小さな小さな 大冒険!! 41
小人状態であれば120m以上の長方形の岩だもんな・・・。
本来であれば見上げる程の高さだろうが、気付かなかったとしても無理はないな。
そんな事を俺が考えていると
ナツが何やら詠唱を始めたのだ。
「我が名はナターシャ・ディナスティー・レインベール!古の契約に基づき!我が前に真実を顕せ!」
すると・・・
「な・・・なんだ!」
パァ~ッと一瞬光に覆われると今まで見ていた景色が変化したのだ。
俺とレイナが目を見開いて驚いているとハルが教えてくれた。
「ウフフ♪ 驚いた? これはね~小人の国の初代国王が契約した風と光の精霊王による結界だよ♪ 王族に連なるものの言葉でしか入れない様になっていて、1000年以上前の大噴火からも守ってくれたんだって♪」
「凄いな・・・。」
先程までの光景だと永遠と続くかの様な岩と樹木が遮る世界だったのだが、樹木は覆い茂っているものの、今までの樹木に比べると4分の1程の高さしかなく地面も平坦な岩棚に変わっていた。
さらに小さな川まで流れていた。
結界を通り抜けてから森の中を20分程歩くと違和感を感じた。
この場所だと普通に時速3㎞程度で歩いているのではないだろうか?
富士の樹海の中にこんなにも平坦な場所などあるはずがない・・・。
そこからさらに10分程歩くと以前、聞いていたものが現れた。
「神谷部長! これって・・・」
「なるほど・・・この藪は通れそうもないね・・・。」
どうなっているのだろうか?
高さが2m程もありそうな茂みが永遠と続いている様に見える。
良く見るとところどころに棘が付いていて、この状態で強行突破しようものなら全身がズタボロになりそうだ。
身をかがめて下を覗くと確かに40cm程の空間が広がっている。
ところどころに根を張っているが、比較的小人状態であれば歩きやすそうな感じであった。
しかし、ただでさえ光が届きにくい樹海なのに・・・否!正確には、結界を通り過ぎてからは日差しもあったのだが、ブッシュの下は、ところどころ光が差し込んでいる様に見えるが、かなり薄暗かった。
「それにしてもこの茂み・・・随分と続いているな・・・。」
「そうですね・・・巨人族の単位であれば3㎞と言ったところでしょうか?」
「と言う事は・・・。120㎞もあるのか・・・って!おかしくないか? それだと反対側から樹海に入った方が近かった事になるんだけど・・・どう言う事だ?」
感覚的ではあるが、樹海に入り既に3時間は経過している。
幾ら迂回が多かったからと言っても2㎞位は進んでいるはずだ。
さらに、この場所に入ってから最低でも1.5㎞程は進んだはずだ・・・。
その場所から3kmも進むのであれば、道路が見えるのではないだろうか?
するとナツが柔らかいいつもの口調で教えてくれた。
「クスクスクス♪ 仕方がないのです♪ この結界内は、偉大な光の精霊王の加護により守られているのですから♪ 実際には巨人族にとって400m程の空間なのですが、精霊の力によって40倍の広さとなっていますので・・・。」
「40倍?って事は・・・この結界の中って実際の大きさで16㎞もあるの~? はぁ~・・・神谷部長~? 魔法ってそんな事まで出来たんですね~・・・。」
レイナが驚いているが、正直俺も驚きを隠せない。
ただでさえ広大な富士の樹海の8倍以上の広さがあるのだ!
直径16㎞っと言う事は、小人状態であれば640㎞に相当する。
「これは・・・ちょっと考えが甘かったかも知れんな・・・。」
時刻は、既に午後4時を指していた。
こうなると・・・下手したら2日・・・最悪3日は覚悟した方が良さそうだな・・・。
「部長!急いだほうがよさそうですね・・・。」
レイナも自分達が置かれた状況を冷静に分析したようだ。
「そうだな!ここからは、道も厳しくなさそうだからな・・・。」
俺は、ハル達の方へ目を向けると静かに頭を頷いた。
「そうだね・・・ここからは、危険区域だから急いだほうが良いね・・・。」
「そうだな! ある程度進んだ場所でキャンプの準備をせねばならんから後・・・2時間と言ったところか・・・。」
俺とレイナはハルの言った危険な場所と言う言葉に引っ掛かった。
「ハルさん?危険な場所ってどう言う事なの?」
これは、当然の質問だろう。
「ん? だって、ここからは、元の状態・・・レイナさん達は、小人化する事になるんだから・・・今からこの魔の森を抜けようとするんだから当然、ここが、魔獣の住処である限り、戦闘は避けられないよね・・・。」
はい?魔の森? 魔獣の住処?・・・あぁ! 動物や昆虫が多いって事か! 変な言い方をするんじゃない!ビビるでしょうが!
