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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「わたしたちは友達が少ない」(9)

しばらくの沈黙があった。

頬に手を当てて、暗殺者は少し暗い目をしている。

その目線の先に、エルフの美女は映っていない。どこか遠く。おそらくは、ここではない何かを見つめながら彼女は呟く。


「わたしたちは、友達が少ない」

「……」

「わたしの場合、あまりひとところに留まることのない暮らしを続けてきたからというのを言い訳にしているけれど、たぶん、それは本当の理由ではなくて、そもそも、わたしたちは、ひとと付き合えるように出来ていないんだろうね」


ハニカムウォーカーはプラムプラムの倒れているソファーに近づいた。


「迷惑じゃないかなとか、わたしみたいなのと付き合っていると、相手まで何か良くないことが起こるんじゃないかとか、色々思うことはあるよ。でもそれは全部、後付けの理由だ。わたしは、人を本当の意味で好きになるということがないんだ。もう死んでしまったひとを、後になって惜しいと思うことはある。でもたぶん、他人を愛せないんだよ。わかる?」


下向きの胡乱な目つきに、リィンは首を振って答えた。

背もたれに寄りかかり、リラックスした風を装っているが実際は背筋のラインが緊張しているのが見てとれる。ナイフを持ったままの相手が近づいてきているのだ。気にするなという方が難しい。


「分かるはずなんだけどな。おそらく貴女も、友達が少ない。っていうかさ、いないだろ、友達」


ぼそぼそと呟いて、暗殺者はようやくリィンの顔に目を向けた。その表情は、さっきまでと違ってそれほど険しくない。


「ああ、ごめんよ。別に侮辱するつもりじゃないんだ。ただ、わたしは数少ない友人の、この人をさ、とても大事に思ってるって話をしたかったんだ。わたしたちと違ってプラムは、きちんと周りの人を、その人自身を見ている。わたしたちと違ってさ」


ナイフを持っていない方の手で、ハニカムウォーカーは寝ている友人の髪を軽く撫でた。

リィンはそろそろと息を吐くと、テーブルに残った酒に手を伸ばした。く、と一息で空にして彼女は足を組んだ。


「わたくしとあなたを勝手に一緒にしないでくださる?」

「へえ!」


吐き出すような声に暗殺者は心底愉快そうな声を出した。そして自分の角の横で、ひらひらとナイフを振る。


「結構、言う時はしっかり意見を言うんだね。それなりには度胸もある。わたしのこいつにビビって少しは大人しくなるかと思ってた。それとも単にアルコール中毒なのかな」

「見くびらないでいただけるかしら」

「どっちの意味だい。酒乱の話かい。アル中はみんなそう言う。まだ呑めるろぉ、ってさ」


リィンは答えずに酒をなみなみと継ぎ足し、暗殺者は目をくるりと回す。いつのまにかナイフが手元から消えていた。


「プラムへの感謝を忘れないようにね。お嬢様。彼女が、貴女を赦したから貴女はそうやって好きな酒を飲んでいられる。たぶん、プラムが飲まされたのは、眠るだけの無害な毒なんだろう。そこだけは評価するよ。でもわたしはまったく貴女を許していない。今、わたしの友人を欺いて傷つけ、過去、わたしへの依頼に対しても嘘をついた」

「嘘ですって」


リィンの声が一段高くなる。


「わたくしがいつ嘘をついたというの」

「一晩、仕事のためにゆっくり時間をくれるという話だった」

「差し上げましたが」

「邪魔が入ったよ。盛大なやつがね」


リィンは一瞬動きを止め、そしてハニカムウォーカーをきっと睨んだ。


「何を」

「事実さ」

「何ですって」


エルフは一瞬、手元に目をやり、弾かれたように顔をあげる


「あの死体…あなたが持ち込んだのではないというのですか!」


その目には嘘がないように見えた。ハニカムウォーカーはどのように判断したのだろうか。表情のない目がエルフを観察している。


「なんでわたしがあんなとこに死体を持ち込むと思うんだ。酒の飲み過ぎで頭がイカれたのかい」


ハニカムウォーカーは呆れたように低い声を出すが、その実、リィンがそう思うようにグラスホーン達が室内の様子を仕上げていたというのを、当のリィンは知らない。


昨晩、グラスホーンの提案によって、彼を再び縛り上げた暗殺者は、同じく彼のアイデアによって部屋を荒らした。本を引き出し、ばらまき、壁に血文字を描いた。わたし、ほんとは片付けるのが仕事なんだよ、とぶつくさ言いながら作業していたが、最終的には割と楽しんでいたようだった。


リィンが果たして本当に動く死体の刺客と無関係なのか、確かめるためにはこうするのが一番手っ取り早いはずなんだ、とグラスホーンは言った。

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