小さな小さな 大冒険!171
そして、最後の“命の試練”へと移動する。
同じ様に結界で覆われた後、決められているかの如く同じ様に離れて行く。
一つだけ大きく違う点は、龍徳や龍聖の力をもってしても強制的な幻覚を見せられたという事。
正確には幻覚とは思えない。
頬を抓れば痛みがある為、現実との区別がつかないのだ。
≪汝は何を求め、何を救わんと欲す。汝の命に問う。慈愛を持って命の在り方を示せ≫
その声が聞こえた瞬間5人の景色が一変する。
この最後の試練だが、救いを求める強さが仇となる。
よって、救いを求めてなどいないソーマにとっては、何の変哲もない試練であった。
ソーマの目に映し出される景色は、約3100年前にドラゴンとして生を受けた頃の懐かしい光景・・・
日本と呼ばれる前の島国に産み落とされた。
人口8万人の島国の神とも呼ばれた時代。
巣だったソーマにとっては全ての物が弱者でしかない。
腹が減れば生き物を殺す。
そうしている内に人間どもが供物を捧げるようになっていった。
生まれ出でてより数百年もすると人族の言葉を覚えた。
最初は矮小な生き物が何を言っているのかが分からなかったが、時間と共にソーマに神頼みをしている事を理解し始めた。
この時代の世界には、後世で妖怪ともUMAとも呼ばれるような魔物が数多く存在した時代。
その為、人類は圧倒的弱者であった。
ある種、特殊な能力を持っていた人間ではあったが、像の様な大きさの魔物が何十体となって襲って来れば一溜りもなかったのだった。
人間がソーマに願うは襲い来る魔物の討伐。
強者である魔物に退行する術を持たない人間にとってソーマに頼る事が唯一の対応手段だったのだ。
最初は、只の気まぐれだった。
ソーマとしては、自分の縄張りを荒らしに来た魔物を屠っただけであった。
人間は、ソーマの事を崇め、供え物を忘れない為、敵とは考えなかった。
放っておいても食べ物を持ってくる人間がいなくなれば勿体ないと思った程度の話。
「ふむ・・・何とも懐かしいものを目せてくれるな・・・グルル・・・これが吾の救いたいと願っていたものと言う事なのか?」
っと自分でも納得がいかないっと首を捻っていると
ソーマの前に人間達が現れソーマに語り始めた。
「黒龍様!お願いがございます。」
っと魔物の群れが襲って来る兆候があると族長らしき男がソーマに話しかけた。
『グルル・・・フム・・・昔であれば暇つぶしか小腹が減ったから願いを聞き届けた程度の事だった記憶があるな・・・だが・・・これは試練なのであろう?・・・そうなると・・・先程聞こえた“慈愛を持って命の在り方を示せ”・・・これが、肝要である訳か・・・今の吾であれば・・・』
っと龍徳達と出会って人間と言う生物への関心が高まった今の自分を冷静に見つめ直す。
『偶然に近い事だったとはいえ吾がいなければ、日本の人間が滅んでいた可能性もあった訳か・・・それを考えると面白い・・・グルル・・・この様な矮小の種族から龍徳や龍聖殿の様な化け物が生まれようとはな・・・』
ドラゴンの本当は自分より強い者に惹かれる。
生まれ出でてから自分より強い存在は、同じ種族のドラゴンしか有り得ないと思っていた。
だが、最弱だとさえ思っていた人間が最強種を倒せるなどと微塵も思わなかった。
たった1年ほどの事だが、その1年がソーマにとって、それ以前の3000年を上回る出来事であったと言っても過言ではなかったのだ。
最強種であるが故の孤独も当たり前の事。
どの様な生物であっても時間が経てば死んでいく。
最強種であるが為に相手を認める事などない。
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