「なるほど・・・動物たちの住処という事だね♪ だが、その為に大変な思いをして魔法を磨いてきたんだからな!まぁ・・・危険である事は分かった。」
そして、茂みの近くまで行くと全員小人状態となり魔の森へと足を踏み入れたのであった。
そして、現在キャンプの設営中だ!
以前に比べ格段に力が強くなっている実感があった。
魔の森は、富士の樹海に比べれば比較的に歩きやすいとは言え小人状態であればたかだか5cm程度の段差でも壁になるのだ。
ところが、それ位の高さであれば全員が余裕で飛び越えられるようになっていた。
それどころか小人状態での6m位の高さであれば飛び越えられるようになっていたのだ。
驚く事に龍聖君であっても2m程の高さであれば飛び越えていた。
本当の平地ではないので、1時間で200mと言った感じだが、平地であれば時速3~4㎞位の速度で走れるのではないだろうか?
以前m2.5m走(小人の100m走の事)のタイムを計った時に比べ全員が3倍以上速くなっていた。
まぁ・・・予想通りだった訳だが・・・
無人島での修行で、全員違和感を感じた事が何度もあった。
理由は簡単で、魔法を使わなかった状態でも普通に泳ぐ速度が速くなっていた。
それだけではない!砂浜を走る速度も格段に上がっていたのだ。
実際、計っている時間がなかったのだが、もしかしたら100m走を余裕で10秒切るかも知れない。
最初は海から山頂まで急いでも20分程掛かっていたのだが、最終日には5分程で到着出来るようになっていた。
さらに、持久力も上がっていた。
最初は知らなかったのだが、いくら魔法により移動したと言っても身体を動かしている状態には変わりがないらしく午前中の約4時間を俺と龍聖君は休憩なしで遊んでいた。
ナツ達は、確かに何度も砂浜に上がっていたのだが、てっきり魔力操作の練習をしているのかと思っていた。
実際はこまめに休憩していたとの話を後で教えて貰った。
そんなナツ達四人も最終日には一回しか休憩していなかった事を考えると相当持久力が付いたのだろう。
なので、小人状態になっても以前よりパワーアップしているのではないかと考えていたのだが、どうやら正解だったらしい。
と言う訳で、現在地は魔の森に入ってから約400m地点だ。
実際には16㎞進んでいるのだが、小人状態だと何故か悲しくなる程の距離に感じる。
そして、ここに来るまでに3度の戦闘をする事になった。
正確には、蚊や蟻と言った魔虫もいたのだが、今の俺達には物の数ではない。
なので、ここで言うところの戦闘とは、本格的な戦いの事だ。
敵の名前は“ジャイアントスパイダー!”
実際の大きさであっても10cmはあるだろう。
現在の俺達には、4mもの巨大な蜘蛛が襲い掛かってきた。
正直・・・この大きさはビビった。
ジャイアントスパイダーとは良く言ったものだ。
アキ達が、冷や汗をかいて警告した理由が分かる気がする。
小人化状態だと全く違う生き物に見えてしまう。
槍先の様な手足! 凶悪な口元の牙! 厄介なのが糸だ!
本来であれば、僅か0.005㎜しかないはずの蜘蛛の糸が、0.2㎜もあるのだ!
人間の髪の毛よりも太い蜘蛛の糸の強靭さと言ったら冗談ではなかった。
以前も家や新居で雲を相手に戦闘訓練をしたけど、ここまで戦闘能力は高くなかった。
と言うよりここまで大きい蜘蛛などいなかったのだ。
なので、蜘蛛の糸に襲われてもどうにでもなったのだが、ここの蜘蛛は知っている蜘蛛とは何かが違うように感じた。
動きも俊敏で、兎に角、凶暴だ!しかも尻からだけでなく口からも蜘蛛の糸を吐き出した。
蜘蛛の巣で獲物を待っているのではなく自らが獲物を狩るかの様に攻撃を仕掛けてくる。
本来、蜘蛛の糸は耐熱性にも優れていて300度位の熱迄耐えるのだが、ここの蜘蛛は・・・
「きゃぁぁぁ~!」
ジャイアントスパイダーの放った糸がハルに絡みつき動きを封じられてしまった。
「ハルさん! 今助けます! ファイアーボール!」
レイナが、慌ててハルに巻き付いている糸を焼き切ろうと魔法を唱えたのだが・・・
「うそ!? 何で焼き切れないの?」
今レイナが使ったファイアボールは80cm位の大きさはあったのだが、驚いた事にファイアボールの熱に耐えたのだ。
「部長!ファイアボールって・・・1000度位あるんじゃないんですか?」
「あぁ!って事は、ジャイアントスパイダーの糸の耐熱性は少なくとも1000度以上はあるという事だ!」
これには、驚いた。
まさか火で燃えない糸が存在するとは思わなかった。
左側ではアキが、ジャイアントスパイダーに向けてストーンバレットを連射していた。
「娘を話せ!化け物が!」
連射するために30㎝程の大きさだが100発近くは直撃したにも拘わらず何事も無いかの如くジャイアントスパイダーはハルに向けて歩みを進めていく。
慌てたナツが、反対側からファイアランスを放つも体毛を焦がす程度の効果しかないようだった。
慌てたレイナがサンダーを放つも躱されてしまった。
「ちっ! 俺が行く! ファイアーランス!」
一瞬で、オーラを発動させると同時に頭上に現れる5mもの巨大な炎の槍が発射されジャイアントスパイダーに深々と突き刺さった。
「ギィィィィィ~」
断末魔の様な声を上げるとドス~ンっと大地に伏せたのであった。
それを見たアキがハルに駆け寄ると持っていた刃物で蜘蛛の糸を切り裂こうとした。
「くっ!やっぱり切れんか!」
その様子を見た俺は、ハルに駆け寄ると新たな魔法を使ったのだった。
「アキ!その剣を貸してくれ!」
そして、アキから借り受けた剣を土魔法で強化し炎を纏わせた。
「これが、ホンとのファイアソード!なんちって!」
ハルに絡みついている蜘蛛の糸に向けスパッと一戦すると容易く切る事に成功した。
「龍徳殿・・・今のは・・・?」
「ん? あぁ~ただの鉄だと溶けちゃうから土魔法で鉄の強度を上げた状態で、自分の身体の一部の様に剣にも魔力を循環させてから、刀身に炎を纏わせる様に魔法を使ったんだけど・・・上手く言ったな♪」
「そんな簡単に言っていますが・・・それは・・・魔法剣ではないですか!」
魔法剣?何かカッコいいな♪
「そうなの? アキが剣を使うから一度試してみたかったんだけどヤッパリ予想通りだったね♪ 魔法だけのフレイムソードよりも切れ味が間違いなく良かった♪」
「フッ♪フハハハハ♪ 龍徳殿にとっては、失われた秘剣も当たり前でしたか? ワッハッハッハッハ~♪ 本当に何というお方ですか・・・。 なるほど・・・土属性で刀身の強度を上げなければならない複合魔法でしたか・・・精霊レベルも魔法レベルも高くなければ出来ない高等技術・・・。」
「ん~! 確かに前の俺だったら出来なかったと思うけど、今のアキでも余裕で出来るぞ?」
「話を聞く限り・・・確かに!」
そう言うと持っていたもう一つの剣を握りファイアーソードを見事に再現した。
「はっ!ははは♪ まさか・・・ワシが出来るようになるとは、思わんかったな・・・。」
感慨深かったのかアキの目には涙が滲んでいた・・・。
「それにしても・・・魔法の威力を一ランク上げた方が良さそうだな・・・。」
「私もそう思います・・・。ちょっとピクニック気分だったんですけど・・・。」
おいっ!心の声が漏れたぞ!




