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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(18)

「わたし、このところ人の梱包ばかりやってる気がするな」


メアリ・ハニカムウォーカーはぶつくさ呟きながらダークエルフを椅子に固定していた。やはり、纏っていたマントに何か秘密があったのか、外套を剥がされて身一つになった彼女は掌と足に火傷を負い、刺された左手は再生する様子はない。


プラムプラムは脚立を使って丸太罠を天井に戻している最中だ。


「ねえプラム、わたし今まで気軽にお邪魔してたけど、この店の肉って何割かこういう、不幸な物取りの人とかが原材料になってるとかそういう怖い話じゃないよねえ?」


猿轡をかまされたダークエルフが身をよじって暴れる。


「ダメダメ。別にこね肉になるのが決まったわけじゃないんだから、大人しくしてた方がいいと思うな」


暗殺者が言い聞かせながら拘束を補強していると、天井の穴から頭を戻して、プラムプラムは迷惑そうな声を出した。


「ちょっと、変な噂立てるのやめてもらえますか。安定供給されない上に味の保証もない素材で嵩上げするほど、あたしの商売は軽くないのよ」

「おや、よかったね。少なくともお肉になる未来はないらしいよ」

「むぐ!むう!……!」


相変わらず暴れるダークエルフの耳元で暗殺者が何かを囁くと、大きく目を開いて彼女は動きを止めた。作業を終えたプラムプラムが脚立から飛び降りる。


「ちょっとメアリ、何言ったの」

「いや、まあ、別に、ンフフ、大したことじゃないよ」

「ダメでしょ、あんまり怖がらせたら。あんまり注文はしてくれそうにないけど、お客さんなんだから」

「それよりさ、ちょっと物騒が過ぎるんじゃない、この店。天井の罠だけじゃなくて、何、さっきの。邪神かなんか飼ってるのかな?」

「失礼な」


ダークエルフは椅子の上、体の前で両手を交差した格好で、右手を左足首に、右手を左足首に拘束されている。怯えた顔はしているが、絶望した顔ではない。かと言って噛み付くような反抗心を秘めた顔でもない。それは、ただひたすらに「不安」なのだ。

ちらっとプラムプラムはダークエルフに目をやり、ため息をついて向かいのテーブルに腰掛ける。


「熱とは振動だ、って言ったでしょ。それの応用なんだよ。ある種のエネルギー波を当てると、水分は見えないくらい細かく振動する。一定以上の強さになると、水分は、エネルギーを熱として蓄えるんだね。色々試してみたけど、やっぱり水分のある肉みたいな、形のあるものの方がチンチンに温まるみたい。そして、ある程度よりエネルギーが溜まると、大抵のものは爆発する。内側からね」


プラムプラムは指をくるくるとまわした。


「これのいいところは、準備さえしておけば魔素がなくても発動できるってこと。あと、わかってても避けられない」

「この店って、そんなに治安悪いわけ?あんなおいしいもの出してもらっておいて、食い逃げしようってお客がそんなにたくさんいるとは思えないんだけど、っていうか、そもそも酒場に罠って要るのかな?」

「いや、聞いてよ。その、これ、すごい技術なんだよ」


プラムプラムは、トラブルの話をしている時と似たような、うっとりした表情で説明を始めた。


「これね、もともとは実は新しい調理法がないかって試してる時に見つけたんだ。黄身だけ茹でた茹で卵とか、そういう珍しいものができないかなとか思ってさ。まあ、結局それはできなかったんだけど、でも、新しいヒントにはなって、色々試してたんだよ」


意気揚々と説明していた店主が声を潜める。


「一度、どうしようもないくらいたくさん、エラグ虫が湧いたことがあってさ。あんまりムカついたから、“部屋ごと限界まであっためてみたらどうなるのかな”って思ったんだよね」


ハニカムウォーカーは目を丸くする。


「結果、潜り込んでたネズミは熱しすぎて爆発した。エラグ虫は卵ごと黒コゲ。これは狙い通り。まあ、加熱範囲を広げすぎて食材もダメになったし、ちょっとボヤも出た。最初のうちは爆発したネズミの掃除とか、まあまあ大変だったけど、調整するうちに色々コツをつかんでね。以来、定期的に店ごとやることにしてんの」

「これ、罠目的で作ったんじゃないの!?」

「へへへ。そうなんだよ。丸太罠は、まあ、罠だけどさ」

「そっちは罠か」

「まあね。ただ、今やこっちのほうもちゃんとした兵器になるまであと一歩と言ってもいい」


店主が照れたように笑うポイントは、少しおかしい。

エネルギー波に指向性を持たせたり、発動する高さを制限したり、地味だけど調整が大変なんだよ、と得意げに語る横で、拘束されたダークエルフは嫌そうな顔をしている。


「まあ、あたしは料理するには昔ながらの、火を使う方が好きなんだけどね。でもこれはこれで便利な技術だよ。あたしのアーティファクトとの相性もいいし」

「煮物とかにはなんだか、相性が良さそうな技だけど」

「あ、鋭い。試してみたら下拵えの時間がこれもう、段違いに楽」


女二人はしばらく楽しそうに話していたが、ふ、とまるで示し合わせたようにダークエルフの方を向いて声を揃えた。


「さて、そろそろ拷問を始めようか」

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