたぁ~・・・。」
「はぁはぁはぁ・・・そうだな・・・ブースト状態での戦闘がこれ程キツイとは思わなんだ・・・。」
ハルは地面に大の字で寝ころびアキは両手両足を地面に付いて息を整えている。
「ふぅ~流石に疲れましたわね・・・。」
「ですね~・・・。流石にちょっと休憩したいかも・・・。」
アキとハルに比べればナツとレイナは然程でもなさそうだったが、それでも相当に疲れている様に見えた。
この差は、恐らく魔力量の差によるものだろうと龍徳は冷静に四人を見つめていた。
何度も言うようだが、通常の大きさでの距離であれば僅か1㎞だが、小人状態では40㎞以上もの距離を無数の巨大蝙蝠に襲い掛かられ何度も戦闘しながら3時間で走り抜けたのだからその疲労度は計り知れない。
12回の戦闘で2時間程取られ、戦闘の都度足を止める事を考えれば、40㎞以上もの足場の悪い森林地帯を1時間で抜けた事になる。
綺麗に舗装された道路を走るだけであったら同じ距離を8分と掛からず走れる位には成長していなければ不可能であった頃は理解頂けた事と思う。
「そうだな・・・。10分だけ休憩するとしよう・・・。」
現在、入り口から約2㎞地点。
魔物の縄張りの境目による比較的に安全と言える場所に到着していた事で、息を整える為にも一度休憩を挟む事にしたのであった。
「さて・・・この先の魔物は・・・」
そこまで、龍徳が言葉にすると呼吸が整ったアキが口を開いた。
「恐らく・・・この先は、ジャイアントボアが生息するはずだ。」
「マジで?・・・ジャイアントボアってこの前の化け物の事だよね?」
「そうですな・・・。」
「ん? さっきは分からないような事を言っていたと思うんだけど・・・何で次がジャイアントボアだって分かるんだ? この森を隠れながら抜けたから分からないんじゃなかったっけ?」
この俺の問いに対する答えはシンプルなものだった。
「ジャイアントスパイダーもデビルバットも基本木の上から襲ってきますから認識阻害の魔道具があれば姿を見せませんが、ジャイアントボアは・・・あの巨体ですからな・・・。」
「あぁ・・・なるほど・・・小人状態では50m前後もの巨大な猪が歩いていれば目に入らない訳ないな・・・。」
そして、全員の回復を終え魔の森の最深部へと足を進めたのであった。
ここに来るまでにもアキが
「認識阻害の魔道具が壊れさえしなければ・・・」
と何度も悔しがっているが、無い物を当てにする等、全く意味がない。
匂いと音に敏感なジャイアントボアを刺激しない様に慎重に進み続け出来る限り戦闘にならない様に探知魔法で回避し続ける事1時間。
左前方より急接近する3体の魔物の反応が現れた。
「10時の方向から3体の魔物がこっちに向かってくるぞ!」
俺の声に全員の身が引き締まる。
何故、気付かれたのだろうか・・・。
俺は何気なく上空を見つめると今までとの景色にはなかった空洞の様に木々が別れている事に気が付いた。
「しまった!こ・・・ここは・・・けもの道だ!」
余りにも巨大なけもの道だった事で、気付くのが遅れた。
しかし、分かる訳がない。
上空20m以上もの高さの枝が左右に分かれ、幅20m以上もの獣道など
上空から見れば一目瞭然だったのだろうが、小人状態では足場が鳴らされている事にも気が付けないのだ。
「獣道?ですか? それは・・・」
ナツが質問するが、敵は目前だったので、端的に返事を返す
「ジャイアントボアの通り道の事だ! 俺達は、その通り道に立っている! 全力で抜けるぞ!」
そう俺が声を掛けた瞬間・・・奴らが姿を顕した。
「で・・・でかい!」
以前、戦ったジャイアントボアの体高が25m程だったのに対して2体のジャイアントボアの大きさは30m程もあった。 さらに先頭の1体は35m程の大きさであった。
「一体でもAクラスの化け物だと言うのに!」
「先頭のデカい奴は俺が受け持つから左をハルとアキ、右をレイナとナツで対応して貰うしかないな・・・。」
「「「「了解!」」」」
ここから全力戦闘へと移行していく。
「「「「精霊召喚!」」」」
「我が前に姿を顕せ!契約せし精霊の名は“スイート”!」
ハルが光の大精霊を召喚すると眩い光のドレスに身を包んだ可愛らしい女性の精霊が姿を顕した。
「スイート!貴方の力を貸してちょうだい!」
「えっへっへ♪ ハル困ってるんだぁ~♪ 良いよ~♪力を貸してあげる♪」
そして、スイートと呼ばれた光の精霊が、ハルの頭上に浮かび上がる。
「我が前に姿を顕せ!契約せし精霊の名は“レイン”!」
ナツが氷の大精霊を召喚すると冷気が空中に集まり出し氷のドレスを身に纏った冷たい目をした女性が現れた。
「レイン!一緒に戦って下さいね!」
「畏まりました。ナターシャ様!」
ナツの傍に立つと前方の敵をキッと睨み付けた。
「我が前に姿を顕せ!契約せし精霊の名は“ウィス”!」
アキの声に反応した大地に魔法陣が浮かび上がり闇の煙が舞い上がると闇の衣に身を包んだ容姿の分からない2mを超す大きさの闇の大精霊が出現した。
「頼むぞウィス!」
「我が名はウィス!主を守る盾なり!」
するとアキ自身にも闇の衣を纏わせ始めた。
「来なさい!雨王!」
本来であれば小人達の様に精霊召喚をするそうなのだが、俺が召喚する姿を見ていたレイナは俺の真似をする様になっていた。
俺の傍にいる時は、年相応の可愛らしい女性であるレイナだが、会社で仕事をしている時の様な凛々しい表情になっている。
龍徳が「そうなんだよな~こいつ・・・本当は綺麗なんだよな~」と思った事は内緒である。
レイナの呼びかけに反応した雷の大精霊が、空中に姿を顕し始める。
バチバチバチと放電現象が起こり始めると次第に雷を身に包んだ精悍な男性が姿を顕した。
「レイナ様!お久しゅうございます!何なりとお申し付けください。」
「敵を殲滅します! 力を貸しなさい!」
「はっ!お任せください!」
その瞬間レイナと融合した精霊の力によりレイナ自身から放電現象が起こり始めた。




