小さな小さな 大冒険!241
以前から実験を繰り返していた事で、分かった事だったが本来、巨人と小人の間には計算上であれば質量が64000倍もの違いがある為、64㎏の体重の人間であれば僅か1gしかないはずが、小人の状態でのパワーが上昇する程、質量が増えていた。
これは、単純に体重が重くなったという事。
これは、龍徳だけではなく全員に等しく起きていた事であった。
そして、小人状態で僅か4.5㎝しかない龍徳の現在の体重は、実際の3分の1にも満たないが20㎏以上もある。
これは、龍聖もそうだが、ソーマの体重が想像以上に重かった事に疑問を持った龍徳が調べて分かった事であった。
だからこそ、修行を巨人の状態で行ったのだが、これはメリットとデメリットがある。
初めて小人になった時であれば、水の上を走る事も可能だったが、現在は魔法で足場を固めないと沈んでしまったり、以前は高所から飛び降りようが、大したダメージが無かったのだが、今であれば物理防御の結界を発動していないとシャレにならないのだ。
小人状態で174㎏もの握力を誇る龍徳だからこそ指だけの力で楽々と身体を支えているとはいえ、それが、5時間続くとなると話は違う。
「腹減ったぁ~・・・」
そう言って背中のバッグからおにぎりを取り出して食べ始めた。
「ふぅ~生き返るなぁ~」
そして、1時間程の休憩を取り終えると再び崖を登り始めたのだった。
「もう14時を回ったか・・・明るいうちに登れないとマズいな・・・この先にも変色した部分があったはず・・・
最悪、そこで過ごした方が良さそうだな・・・」
その後、モクモクと絶壁を登り続けるが、陽が沈む程に岩肌の起伏が見え難くなっていた。
「チッ・・・やはり間に合わなかったな・・・」
現在時刻は17時30分。上空はまだ明るいものの山々に遮られた陽の光のせいで、周囲は既に薄暗くなっている。
現在、地上から1600メートルを超えた地点なのだが、やはり休憩を挟んだとはいえ9時間もの崖を登りは龍徳のパフォーマンスを低下させるには十分な時間だったのだ。
「次の場所まで後少し・・・暗くなる前に作業を終えないとな・・・」
そう言って目線を上げると20メートル程登った地点に変色した場所が見えた。
「クッ・・・流石に限界が近いな・・・」
片手で自分の身体を支えては、もう片方の手をグルグル回したり、ブルブルと腕を振って疲れを取ってから再び登り始め10数分後、目的地へと辿り着いたのだった。
「はぁはぁはぁ・・・時間がない・・・急がないと・・・」
プルプル震える腕で短剣を持ち歯を食いしばる様に必死で穴を広げて行き中層のような洞穴が出来た頃には周囲はスッカリと暗くなっていた。
「ゼェ~ゼェ~ゼェ~・・・げ・・・限界だ・・・」
龍徳としては珍しく肩で息をする。
ビクンビクンっと痙攣を起こす腕を動かすのも億劫なのか大の字に倒れてからは数十分ほど微動だにしなかった。
時刻は既に19時30分。
先程まで、微かに明るかった空にはハッキリと星空が浮かび上がる。
「はぁ~疲れた・・・」
ガサゴソとバッグの中に手を入れるとランタンを取り出し周囲を明るくする。
「ハハ・・・余程切羽詰まっていたんだな・・・」
ランタンに照らされた洞穴の広さは4メートル四方もの広さであった。
2メートル程もあれば十分だと考えていたのだが、薄暗くなっていた事と体力の限界で、大きさを考える程の余裕がなかったのだろう。
「まぁ・・・逆にテントが張れるから助かったかもな・・・」
その後もいくつかのランタンに火を灯すと異次元収納からサバイバルグッズ用の倉庫を取り出してキャンプの準備を終え、食事をしながら考え込んでいた。
「残り350メートル程だよな・・・」
そう思って魔力探知を広げると間違いなく350メートル上空から魔力の反応があった。
流石にここまで、近寄れば多少の魔力を使用しようがバレる事はない。
「明日の昼までには間違いなく辿り着くな・・・」
テーブルの上にあるコーヒーを手に取って口に運ぶとふぅ~っと息を吐いてアストゥーの事を考え始めた。
俺の記憶を取り戻す事が先決かもな・・・
俺とアストゥーの繋がり・・・俺の考えをルーに話せば何かしら思い当たる事があるかも知れんな。・・・だが、ルーへの接続はまだ時間がかかるか・・・早くと2日後ってところか・・・
後24日で全てを終わらせないとな・・・
敵の戦力がどれ程か・・・ある程度予測はしたが・・・果たして想定内なのか・・・
そう考え始めるとさらに分析を始めて行く。
敵側には、間違いなく古竜ディザスターがいる・・・
もし、真龍へと成長していれば、1年前のソーマの百倍以上の戦闘力は間違いなくあるだろうな・・・
そんな敵に勝てる可能性があるとしたら今後のソーマ次第だが、期待に応えてくれたとして俺と龍聖とソーマの3人だけだ。




