「敵、敵の敵、敵の味方」(14)
「まあ、無駄だとは思うけど、彼らと折り合いを付けられる可能性が残ってるかどうか、考えてみようか」
プラムプラムは呟きながら、すでに全面抗争を予感しているような顔だ。頬は染まり、何かの算段をしているように見える。
「もう一回、詳しく決闘の時の話を聞かせて。ええと、いないとは思うけど、その時、立会人は居た?」
「うん……わたしの行動を証言してくれるひとは、いると言えばいるけど、立会人ではないね。そもそも、決闘じゃない。あ、正当防衛ではあるんだよ。たぶん。…ちょっと自信ないけど、その、大体正当防衛って言っていいと思う」
洗いものをしながらハニカムウォーカーは天井に目線を逃がして答えた。まあ、後ろから首を折ったんだけどね、と聞こえないくらいに小さく付け足す。
「正確に経緯を話すと、なんて言ったらいいものかな。…シンプルには、相手がわたしか、わたしの依頼人を殺そうとしてきたから返り討ちにしたんだ。相手がどうしてわたしたちを殺そうとしてきたのか判らないし、わたしが先制することになった経緯については弁解したいけど、ただ、確かに客観的に見ると先に手を出したのは確かにわたしではある。事実は事実だね。誤魔化すつもりはないよ」
「後ろから不意打ちか…」
腕組み。呟くような付け足しは、しっかり聞こえていたようだった。
「まあ、後腐れもないように一撃で倒したつもりだったから油断しちゃったんだ。でも普通考えられるかい?完全に頸を折った相手がもう一度立ち上がってくるなんてさ。…赤襟一族って、みんな生まれつきふたつ命持ってるわけ?」
洗い物を終えた暗殺者が手を拭きながら戻って来た。
「とにかく考え事をしているうちに、背後から起きてきたそいつに一発、いいのを貰ってわたしは倒れた。名のある武芸者だったっていわれたら納得するよ。喰らったわたしは軽く飛んだし、しばらく起きられなかったもの」
「二人で戦ったって言ってなかった?」
「そうだね。最初はノビてたけど、依頼人と二人だよ。わたしが倒れている間にその依頼人が制圧してくれて、わたしが最後、頸を落とした。結局、わたしが依頼人に命を救われた形になってしまった。手を汚させるつもりはなかったから、少し悪い事をしたと思ってるよ。真面目なひとみたいだし」
ハニカムウォーカーは小さくため息をついた。プラムプラムが上目遣いで彼女を見る。
「二対一で後ろから不意打ちか…」
「応戦だよ。まあ、先に手を出したのは確かに否定できないけど」
「そうかもしれないけど、メアリ。赤襟一族のモットー知ってる?」
相手が首を振るとプラムプラムは、だよね、と呟く。
「後学のために、教えてもらえるとうれしいね」
「うん、あたしも好きな言葉だけどなかなか守れないやつ。…『正々堂々』」
「ちょっと待ってよ」
暗殺者は口を尖らせた。
「わたしは、まあ仕方ないと言えば仕方ないけど、あっちだって全然守ってないじゃない!」




