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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「わたしたちは友達が少ない」(7)

長い沈黙があった。


「その、さ」


プラムプラムがおずおずとその沈黙を破る。


「さっきまでここに居たっていう赤襟の大将は、その情報を聞いて、どんな顔した訳?」

「笑顔でしたよ。ついでにささやかなお礼を頂きました。その後は、今すぐ調べに行くって」

「今、まだ夜だけど」

「あら、わたくしも同じことを申し上げましたわ」

「そしたら、なんて?」


リィンは肩を竦める。


「“昼に行くより、家に居る可能性が高い筈だ”って」

「蛮族のひとたち、そういうとこあるよね」


ムル喰いを売った業者か、テクニカのアジトか。いずれにせよ襲撃するなら夜のうちに、ということなのだろう。想像すると、なんだかやけっぱちな気分になってきた。プラムプラムは目を瞑り、ぐっとグラスを空にする。

まるでそのタイミングを狙っていたようにリィンが質問を差し込む。


「それでプラム。火事の話じゃないなら、あなたの別の用事っていったい何だったんです?」


思わず噎せそうになったがなんとか堪えた。

話題のゲッコの首を切り落として帰って来た友人がいて、しかもぼっとしていたらその首を盗賊に盗まれた、なんてことを告白できる雰囲気ではない。彼女はつくづく、開口一番にゲッコの話をしないで良かった、と思っている。

リィンが、彼女と赤襟の当主と、どちらをより重要に思っているかというのは判らない。ただ、彼女が確実に友人や交友の中に「序列」をつけるタイプということだけは判っていた。果たして、プラムプラムはリィンの中での価値がザーグよりも「上」なのか、「下」なのか。


「ちょっと待って。その前に、なんであたしの用事がその地下の火事のことだって思ったの」

「それは…」


時間稼ぎのつもりだったが、意外な反応だった。

プラムプラムは言い淀むエルフを追う。


「まだなんか隠してるでしょ」

「隠しているわけではないのですけれど…」

「何よ」


彼女の手元のグラスと、彼女の顔色を見てリィンは軽く決心したように座り直した。


「ランガンキャッチャーを扱った業者というのは、あなたに、関わりの深い者なのです。ジャングルに住む生き物だけでなく、多種多様な生物から畜肉まで」

「何、それ、シャオヘイのとこなの?!」


シャオヘイ、とは、プラムプラムが店で出すためのヘビを仕入れている商人である。確かに、怪しい連中と関わりが深いとも聞く。死番蜥蜴の一族、リザードマン然とした風貌から、そもそも怪しいといえば怪しい。リィンが快く思わないのも理解できる。シャオヘイは欲深いところも多いが、しかし、本質は誠実な商人だと彼女は思っている。


「てっきり、あの爬虫類に頼まれてわたくしに口止めを頼みにきたんだとばかり思っていました。ランガンキャッチャーの件、ザーグに伝えるのをやめてほしい、と」

「ちょっと」

「ごめんなさいね、プラムプラム。あなたを疑っていた訳ではないのだけど、今は、誰であってもザーグの邪魔をしてほしくないの」


リィンの言葉が終わるか終わらないか、不意に両腕腕に力が入らなくなった。かくん、とプラムプラムは椅子の背もたれに沈み込む。


「お、おりょう」


リィンを呼んだつもりが呂律も回らない。思い当たることはひとつだ。酒に何か、混ぜられていたのか。彼女は咄嗟に自分が何杯飲んでしまったのか考えようとした。

意識が拡散してゆく。一呼吸ごとに、体が重くなってゆく。まさか焚かれている香も、なにかの効果のあるものだったのか。

相変わらずリィンは悲しそうな顔でプラムプラムを眺めている。


「プラムプラム。悪気はないのよ。わかって」

「おりょう、あんら」

「死ぬ毒ではないわ。無関係だったとしたら、ごめんなさい。その場合は、わたくし、あなたのお願いとやら、必ず叶えて差し上げるから、どうか許してね」

「友達らと、思っれたろに」


致命的に舌が動かない。

リィンは、眉だけを悲しそうに作った。


「ええ、わたくしも、そう思っていましたよ」

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