表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
6/116

「ルールとマナー」(6)

そうそう、上手だ。

呼吸に、呼吸に気をつけるんだよ。たっぷり息を吸い込みたくなるだろうとは思うけど、お互い緊張感を持って仕事をしよう。君は抑制を、わたしも抑制を。そこそこフェアだろ。


なんの話だっけ、そうだ。

エルフ族の名前の話だ。宮廷にこんな立派な部屋を持ってるってことは、君、そこそこ偉い人なんだろ?教養のある人の話はいつだって面白い。時間があればいろんなお喋りをしたいところだけど、質問することは少なめにしておこう。パトリックノーマンマクヘネシー。


西方列島国家の出身かな?並列の家名をつなげてゆくエルフ族の文化については耳にしたことがある。エルフ族は長命だと聞くし、3つの家名を連ねてるということはそこそこの地位の人だと推測するよ。


それでさ、単刀直入に聞くけど君は、わたしのことを「誰からの使い」だと思っている?ああ、大きくなければ声を出してもいいよ。君の地声が、絶叫系でないなら問題ない。息を吸わなければ大きな声は出せない。

ふむふむ。


『リィン・スチュワートキャニオンスクラムキルグラスハートヨルスクリーム』


ンフフ、よくもそんな早口言葉みたいな名前、何も見ないで言えたね。なに?復唱したわたしもすごい?

褒めてくれてありがとう。


その通り、君の想像している通りだよ。

そのエルフのお嬢様がわたしに、君のことを「死ぬほどこわい目」に遭わせてやってくれって頼んできたのさ。

痴話喧嘩かい?

君のケツに焼けた鉄の棒を突っ込んでやって欲しいとか、穏やかじゃないよね。対価もすごい。渡し方は気に食わなかったけど、大金だったしね。お金に名前は書いてない。


あ。


まいったなぁ。

今気づいたけど、わたし、依頼人の名前を公開してしまった。これはマナー違反ではないけど、ちょっと困ったことになった。

何って、そりゃさ、これから君を殺さないでおくという選択肢をとってしまうと、わたしが、大変マズい立場になるってことさ。

だって君、君だって復讐したいだろ?

自分をこんなこわい目に遭わせた相手を、おんなじような目に遭わせたいって思うはずさ。あの女のおっぱいを切り取って口に突っ込んでやってくれって、君はどっかのギルドに駆け込むだろ。

ダメダメ。

これは口約束だからだめだとか書面にしたからいいとかではないんだよ。自分の意思で仕返しを止められる生き物はいない。これはわたしの持論だがね、ひとは傷つけ合うようにできてるんだよ。人は、復讐を諦められない。

朝になってわたしが君の視界から消えて、君が最高だと思う用心棒を雇って、そして君は今日の恐怖を忘れる。復讐への欲望が君の心を塗り替えてしまうんだ。


まあいい。

どっちにしろ君、残念だけどもう君の物語はここで終わりだ。黙り続けて、自殺タイマーを進めるメリットはどこにもないだろ。


だから、とにかくおしゃべりを続けようじゃないか。おしゃべりが続いている間は命も続く。小さな千夜一夜物語さ。それに、話しているうちに見回りの近衛兵あたりがやってくるかもしれない。

君にとって、わたしがおしゃべりであることは、まあ、たしかにそのせいで死ぬ運命になってしまったわけだから一概に手放しで「良い」とは言えないけどさ、基本的には歓迎すべきことだと思うんだよ。


それでさ、君、彼女に一体何をしたんだい。聞かせて欲しいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