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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「ルールとマナー」(7)

本当に心当たりがないのかい。


自分がしたことの、記憶がないというわけではないのかい。まあ、あんな長い名前を噛まずに言えるくらいだ。記憶力はそこそこ悪くないんだろう。でも、まったく心当たりがないっていうのは変だろ。だって、あのお嬢様の様子ときたらまるで、ロンメンの牛みたいだったぜ。マジでさ。


わたしが見たところ、金の問題じゃあなさそうだった。わたしに支払った額からしても、金に困ってるんじゃない。となると、彼女が怒り狂う原因としたら、侮辱されたとか、プライドを傷つけられたとか、その手のやつじゃないかなとは思うんだ。


君は、まあ、悪党だろ?

なんか、ないのかい。手下が彼女の縄張りを荒らしたとか、商売のルートを潰したとかさ。


え?

いや……その。

白状するとさっき言ったのは半分ハッタリなんだ。わたしは君のことをそこまでよく知ってる訳じゃない。二、三の賄賂の件は知ってるけど、そこそこの地位にあれば賄賂くらい断る方が難しいってのも同じくらい知ってる。そもそも、個人的な贈り物と賄賂は区別がつくかって言ったら難しい話だしね。


そうだ。


区別がつくかどうか難しいと言えばわたしの話さ。ここ、龍の国のルールの話で聞きたいことがあるんだよ。君たちは、どうして殺し合う前に長々と罵り合いをするんだい?文化なのか?

相手が身構える前に、ぽっとひと突きした方が手っ取り早いし楽じゃないか。言いたいことがあるなら、ごぼごぼ言ってる相手を見下ろしながら伝えてやったほうがラクだろ。

お互い、ぜえぜえするくらいに罵り合って、それからようやく「かくなる上は決闘ですな」って、バカかってわたしは思うんだよ。


いやね、暇だから何度もこの宮廷には出入りしてる。屋根裏や窓から覗けるところは少なくないんだよ。彼らは見られてると思ってないのかな。それとも、わたしみたいな小物のことはそんなに気にしてないんだろうか。

分からないけどともかくさ。言い争いをするのは君たちにとって一体、なんなんだい?儀式なのかな。それとも、それだけで満足しちゃうのかい?


ん?


へえ。

そうか、君は暴力であれば一律、サベッジ、野蛮と呼ぶんだね。面白いな。同じ言葉でも、国を変えると別のものを指す。不思議なものだねと思ったけど、まあ、しかしどこの国も似たようなものか。

いや、おかしいのはわたしなのかな。


わたしはね、暴力というものが、いかなる場合にも忌避すべきものだとはどうしても思えないんだよ。今の君とわたしの状態を見てごらん。君に、圧倒的な暴力があれば状況は打開できるかもしれない。逆に、会話や話し合いだけでこの状態は解決しないだろ。


こういうことを言うと、君たちはいっつも同じことを言う。最初にわたしが「間違った方法」をとったからだって。

でもさ、わたしがそれをやめたって、世界には「間違った方法」はわんさか溢れてるじゃないか。それに対抗するのは、本当に「それは間違ってる」って口を動かすことだけなのかな。


いや、わたしは意地悪な問題提起をしたいわけではないんだ。本当に……その、考えているんだよ。

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