「敵、敵の敵、敵の味方」(15)
「正々堂々って、ドア吹き飛ばしての奇襲だったし、問答無用だったし、死んだフリだって、いや、実際に死んでたわけか、ややこしいな。まあともかくこっちだって不意打ちで頭殴られてるし、あれを正々堂々って言われたら世の中の略奪や破壊は大体合法って言ってもよくなっちゃうと、わたしは思うなあ!」
悲鳴のような暗殺者の抗議。プラムプラムはそれを受けてコツコツと箱を指で叩く。
「そうよね。赤襟一族の戦い方かっていうと違和感が残る。ていうかそもそも、鎧着込んでる時点であり得ないよ」
「なに、赤襟一族って蛮族のかたがたなの?」
「蛮族、ではないけど軽装でのラフファイトが売りよ。あたしは交流はなかったけど、男の子は憧れるんじゃない?ブラッディカラー。野蛮だけど、ある種の魅力はあるよね」
「ただ、蛮族だって冬になれば服を着る。それだけでは確証にはならない」
「そう。結論を出すのに必要なピースはもっと別のとこね。あたしの知ってるゲッコは、少なくとも"生きてた"」
武闘派で鳴らした赤襟一族、次期当主を目されていた人物がロイヤルガードの鎧を纏い、一族らしからぬ動きを見せた。
その事実が指すのは割と単純な結論と言ってもよかった。
2人は顔を見合わせて頷いた。
「やっぱり、もともとゲッコは死んでいて、その死体を動かしている誰かが居た、って考えるべきだね」
メアリ・ハニカムウォーカーが呟くとプラムプラムはもう一度頷いた。
「ってなるとさ、さっき言ってた『宮廷の陰謀』の話。どうしてもそこに結びつくよね」
「いやだな。話が大きくなってきた…」
「そういえばこの間、宮廷で人が死んだね。あと、誰だったか忘れたけど、会議内でまた決闘も起きてた気がする。ん?どうしたの?」
「なんでもないよ」
「そう?とにかく、赤襟は宮廷会議にほとんど参加してなかったはず。情報が少なすぎて何が起きてるのかは分からないけど、全部関係してる気もするな。なあんか、毎年何かしら揉めるよねえ、この国」
暗殺者は聞きながらしばらく真剣な顔になって、それからまた目を伏せる。他所を向いて話を続けるプラムプラムは気に留めなかったようだ。
「どっちにしてもさ、こちらから何か行動を起こさないと受け身のままだよね」
プラムプラムは保冷箱をこつこつと叩きながら暗殺者を見た。
「あたし、まあ、成り行き上しっかり巻き込まれたわけだけど、メアリはどうする?とりあえずその依頼者さんを取り戻しに地下牢獄襲撃したりしちゃう?宮廷会議のメンバー、誰か拐ってみる?ある程度は付き合っちゃうよ?」
暗殺者は静かに微笑みながら首を振った。
「そうだね」
「どうしたの」
「地下牢の方も心配ではあるけど、彼にはもう少し我慢しててもらおう。この国の牢なら、変な気でも起こさない限り、むしろ外より安全でしょ。虐められることもないだろうしね。それよりはまずは身元が分かったなら、少しでも早く遺族に返してあげたいかな。首」
プラムプラムは目を丸くする。
「返す…すごいこと考えるね」
「だって、かわいそうじゃない。名前を知った相手の死体をドブに捨てる程、わたしは薄情じゃないよ。それが天覧試合で何勝もしている勇者のものなら余計に。操られているならなおさらのこと」
「メアリ、赤襟の根城に、嫡男はわたしが殺りました、って渡しに行くつもり?」
「まあ名乗るのはどうかと思うけど、首自体は返してあげたいよね。これは、守るべきマナーだとわたしは思うんだよ。あと、最初に殺したのはわたしじゃない。わたしが問われるべきなのは、死体損壊だっけ、とにかくその罪だよ。それについては、謝るチャンスがあったら謝ろうと思う」
「クレイジー」
言葉と裏腹にプラムプラムは楽しそうな顔になった。




